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Ⅴ 由佳の選択
27 復帰第一戦
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陸上復帰後、初めてエントリーした県選手権大会が、7月にユニバー記念陸上競技場で行われる。
有力選手は札幌で行われている織田記念陸上に行っているから、知った顔はあまり見ない。
体も絞ったし、五千ならそこそこのタイムで走り切れるはずだ。
三田島医師から指導を受けたみどりのスポーツマッサージが、俺の走りを支えてくれる。
昼前まで降っていた雨はきれいに止み、競技場の芝生がきらきら光っていた。
電光掲示板に選手の氏名が映しだされていく。
『三田島淳一 六甲大』。スタンドの観衆に何の反応もない。うれしくなった。幸先良しだ。
二か所に分かれたスタートラインに立ち、来てくれているみどりを探す。
君の天性ともいえる明るさ。率直さ。けなげさ。見た目より気が弱く、本当は泣きむしな事。
おしゃべりで人のうわさに詳しい事。すべすべの頬。大きな二重の目。長く締まった手足。
豊満な胸。多分180cm近い身長。淳一と変わらない体重をとても気にしている事。
全部大好きだよ。
午後5時。陸上競技場の広いフィールドは、半分以上影に覆われてしまった。
昼間の暑さは和らぎ、時折り涼しい風も吹いている。
スタート位置に立ち、またスタンドを見た。みどりが手を大きく振っている。
君はどこにいてもわかるよ。今日は最後まで、俺だけを見てくれるはずだ。
今から君の視線を感じながら走る。
スタート直後から先頭に立った。
スタンド前の直線にさしかかる時、召集前にみどりの言った言葉を思い出した。
「先輩が優勝したら、美紀ちゃんがお嫁さんになってあげるんやって。私どうしょう?」
全力で走りながら笑いをこらえるのは苦しい。
付き合い出して一年近くになるのに、人前では、いつものように『淳ちゃん』と言うのは恥ずかしいそうだ。
俺だって話している時、勝手に手話をしていることがある。あんまり関係ないか。
洋二兄の長女、美紀ちゃんはもう6才になった。
連絡したので今日は家族で応援に来てくれている。
就職の決まった野路も、今つき合っている女性とどこかで見ているはずだ。
この後、お互いの彼女を紹介し合う計画になっている。
俺を気にかけてくれる人が沢山いる。
でも今日は、その人たちへの恩返しで走るのではない。
みどりのためだけでもない。
自分のために、自分の何かを吹っ切るために走る。
手堅く順位をまとめる試合にするつもりはない。
まるでシリトーの小説『長距離ランナーの孤独』の主人公になったような気分だ。
あいつも自分の何かを乗り越えるために走ったんじゃないのだろうか?
彼みたいに、レース途中から逃げ出すつもりはないけれど。
今のところスピードに乗っている。メインスタンド前の直線コースを先頭で駆け抜けた。
まだ3周目だというのに、もう最後尾の選手が見えてきた。巨大な退場ゲートが近づいて来る。
これは五千の走りではない。これでは力尽きて棄権するかもしれない。
みんながっかりするだろう。けれど足が止まらない。止める気もない。
3年前、あのゲート上にいたのは、制服姿の由佳だけだった。
今もスタンドのどこかの場所から、彼女に見つめられているような気がする。
軽快でリズムをを刻むような単調な音楽が流れている。
長距離走の時、いつも放送されるこの曲を君は聞いたことがないんだな。
有力選手は札幌で行われている織田記念陸上に行っているから、知った顔はあまり見ない。
体も絞ったし、五千ならそこそこのタイムで走り切れるはずだ。
三田島医師から指導を受けたみどりのスポーツマッサージが、俺の走りを支えてくれる。
昼前まで降っていた雨はきれいに止み、競技場の芝生がきらきら光っていた。
電光掲示板に選手の氏名が映しだされていく。
『三田島淳一 六甲大』。スタンドの観衆に何の反応もない。うれしくなった。幸先良しだ。
二か所に分かれたスタートラインに立ち、来てくれているみどりを探す。
君の天性ともいえる明るさ。率直さ。けなげさ。見た目より気が弱く、本当は泣きむしな事。
おしゃべりで人のうわさに詳しい事。すべすべの頬。大きな二重の目。長く締まった手足。
豊満な胸。多分180cm近い身長。淳一と変わらない体重をとても気にしている事。
全部大好きだよ。
午後5時。陸上競技場の広いフィールドは、半分以上影に覆われてしまった。
昼間の暑さは和らぎ、時折り涼しい風も吹いている。
スタート位置に立ち、またスタンドを見た。みどりが手を大きく振っている。
君はどこにいてもわかるよ。今日は最後まで、俺だけを見てくれるはずだ。
今から君の視線を感じながら走る。
スタート直後から先頭に立った。
スタンド前の直線にさしかかる時、召集前にみどりの言った言葉を思い出した。
「先輩が優勝したら、美紀ちゃんがお嫁さんになってあげるんやって。私どうしょう?」
全力で走りながら笑いをこらえるのは苦しい。
付き合い出して一年近くになるのに、人前では、いつものように『淳ちゃん』と言うのは恥ずかしいそうだ。
俺だって話している時、勝手に手話をしていることがある。あんまり関係ないか。
洋二兄の長女、美紀ちゃんはもう6才になった。
連絡したので今日は家族で応援に来てくれている。
就職の決まった野路も、今つき合っている女性とどこかで見ているはずだ。
この後、お互いの彼女を紹介し合う計画になっている。
俺を気にかけてくれる人が沢山いる。
でも今日は、その人たちへの恩返しで走るのではない。
みどりのためだけでもない。
自分のために、自分の何かを吹っ切るために走る。
手堅く順位をまとめる試合にするつもりはない。
まるでシリトーの小説『長距離ランナーの孤独』の主人公になったような気分だ。
あいつも自分の何かを乗り越えるために走ったんじゃないのだろうか?
彼みたいに、レース途中から逃げ出すつもりはないけれど。
今のところスピードに乗っている。メインスタンド前の直線コースを先頭で駆け抜けた。
まだ3周目だというのに、もう最後尾の選手が見えてきた。巨大な退場ゲートが近づいて来る。
これは五千の走りではない。これでは力尽きて棄権するかもしれない。
みんながっかりするだろう。けれど足が止まらない。止める気もない。
3年前、あのゲート上にいたのは、制服姿の由佳だけだった。
今もスタンドのどこかの場所から、彼女に見つめられているような気がする。
軽快でリズムをを刻むような単調な音楽が流れている。
長距離走の時、いつも放送されるこの曲を君は聞いたことがないんだな。
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