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第14話

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 満は毎朝、1時間早く起きて5キロのジョギングを10キロの倍にし、週末にはフルマラソンを走った。
 インターハイの選手だった頃から比べると、もちろんタイムは落ちていた。
 フルマラソンを走り終え、腕時計を見る満。

 「ハアハア これじゃ全然ダメだ。せめて3時間を切らないと、 ハアハア 100位には入れない」


 食事はタンパク質、アミノ酸、疲労回復効果のあるビタミンB1を主体に摂取した。
 そして鉄、ビタミンCにクエン酸。
 運動の前後にはオレンジジュースを飲んだ。
 マラソンには心肺機能を高めることは重要だが、怪我や故障のリスクの防止、基礎体力とスタミナの向上も大切だ。
 特にインナーマッスルを鍛える必要がある。
 スプリットスクワット、スタンディングカーフレイズ、フロントブリッジにニートゥーエルボーなどを重点的に行った。


 「必ず100位以内に入って沙恵の愛を確かな物にして、必ず結婚してみせる」

 満は本気だった。




 休日、沙恵は満の実家を訪ねた。

 「先日はどうもありがとうございました。
 ちょっとよろしいですか?」
 「どうぞ上がって下さい」

 お父さんは私に冷たい麦茶を出してくれた。


 「息子から聞きました。あなたを傷付けてしまったと。
 すみません、親に似て不器用なもので、沙恵さんに上手く本心を伝えられなかったようです。申し訳ありませんでした。
 親の私が言うのもなんですが、満はやさしくて真面目な男です。
 今まで独身でいたのも、お亡くなりになった美佐子さんのこともありますが、沙恵さんのような女性に巡り合うこがなかったからだと思います。
 確かに沙恵さんと美佐子さんはお顔は似ているかもしれない、事実、私も驚きました。
 だが、もちろんあなたは美佐子さんではない。
 声も性格も、好みも人生観も異なります。
 息子はあなた自身に惚れたんだと思います。
 沙恵さんという素敵な女性に恋をしたんです。
 どうか息子を許してあげてやって下さい。このとおりです」
 
 お父さんは私に頭を下げてくれた。
 
 「お父さん、どうぞ頭を上げて下さい。
 私も大人気なかったんです。
 もう怒ってはいません。
 今日、ここへ来たことは満さんには内緒にして下さい。お願いします」
 「それを伺って私も安心しました。
 わかりました。今日、沙恵さんがここに来たことは息子には黙っておきます」
 「今日お邪魔したのは、美佐子さんのお墓の場所を教えていただきたくて参りました」
 「美佐子さんのお墓をですか?」
 「ええ、私もけじめをつけようと思いまして」




 手桶と仏花、御線香とお供えを携えて、私は美佐子さんのお墓を訪れた。


 「ここね?」

 私はお墓に柄杓で水をかけてお供えをし、仏花を飾った。
 御線香の束に火が付き難い。
 私はようやく御線香に火を付けて、手を合わせた。


 「私も美佐子さん同様、満さんを愛しています。
 横取りするようでごめんなさいね?
 最初、あなたと私が似ていると聞いた時はショックでした。
 私はあなたの代わりじゃないと思ったからです。
 今日は美佐子さんにお許しをいただきに参りました。
 私もいつこの世を去るかわかりません。
 でも精一杯、彼を支えてあげたいと思います。美佐子さんの分まで。
 だから許して下さい、あなたの愛した満さんを私も愛することを。
 お願いします。
 必ず、満さんをしあわせにしますから」

 私は再び手を合わせた。

 すると、どこからか美しいアゲハ蝶がひらひらと飛んで来てお墓にとまり、呼吸をするかのように静かに羽根を動かして私を見詰めていた。

 どうやら美佐子さんは私を許してくれたようだった。
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