沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅴ 由佳の選択

11 すれ違い

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1月。彼女はカリフォルニア大学ノースリッジ校に入学ができた。

彼女が卒業する年、淳一は24で由佳は23才。大体、卒業して本当にすぐ帰国できるのか?
めずらしく日本語でメールが届いた。

「入学できて今はほっとしている。勉強についていくのは大変だけど、サポート体制がしっかりしているから心配はない。授業中、先生が話したことは、パソコンで読むことができるし、希望すれば手話のできる人がついてくれる。やることが多すぎて、睡眠時間が少なくなったけれど必死に耐えている。ろうの学生は多くて、友達もできて毎日が充実している。ジュンもガールフレンドを作って楽しんでね」

日本でもきちんとした支援体制があれば、一万キロもかなたに行かなくてすんだのに。
最近は、三田島医院に行くこともなくなってしまった。ともかく夏には会える。後、七か月の辛抱か。

2月。彼女が久しぶりにスカイプを使うと連絡をしてきた。

『ジュン。元気な顔じゃない。さみしいの?』
うなずいた。
『私に帰ってほしい?』
しばらく考えて首を横に振った。

『私、ボーイフレンドが3人できた。みんないい人。ロンドンのことを知っていてジュンに会いたいと言っている。一人はマラソン選手でサポートを頼まれた。ジュンも好きな人と毎日をエンジョイしてほしい。あなたの悲しい顔を見るのは嫌』
どう返事をしたらいいんだ。僕が一緒になりたいのは君だけなのに。

3月、吉泉教授から、会いに来るよう連絡があった。
「最近、陸上はどうしてるんだ?今や君は注目の的だから、レースはよく選んで出るといい。私の希望としては、大学対抗の競技会や駅伝には出てもらいたい。そんなに無理をしなくても活躍できるはずだ。ただ世界陸上クラスになると、期待が今の実力を上回ってしまうこともありえる。あえて言えば、年にマラソンは一つか二つでいいだろう。後はトラックで走りこみ、五千か一万、千五百でもかまわん。日本のトップアスリートと競って、スピード感覚を身に着けたらいい」

「今年もびわ湖毎日や東京マラソンからも招待状が来ているのですが、返事をしていません」
「いっそ海外に行くか?ロンドンやシカゴ、ベルリン。どこでもいい。賞金が付くし、彼女とも会えるかもしれんがどうだ?」

すごく心が動いた。しかし今の練習量では記録は期待できない。
完走ならできるかもしれないが、招待選手として責任を果たせる自信がない。
体を絞って来年くらい目指してみようか。
8月に行われるモスクワの世界陸上なんて考えてもいない。

「もう一つ、聞きたいことがある。由佳さんがアメリカにいる間、君の体調管理や練習計画はどうしてるんだ?」
考えてもいなかった。俺にとって陸上競技は終わったも同然だと思っていた。

「自分で出来る範囲でやろうと思っています」
「できれば彼女の代わりになる人を探した方がいい。いなければ、私に任せてほしい」
「誰か当てはあるのですか。」
「同じ陸上競技部で君のサポートをしてもいいという女性が複数いるが、どうする?」
まさか女子の陸上競技部員か。ありえないよ。

「8月に彼女が帰ってくるので、その時また相談します」
「その彼女から私に、君の後任を探すよう頼まれたんだ」
めまいがしそうな話だった。丁重に断ったが、由佳は何を考えているんだ。

人見さんから、今年は休んでもいいと言われている。
会社はリオのオリンピック出場をを期待しているみたいだが、およそマラソンで42kmを走るなんて気持ちは、どこを探しても出てこない。
会社との契約金は年120万円。
吉泉教授に安すぎると呆れられたが、走らなくてももらえるので、なんだか悪い気もしている。
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