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Ⅴ 由佳の選択
25 風と共に去りぬ
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彼女と本の話をしたことがある。
「母ちゃんが、淳君と付き合うんやったら、本を読まんと話があわへんようになるから、いつか捨てられるっておどかすねん。だから無理やり読まされて感想まで言わされる。私切れそうや」
笑ってしまった。みどりと付き合いだしてから、声をあげて笑うことが増えたなと思う。
「そんなことで捨てたりしないよ。でも何を読んでるの?」
「お母ちゃんの古い本で女性作家が多いねんけど、どれも暗いし悲しい話が多いから嫌いや。最近読んだ『ジェイン・エア』は長いし、しんどかったあ」
『ジェイン・エア』か。主人公は孤児だったな。
ひどい人生を送るが、最後はハッピーエンドでほっとしたことを覚えている。
「私のみどりという名前、樋口一葉の小説からとってつけたんやって。うちあんまりこの名前すきやないけど、今度読もうと思ってる。何の本なん?」
『たけくらべ』だったな。確か幼馴染の三人が成長して、少女は売られ、主人公は坊さんになる切ない話だった。
また小説も読んでみたいと思った。彼女となら気楽に本の話ができそうだ。
みどりの母親、浅岡先生に夕食に招かれた。
食後『風と共に去りぬ』のDVDを見ることになった。
アメリカ史をたどるような内容だが、とても長くて途中うとうとしてしまった。
昔の映画には途中に休憩時間があることを初めて知った。
最後の『トゥモロー イズ アナザーデイ』のシーンで先生は、目を赤くしていた。
見るのは六回目だそうだ。
淳一には、困難に立ち向かう主人公のスカーレットが、由佳に重なって見えた。
彼女もたった一人で渡米して、夢を実現しよとするタフな女性だ。
俺に守られて後をついてくるタイプではない。
くよくよ悩んでばかりの俺とは、やっぱり合わなかったのか。
「淳一さん、今晩、泊まる?」
浅岡先生に言われて、もう11時ということに気が付いた。
帰れないことはないがおっくうな気もした。みどりがはしゃいで言った。
「やったあ。淳ちゃん、うちの部屋に泊まってよ。明日、日曜やから問題ないやん」
「ほんなら布団出すね。パジャマはみどりのお古で入るかなあ?」
もう二人のペースに完全に取り込まれている。遠慮のない言葉が飛び交うこの狭い空間が、何とも言えず心地よく感じる。俺にとって無理がない。
浅岡先生は、司書教諭と言っても臨時採用だったそうだ。
離婚してからの生活も大変だったと聞いた。
みどりも高校から奨学金を受け、大学に入ってからも、土日や長期の休みはコンビニでバイトをしていた。今は授業が忙しく、おまけに淳一と付き合っているのでバイトをする暇がない。
申し訳なくて、食事の支払いなどは淳一がやっていた。彼女は店で食べるのはもったいないと言って、家で作って食べることが多くなった。
風呂から上がると、冷たい紅茶を用意してくれていた。なんだか懐かしい味がした。
「この紅茶、高校の時に先生から何度かよばれたような気がします」
「覚えてくれてたん。高校の時、昼食時間によく図書室へ来てたでしょう。私、倉本君の生活が大変だと聞いてから、お茶とお菓子だけ用意してたんやけど」
それで、昼休みや放課後、図書室でお茶やクッキーをよばれていたのか。
「けどあなたもみどりも、貧乏育ちで食べ物には苦労してきたはずやのに、びっくりするほど背が高くなったねえ」
淳一は185cm。みどりは体重も身長も教えてくれないが、おそらく180近い。
「あんたらに子供ができたら、どんだけ大きくなるんやろう」
みどりが「あほ」と言ってクッションを投げつけた。
みどりの狭い部屋で二人して寝た。落ち着かないまま、気になっていることを聞いた。
「君は木ノ嶋という名前を何で変えなかったの?お父さんを忘れたくなかったからか?」
「ううん、違う。友達に、ああ親が離婚したから名前替わったんやって思われたくなかったから。けどもうええねん。どうせ次の名前決まってるし。いややわ、私からこんなこと言わせて」
「もう一つ聞くけど、みどりが俺んとこに泊まるのを、お母さんは何か言ってない?」
「何にも言われへんけど、最近、あんたきれいになったなあって言われる。私は何も変わってないと思うけど」
そういえば去年より、服装もメイクも野暮ったさが無くなってきた気がする。
「みどりは、前から美人だよ」
彼女は足を絡ませてきて小さな声で言った。
「する?」
まさかここではなあ。みどりの喘ぎ声は決して小さいとは言えない。
しばらくして彼女の寝息が聞こえてきた。眠れないまま目を閉じて考えた。
今この時間が幸せと言えるんじゃないだろうか。
由佳もこんな風にあの男性に抱かれているのかもしれない。
