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Ⅳ オリンピック代表
6 由佳のプレゼン
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大阪の長居陸上競技場で行われた日本選手権に出場した。
五千にエントリーし、14分28秒で2位。ベテランの鈴里さんに2秒差で負けた。
これで五千も一万もB水準は突破した。
東田は千五百で3分48秒。今年の五十傑に入れると言って喜んでいた。
由佳は看護学校の試験が近いということで来てくれなかった。
もし応援に来てくれていたら結果は違っていたかもしれない。
まだ怒っているということはないと思うが。
結局JOCはロンドン五輪では千五百を捨て、五千と一万で鈴里洋介選手を選んだ。
マラソンでは、すでに福岡国際で森藤選手、東京マラソンでは高井選手が内定している。
二人は、実業団やプロとして活躍しており、前評判もその二人に集まっていた。淳一についてマスコミの評価は一致して低く、『期待の新星』や『19歳で金星』とかしか報道されなかった。
吉泉教授から、シューズ工場の研究所に行くように連絡があった。
ロンドン行きが決まり、人見さんからお祝いのメッセージと花束を頂いている。
「一緒に夢を見ましょうか」という彼の言葉は忘れていない。貰った靴はすでに十足を越えている。
当日は由佳も来ると聞いて首をかしげたが、監督はもう彼女には連絡済みとのことだ。
いつも頭越しに決められる。場所は大会議室。
おそらく他の選手も入れた壮行会だと思っていた。
由佳と工場に行くと、入口に『スポーツ生理学会臨時総会』の立て看板があった。
工場関係者とスーツ姿の人が数十人。大学からは監督と主将、東田などが来ていた。
不思議に思いながら、由佳と一緒に入場すると大きな拍手で迎えられた。
まず所長さんの挨拶があった。
「本日は、倉本淳一君がオリンピックのマラソンに出場することに関して、彼の身体能力やトレーニング方法を多角的に検討し、今後の指導に生かすべく討議を行っていきたいと存じます」
本当の研究会だったのか。聞いていなかった。
次に吉泉教授から、映像やグラフを使いながら淳一の身体能力について説明があった。
「例えば倉本選手の最大酸素摂取量は78.8mlで少なくはないが、とりわけ多いとも言えない。では彼の群を抜いた走りはどこから来ているか。それを探ることが今日のテーマです」
以前靴の減りを指摘された、あの時のランニングシューズの写真が写された。
捨てる前にもう一度見せろ、と言われて渡したままだった。
「ほとんどの日本人選手は、かかとから着地し、前足の外側を踏みしめるため、左右とも外側の減りが大きくなるのですが、彼は逆に内側が減っている。つまり現在活躍しているアフリカ選手と同じくつま先から着地していることが推察されます。もし彼が中学・高校から陸上を始めていたならば、指導者から走り方の変更は、間違いなく行われていたことでしょう」
自分のことなのに現実感が薄い。走る時に跳ね上げるより今のすり足走行の方が、背の高い淳一にとって消耗が少なく、足へのダメージが小さいそうだ。
次に朝に走っている淳一の姿が画面に現れた。いつどこで誰が撮ったんだ。
彼女が自転車で淳一の前を走り、片手で指示している映像が流されている。
割と最近のようだ。二人だけの秘密じゃなかったのか。唖然として自分の走る姿を眺めた。
監督が由佳を指さした。
「このコースを開発し、彼を全面的にサポートしている三田島由佳さんです」
由佳がパソコンの前に行き、手慣れた様子で操作すると、画面が変わり、いつものランニングコースの地図が出て来た。区切られたAからFまでのコースタイムが何か月分もの表になり、グラフにして映し出されていく。あっけにとられて見ていたが、彼女の説明は何もない。しかし記録が徐々に上がっていることは分かった。
細かなデータがグラフ化され、分かりやすく映し出されていく。
走るフォームについても、どんな指示がなされたか、その結果どのように走りに影響したかの文章が次々出てきた。本当にこれを由佳が作ったのか?
