沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅴ 由佳の選択

22 再出発

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彼女を残したまま走りだした。

由佳と手話をしながら歩いた思い出の道。
くそっ。あいつ俺を捨てやがって。押さえ切れずに嗚咽しながら走った。
足が勝手に寺に向かう。

寺に着くと納骨堂の扉を開け、電気をつけた。
息を切らせながら、仏壇の鍵を開け、母と父の写真に見入った。
そこで自分の間違いに気が付いた。
違う。違う。違う。

ここは、由佳への恨み言をぶちまける場所ではない。何しに来たんだ俺は。
扉を閉じた。
もう出よう。俺は、いつもずれたことばかりしている。
本当に馬鹿で間抜けで大あほだ。気付くのがいつも遅すぎる。
よろめきながら外に出た。

薄暗くなった境内に、涙顔のみどりが突っ立っていた。
額に汗を浮かべ、肩で息をしている。
何でこんなところまで追いかけて来るんだ。

俺が好きなら何でもやってやるよ。
彼女を壁に押し付けて唇を重ねた。
少し塩辛いような味がした。

顔を離すと彼女の目から、あふれるように涙がこぼれ落ちた。
こんな俺なんかのために涙を流すのはやめてくれ。
突き放すように体を離した。
彼女は肩を震わせ、まるで小さい子が叱られた時のように声を上げて泣き出した。

こんな場所で、声を出して泣くのはやめてくれ。周りに聞こえてしまう。
手を引いてもう一度納骨堂の中に入った。
彼女の泣き声が大きく響く。仕方なく今度は優しく抱いて、背中をさすった。
彼女は、体が痛いくらい強く抱きついてきた。

「うち、前から好きな人と上を向いて口づけするんが夢やったん。大好きな先輩とできてよかった。ずっと何もしてくれへんからあきらめてた。さっきの先輩は怖かった。もう捨てられるかと思った。そやから必死に走って追いかけた」

淳一は、声を出さず泣きながら笑った。
彼女も笑いながらしゃくりあげている。
俺達、似ているな。

「顔を洗いに行こう。悪かったよ。もう二度とあんな言い方はしない」
大きく息を吸って、深いため息をついた。
今日からみどりと再出発だ。

彼女の濡れそぼった目を見つめた。二重でこんなに大きな目をしてたんだな。
濡れた頬の涙をぬぐった。親指がやわらかい唇に触れた。
その瞬間、彼女に思いっきりその指を噛まれ、顔をしかめた。
また彼女の大きな目から涙が溢れてきた。
みどりは、歯型の付いた淳一の指を自分の胸に押し付けた。

「私、今までどんだけ・・・・。もう先輩、放さへん」
指に血がにじんでいた。でも構わない。君が心を痛めていることを、知らないふりをしていた。
愛おしい気持ちで胸が一杯になった。彼女を抱き寄せると、豊かな胸の膨らみを感じた。

どちらかのお腹がきゅっと鳴った。
「腹が減ったな。何か食べに行こう。けどこんな顔して店に行くより、俺の家に来るか?」

納骨堂の鍵を掛けていると、彼女が電話をしている声が聞こえてきた。 
「高校の友達のとこに泊めてもらう。何言うとん。そんなんと違う。お母ちゃんのあほ」
彼女に、うちに泊まれって言ったかな?まあいいけど。

携帯を持ったまま、みどりは困ったような顔をしている。
「母さんに電話したら、すぐ帰りなさいと言われた」
思わず笑ってしまった。娘の外泊なんか許さない家なんだな。

「今日、泊まるのはだめだって言われたの?」
「違う。服も下着も着替えなかったら嫌われるって。先輩の名前なんか出してないのに。ごめんやけど、今からうちの家に来てくれる?」

もちろんその日、彼女の家になんか行かなかった。
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