沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅴ 由佳の選択

3 学校訪問

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早朝、寝ているところを、誰かに体を揺さぶられた。

「起・き・て」
トレーニングウエア姿の彼女が目に飛び込んできた。

「走・る・よ」
外は明るいが、まだ6時。ランニング用のシャツとパンツを投げつけられた。
また早朝練習をやるのか?オリンピックは終わったのに。

いつものコースを、今日はゆっくり二人でジョグ。曇っているがやはり暑い。
彼女は大きめの帽子にサングラスをかけている。
今日はコースを半周もせずに終了。マッサージもアイシングもしてくれなかった。当たり前か。
寺に戻ったら、由佳は風呂場でシャワー。淳一はシャツを脱いで庭のホースで水を浴びた。
一緒にできればいいのに

朝食は二人だけだった。まだ盆の内ということで、伯父さん達は檀家さん回りで忙しいそうだ。
今日と明日の休み、どこに行くか決めていないので相談しないといけない。

食べ終わると、相談する間もなく彼女を抱きしめ、まだひきっぱなしの布団に倒れこんだ。
その日は結局どこにも行かずじまい。出かける気もしなかった。

日曜日も二人で少し走った後、部屋でまた愛し合った。
高校卒業の時、萩田にもらった避妊具はあっという間になくなってしまった。どうしよう?

由佳と愛し合った後、向かいあって勉強するのは、何とも変な感じで落ち着かない。
机をはさんで二人とも寝てしまい、昼食を知らせに来た伯母さんをあきれさせたこともある。
変なとこを見られなくてよかった。
けれどもう伯母さんは淳一たちが何をしているか知っているような気もする。

週が明けて、まず小中の卒業校訪問。校長室で先生方と歓談し、後で職員とお決まりの記念撮影。
知っている先生はほとんどいない。色紙を出されたが書くのは断った。
『努力』だけでもいいと言われたが、俺の下手な字が多くの目にふれるなんてぞっとする。

伊吹東高校には、事前に連絡せず行った。
職員室をノックすると、若い男の先生が出てきた。
吉見先生に会いたいと告げると、めんどくさそうに答えた。

「君、卒業生?。吉見先生は今来客中。急ぐんなら連絡するけど」
それだけ言うと戸を閉めてしまった。俺のことを知らないのか。笑ってしまった。いい先生だ。
遠くから野球部のかん高い掛け声が聞こえる。

高校を出てまだ一年半か。高校生活がずいぶん前だったような気がする。
あの頃はバイトばかりで身も心もボロボロになっていた。
でも吉見先生は懸命に俺を助けようとしてくれた。

俺も今後、誰かを助けることができるのだろうか。
静まり返った廊下であれこれ考えた。

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