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Ⅳ オリンピック代表
24 凱旋記者会見
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目を覚ますと、由佳はパソコンに書いた文章を見ながら口話で話す練習をしていた。
「何の練習?」
「インタビューされた時、答えることを考えている。ジュンは大丈夫?」
前と一緒でいいだろう。銀メダルぐらいで、記者会見なんかあるとは思えない。
彼女は、いつもくくってある髪をおろしていた。そういえば口紅もしてあり、普段とは違う。
成田空港に午後4時着。
つくば市の大学にいる野島に連絡しているので、久しぶりに会うのが楽しみだ。
3人が国際線出口を出ると、カメラの放列が待ち構えていた。
フラッシュが一斉に光り、拍手も聞こえる。ものすごい数の人々が並んでいた。
後から誰か有名人が来るのか?まぶしくて顔をしかめながら進んだ。
「銀メダルおめでとう」「倉本選手」「三田島さん」と言う声が聞こえた。
俺たちを出迎えてくれているのか。何でだろう?
大河原コーチが走って来た。別の二人のマラソン選手と昨日帰国したはずだ。
「何だその服装は。帰国したら、ここで記者会見があるのは当たり前だろう。何でユニフォームに着替えてこなかった。そんなこと常識だろうが」
一瞬呆気にとられたが、返事もせずに歩き出した。
「待て。連絡しなかったのは悪かった。記者会見ではマスコミ各社からあの女の子も出せと言われている。君のコーチだったんだろう?いいな」
何で今頃。頭に来て言い返した。
「疲れているし、ユニフォームも着てないからパスします」
彼女と母親は、二人のやり取りを見て心配そうな顔をしている。
「わかった。怒るな。その恰好でいい。しかし記者会見は必ず二人で頼む」
由佳に記者会見に出るかを聞くと、あっさりうなずいたので拍子抜けした。
彼女を守るため、人前には出さないつもりだったが、そんなには気にしていないのか。
記者会見場は、広い部屋に大勢の記者とテレビカメラがびっしり並んでいた。
由佳は淳一にくっつくように右に座った。さすがに緊張しているようだ。
カメラのほとんどは彼女ばかりを狙っている気がする。
「今から倉本選手の銀メダル獲得、凱旋記者会見を始めます。私は彼ならやってくれると、行く前から期待していました。それが実現したのは望外の喜びです。ここには私が依頼して、彼のコーチである三田島由佳さんにも来てもらいました」
一斉に手を挙げた記者の中から、大河原さんが指名した。
「倉本選手おめでとうございます。銀メダルを取られた感想をお聞かせください」
また同じ質問か。
「監督と大学の仲間たちや応援してくださった方のおかげです。それに僕はメダル、メダルとあおられなかったから、他の選手より楽だったと思います」
表情を変えずに答えた。付け足した言葉で、会場の雰囲気がが少し硬くなった気がする。
「銅メダルが銀になったことについてはどう思われますか」
「僕にとってはどちらでも同じです」
「走り終わってからの動画を見ると三田島さんの前で謝っておられましたね。金メダルでなければだめだということですか」
質問もシビアになって来た。小さくうなずくだけで答えなかった。
質問者が変わり、女性のリポーターらしき人がマイクを持った。
「亡くなられたお母様に何と報告されますか」
何でそのことを知ってるんだ?シャッターの音が立て続けに聞こえた。
泣くとでも思ったのだろうか。自分でも顔が険しくなってきたのが分かる。
「ここで言いたくありません」
持っていた銀メダルを口でかめという注文。大事な物ですからと言って箱にしまった。
由佳の首に掛けてもいいと思っていたが、もうやめだ。
彼女との関係をしつこく聞かれたが、「コーチです」としか答えなかった。
彼女との出会いや、手話の事、今どう思っているとかの質問も全部無視した。
ロンドンの印象を聞かれ、「取材ばかりでどこにも行けませんでした」と答えた。
「もういいですね」
大河原さんにそういって、椅子から立ち上がった。
すると大河原さんに腕をつかまれ耳元でささやかれた。
「あの子になんかさせろ。手話でもかまわん。何のためにここに連れてきたんだ」
「何かさせろって、どういうことですか?」
「何の練習?」
「インタビューされた時、答えることを考えている。ジュンは大丈夫?」
前と一緒でいいだろう。銀メダルぐらいで、記者会見なんかあるとは思えない。
彼女は、いつもくくってある髪をおろしていた。そういえば口紅もしてあり、普段とは違う。
成田空港に午後4時着。
つくば市の大学にいる野島に連絡しているので、久しぶりに会うのが楽しみだ。
3人が国際線出口を出ると、カメラの放列が待ち構えていた。
フラッシュが一斉に光り、拍手も聞こえる。ものすごい数の人々が並んでいた。
後から誰か有名人が来るのか?まぶしくて顔をしかめながら進んだ。
「銀メダルおめでとう」「倉本選手」「三田島さん」と言う声が聞こえた。
俺たちを出迎えてくれているのか。何でだろう?
