沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅴ 由佳の選択

23 したいようにする 

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みどりと結ばれた日から気持ちを切り替えた。

まずスマホの機種変更をして、電話番号もアドレスも変えた。
由佳の写真や交信記録が入ったデータは移さなかった。

ただそれを捨てるには忍びず、前のスマホと充電器を母の形見のハンドバックに入れた。
もう見ることはないと思いながらも、捨てる踏ん切りがつかなかった。
みどりには話していない。多分「そんなこと気にせんとき」と言うのに決まっているだろうけど。

みどりとは、新しく始めたLINEで連絡し合うことにした。
由佳のメールは、必要なことを淡々と伝えることが多かった。
短い言葉で要点を伝えるのは手話と似ているかもしれない。

LINEでみどりは、一日何回も送ってくるし絵文字のオンパレードだ。
さすがに返事はあまりしていないが、大して気にしていないようだ。

みどりは毎週末、淳一の部屋に泊まっていくようになった。
スペアキーを渡しているので、夕食を作って待っていてくれることもある。

部屋には化粧品や着替えなど、彼女の私物も増えてきた。
驚いたのは植木鉢だけでなく、小さなプランターを買ってきて、ベランダで花と野菜を育て始めたことだ。本ばかり並ぶ無味乾燥な部屋が、明るく所帯じみた様相を見せ始めた。

いっそ一緒に暮らせないか考えてみた。
シューズ会社との契約金は年と大学からの特別奨学金で、何とかバイトをしなくても生活はできる。一緒に住むと彼女の奨学金もいくらかアップするはずだ。
同棲のため自宅外通学というのは変な気もするが、彼女に同居を提案してみた。

「私やって淳ちゃんとずっと一緒におりたい。だから前、家を出たいってお母ちゃんに言うたけど、それだけはあかんて怒られた。私が神戸におらんかったらよかった」
まあ仕方ないか。こんなことを浅岡先生にお願いをしに行く勇気はない。

「それにうちの大学、これから泊りがけの実習が増えて半端なく忙しくなるねん。淳ちゃんどころか、自分の食事も作られへん」
「じゃあ俺が作るよ。レパートリーは少ないけど、料理ができるのは知ってるだろ?」
「うん。けどそんなこと母ちゃんに知れたら、また怒られそうや」

みどりが泊まった日の朝は、大抵彼女に起こされる。
「起きて、淳ちゃん」
その都度、由佳に同じように起こされたことを思い出してしまう。みどりには言えない話だ。

朝は、雨でない限り近くの川べりを、山に向かって一緒に走ることにしている。
決めたコースは約4キロ。2、3周目は一人で走り、帰宅してアイシングやマッサージをしてもらう。
その時、我慢できず彼女を抱いてしまうことがあった。
これが走りにどのように影響するか知らないが、もうしたいようにする。

由佳にこんなことをしていたら、オリンピックに行けていただろうか。


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