まとめの画面になった。
1.多様な動きができるコースを用意する。
2.記録や走り方を毎回検討し、次の日に生かす。
3.効果的な筋トレやストレッチ、マッサージを継続的に行う。
彼女は画面をポインタで指し示すだけだが、よく理解できた。
プレゼンなんて一体いつ練習したんだ。俺には何にも言わなかった。
確かに聞かれても役には立たない。彼女を誇らしく思いながらも、自分の知らない由佳を見ているようで、何とも複雑な気持ちにとらわれた。
五千にエントリーし、14分28秒で2位。ベテランの鈴里さんに2秒差で負けた。
これで五千も一万もB水準は突破した。
東田は千五百で3分48秒。今年の五十傑に入れると言って喜んでいた。
由佳は看護学校の試験が近いということで来てくれなかった。
もし応援に来てくれていたら結果は違っていたかもしれない。
まだ怒っているということはないと思うが。
結局JOCはロンドン五輪では千五百を捨て、五千と一万で鈴里洋介選手を選んだ。
マラソンでは、すでに福岡国際で森藤選手、東京マラソンでは高井選手が内定している。
二人は、実業団やプロとして活躍しており、前評判もその二人に集まっていた。淳一についてマスコミの評価は一致して低く、『期待の新星』や『19歳で金星』とかしか報道されなかった。
吉泉教授から、シューズ工場の研究所に行くように連絡があった。
ロンドン行きが決まり、人見さんからお祝いのメッセージと花束を頂いている。
「一緒に夢を見ましょうか」という彼の言葉は忘れていない。貰った靴はすでに十足を越えている。
当日は由佳も来ると聞いて首をかしげたが、監督はもう彼女には連絡済みとのことだ。
いつも頭越しに決められる。場所は大会議室。
おそらく他の選手も入れた壮行会だと思っていた。
由佳と工場に行くと、入口に『スポーツ生理学会臨時総会』の立て看板があった。
工場関係者とスーツ姿の人が数十人。大学からは監督と主将、東田などが来ていた。
不思議に思いながら、由佳と一緒に入場すると大きな拍手で迎えられた。
まず所長さんの挨拶があった。
「本日は、倉本淳一君がオリンピックのマラソンに出場することに関して、彼の身体能力やトレーニング方法を多角的に検討し、今後の指導に生かすべく討議を行っていきたいと存じます」
本当の研究会だったのか。聞いていなかった。
次に吉泉教授から、映像やグラフを使いながら淳一の身体能力について説明があった。
「例えば倉本選手の最大酸素摂取量は78.8mlで少なくはないが、とりわけ多いとも言えない。では彼の群を抜いた走りはどこから来ているか。それを探ることが今日のテーマです」
以前靴の減りを指摘された、あの時のランニングシューズの写真が写された。
捨てる前にもう一度見せろ、と言われて渡したままだった。
「ほとんどの日本人選手は、かかとから着地し、前足の外側を踏みしめるため、左右とも外側の減りが大きくなるのですが、彼は逆に内側が減っている。つまり現在活躍しているアフリカ選手と同じくつま先から着地していることが推察されます。もし彼が中学・高校から陸上を始めていたならば、指導者から走り方の変更は、間違いなく行われていたことでしょう」
自分のことなのに現実感が薄い。走る時に跳ね上げるより今のすり足走行の方が、背の高い淳一にとって消耗が少なく、足へのダメージが小さいそうだ。
次に朝に走っている淳一の姿が画面に現れた。いつどこで誰が撮ったんだ。
彼女が自転車で淳一の前を走り、片手で指示している映像が流されている。
割と最近のようだ。二人だけの秘密じゃなかったのか。唖然として自分の走る姿を眺めた。
監督が由佳を指さした。
「このコースを開発し、彼を全面的にサポートしている三田島由佳さんです」
由佳がパソコンの前に行き、手慣れた様子で操作すると、画面が変わり、いつものランニングコースの地図が出て来た。区切られたAからFまでのコースタイムが何か月分もの表になり、グラフにして映し出されていく。あっけにとられて見ていたが、彼女の説明は何もない。しかし記録が徐々に上がっていることは分かった。
細かなデータがグラフ化され、分かりやすく映し出されていく。
走るフォームについても、どんな指示がなされたか、その結果どのように走りに影響したかの文章が次々出てきた。本当にこれを由佳が作ったのか?
まとめの画面になった。
1.多様な動きができるコースを用意する。
2.記録や走り方を毎回検討し、次の日に生かす。
3.効果的な筋トレやストレッチ、マッサージを継続的に行う。
彼女は画面をポインタで指し示すだけだが、よく理解できた。
プレゼンなんて一体いつ練習したんだ。俺には何にも言わなかった。
確かに聞かれても役には立たない。彼女を誇らしく思いながらも、自分の知らない由佳を見ているようで、何とも複雑な気持ちにとらわれた。
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