そうあってほしいとも思った。
君には幸せになってほしい。今の俺みたいに。
「母ちゃんが、淳君と付き合うんやったら、本を読まんと話があわへんようになるから、いつか捨てられるっておどかすねん。だから無理やり読まされて感想まで言わされる。私切れそうや」
笑ってしまった。みどりと付き合いだしてから、声をあげて笑うことが増えたなと思う。
「そんなことで捨てたりしないよ。でも何を読んでるの?」
「お母ちゃんの古い本で女性作家が多いねんけど、どれも暗いし悲しい話が多いから嫌いや。最近読んだ『ジェイン・エア』は長いし、しんどかったあ」
『ジェイン・エア』か。主人公は孤児だったな。
ひどい人生を送るが、最後はハッピーエンドでほっとしたことを覚えている。
「私のみどりという名前、樋口一葉の小説からとってつけたんやって。うちあんまりこの名前すきやないけど、今度読もうと思ってる。何の本なん?」
『たけくらべ』だったな。確か幼馴染の三人が成長して、少女は売られ、主人公は坊さんになる切ない話だった。
また小説も読んでみたいと思った。彼女となら気楽に本の話ができそうだ。
みどりの母親、浅岡先生に夕食に招かれた。
食後『風と共に去りぬ』のDVDを見ることになった。
アメリカ史をたどるような内容だが、とても長くて途中うとうとしてしまった。
昔の映画には途中に休憩時間があることを初めて知った。
最後の『トゥモロー イズ アナザーデイ』のシーンで先生は、目を赤くしていた。
見るのは六回目だそうだ。
淳一には、困難に立ち向かう主人公のスカーレットが、由佳に重なって見えた。
彼女もたった一人で渡米して、夢を実現しよとするタフな女性だ。
俺に守られて後をついてくるタイプではない。
くよくよ悩んでばかりの俺とは、やっぱり合わなかったのか。
「淳一さん、今晩、泊まる?」
浅岡先生に言われて、もう11時ということに気が付いた。
帰れないことはないがおっくうな気もした。みどりがはしゃいで言った。
「やったあ。淳ちゃん、うちの部屋に泊まってよ。明日、日曜やから問題ないやん」
「ほんなら布団出すね。パジャマはみどりのお古で入るかなあ?」
もう二人のペースに完全に取り込まれている。遠慮のない言葉が飛び交うこの狭い空間が、何とも言えず心地よく感じる。俺にとって無理がない。
浅岡先生は、司書教諭と言っても臨時採用だったそうだ。
離婚してからの生活も大変だったと聞いた。
みどりも高校から奨学金を受け、大学に入ってからも、土日や長期の休みはコンビニでバイトをしていた。今は授業が忙しく、おまけに淳一と付き合っているのでバイトをする暇がない。
申し訳なくて、食事の支払いなどは淳一がやっていた。彼女は店で食べるのはもったいないと言って、家で作って食べることが多くなった。
風呂から上がると、冷たい紅茶を用意してくれていた。なんだか懐かしい味がした。
「この紅茶、高校の時に先生から何度かよばれたような気がします」
「覚えてくれてたん。高校の時、昼食時間によく図書室へ来てたでしょう。私、倉本君の生活が大変だと聞いてから、お茶とお菓子だけ用意してたんやけど」
それで、昼休みや放課後、図書室でお茶やクッキーをよばれていたのか。
「けどあなたもみどりも、貧乏育ちで食べ物には苦労してきたはずやのに、びっくりするほど背が高くなったねえ」
淳一は185cm。みどりは体重も身長も教えてくれないが、おそらく180近い。
「あんたらに子供ができたら、どんだけ大きくなるんやろう」
みどりが「あほ」と言ってクッションを投げつけた。
みどりの狭い部屋で二人して寝た。落ち着かないまま、気になっていることを聞いた。
「君は木ノ嶋という名前を何で変えなかったの?お父さんを忘れたくなかったからか?」
「ううん、違う。友達に、ああ親が離婚したから名前替わったんやって思われたくなかったから。けどもうええねん。どうせ次の名前決まってるし。いややわ、私からこんなこと言わせて」
「もう一つ聞くけど、みどりが俺んとこに泊まるのを、お母さんは何か言ってない?」
「何にも言われへんけど、最近、あんたきれいになったなあって言われる。私は何も変わってないと思うけど」
そういえば去年より、服装もメイクも野暮ったさが無くなってきた気がする。
「みどりは、前から美人だよ」
彼女は足を絡ませてきて小さな声で言った。
「する?」
まさかここではなあ。みどりの喘ぎ声は決して小さいとは言えない。
しばらくして彼女の寝息が聞こえてきた。眠れないまま目を閉じて考えた。
今この時間が幸せと言えるんじゃないだろうか。
由佳もこんな風にあの男性に抱かれているのかもしれない。
そうあってほしいとも思った。
君には幸せになってほしい。今の俺みたいに。
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