大河原コーチが走って来た。別の二人のマラソン選手と昨日帰国したはずだ。
「何だその服装は。帰国したら、ここで記者会見があるのは当たり前だろう。何でユニフォームに着替えてこなかった。そんなこと常識だろうが」
一瞬呆気にとられたが、返事もせずに歩き出した。
「待て。連絡しなかったのは悪かった。記者会見ではマスコミ各社からあの女の子も出せと言われている。君のコーチだったんだろう?いいな」
何で今頃。頭に来て言い返した。
「疲れているし、ユニフォームも着てないからパスします」
彼女と母親は、二人のやり取りを見て心配そうな顔をしている。
「わかった。怒るな。その恰好でいい。しかし記者会見は必ず二人で頼む」
由佳に記者会見に出るかを聞くと、あっさりうなずいたので拍子抜けした。
彼女を守るため、人前には出さないつもりだったが、そんなには気にしていないのか。
記者会見場は、広い部屋に大勢の記者とテレビカメラがびっしり並んでいた。
由佳は淳一にくっつくように右に座った。さすがに緊張しているようだ。
カメラのほとんどは彼女ばかりを狙っている気がする。
「今から倉本選手の銀メダル獲得、凱旋記者会見を始めます。私は彼ならやってくれると、行く前から期待していました。それが実現したのは望外の喜びです。ここには私が依頼して、彼のコーチである三田島由佳さんにも来てもらいました」
一斉に手を挙げた記者の中から、大河原さんが指名した。
「倉本選手おめでとうございます。銀メダルを取られた感想をお聞かせください」
また同じ質問か。
「監督と大学の仲間たちや応援してくださった方のおかげです。それに僕はメダル、メダルとあおられなかったから、他の選手より楽だったと思います」
表情を変えずに答えた。付け足した言葉で、会場の雰囲気がが少し硬くなった気がする。
「銅メダルが銀になったことについてはどう思われますか」
「僕にとってはどちらでも同じです」
「走り終わってからの動画を見ると三田島さんの前で謝っておられましたね。金メダルでなければだめだということですか」
質問もシビアになって来た。小さくうなずくだけで答えなかった。
質問者が変わり、女性のリポーターらしき人がマイクを持った。
「亡くなられたお母様に何と報告されますか」
何でそのことを知ってるんだ?シャッターの音が立て続けに聞こえた。
泣くとでも思ったのだろうか。自分でも顔が険しくなってきたのが分かる。
「ここで言いたくありません」
持っていた銀メダルを口でかめという注文。大事な物ですからと言って箱にしまった。
由佳の首に掛けてもいいと思っていたが、もうやめだ。
彼女との関係をしつこく聞かれたが、「コーチです」としか答えなかった。
彼女との出会いや、手話の事、今どう思っているとかの質問も全部無視した。
ロンドンの印象を聞かれ、「取材ばかりでどこにも行けませんでした」と答えた。
「もういいですね」
大河原さんにそういって、椅子から立ち上がった。
すると大河原さんに腕をつかまれ耳元でささやかれた。
「あの子になんかさせろ。手話でもかまわん。何のためにここに連れてきたんだ」
「何かさせろって、どういうことですか?」
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