9 / 9
最終話 雪降るマンハッタン
しおりを挟む
ニューヨークに来て半年が過ぎた。
大した仕事はまだ与えられてはいなかったが、NewYorkerたちの会話スピードには慣れて来た。
功介は無我夢中だった。
日本とは違い、ここでは何故そう思うのか? そしてその自分の意見がいかに正当性のあるものなのかを主張しなければならない。
この緊張感で毎日がヘトヘトだった。
「麗華さんに会いたい。そしてまたあのポワゾンの香りに包まれたい」
だが、ポワゾンと最後の夜、功介は約束させられた。
「いいこと? 功介から連絡してはダメよ、私から連絡するまで電話もメールも、そしてエアメールも禁止。
わかった?」
「どうしてですか?」
「あなたはまだ弱いからよ。強くなりなさい、功介」
そしてポワゾンからはまだ連絡はなかった。
美香からはエアメールが週一のペースで届いていた。
そして2週間前にも手紙が届いていた。
親愛なる功介へ
どう? そっちの暮らしには慣れた?
功介のことだから、金髪美人とよろしくやって
いるとは思うけど。
あの後、色々と考えてみました。
でもどうしても考えがまとまらず、小早川
さんに会いに行ってきました。
結論からいいますね? 完敗です。
あの聡明さ、美しさ、大人の女性としての余裕。
気品の高さ。
私はすっかり小早川さんに魅了されてしまいま
した。
ミイラ盗りがミイラになる? そんな気分です。
功介が惚れるのも無理はありません。
女性の私が憧れるのですから。
私、新しい恋をはじめました。
今年のクリスマスに結婚式を挙げる予定です。
ホントは功介に、ウエディングドレス姿の私
を見せたかったけど、諦めます。
功介、ニューヨークに旅行することがあったら
ガイドしてね?
私は小早川さんにはなれそうもありません。
功介、たくさんの素敵な思い出をありがとう。
お元気で。
かしこ
元恋人 美香より
美香にはすまないことをしたと思った。
だが、自分の気持ちを誤魔化すことは出来なかった。
クリスマス・イブの前日、同僚たちが足早に休暇のために帰って行く中、オフィスで残った仕事を片付けていると、あの懐かしい香りがした。
ふと顔を上げると、そこにポワゾンが立っていた。
「お久しぶりね? 寺田君。
随分といい顔になったんじゃない?
男の色気も大分出て来たみたいだし。ふふっ」
「小早川部長・・・」
眩しいほどのポワゾンの笑顔に、時が停まった。
ポワゾンはより美しくなっていた。
「さあ、もう退社時間よ。
いつまでやっているの? 時間内に仕事を納められないビジネスマンは失格よ。
それに今日はクリスマス・イブの前日なのに」
功介は慌てて書類の山を机の引き出しに押し込んだ。
ポワゾンと腕を組み、無言のまま歩く5th Avenue。
すべてが輝いて見えた。
ロックフェラー・センターに辿り着くと、100フィートはあろうかという巨大なクリスマス・ツリーが摩天楼に囲まれ、そびえ立っていた。
美しく光輝くクリスマス・ツリーの下で功介とポワゾンは抱き合い、熱い口づけを交わした。
甘いルージュの味と、『Poison』の香り。
粉雪がやさしくふたりに降り注ぐ。
僕の肩に、ポワゾンの髪に。
ふたりはその雪を払おうともせず、ずっと抱き合ったままだった。
神の祝福を受けながら。
どこからか、アンディ・ウイリアムスの唄う『White Christmas』が聴こえていた。
『ポワゾンと呼ばれた女』完
大した仕事はまだ与えられてはいなかったが、NewYorkerたちの会話スピードには慣れて来た。
功介は無我夢中だった。
日本とは違い、ここでは何故そう思うのか? そしてその自分の意見がいかに正当性のあるものなのかを主張しなければならない。
この緊張感で毎日がヘトヘトだった。
「麗華さんに会いたい。そしてまたあのポワゾンの香りに包まれたい」
だが、ポワゾンと最後の夜、功介は約束させられた。
「いいこと? 功介から連絡してはダメよ、私から連絡するまで電話もメールも、そしてエアメールも禁止。
わかった?」
「どうしてですか?」
「あなたはまだ弱いからよ。強くなりなさい、功介」
そしてポワゾンからはまだ連絡はなかった。
美香からはエアメールが週一のペースで届いていた。
そして2週間前にも手紙が届いていた。
親愛なる功介へ
どう? そっちの暮らしには慣れた?
功介のことだから、金髪美人とよろしくやって
いるとは思うけど。
あの後、色々と考えてみました。
でもどうしても考えがまとまらず、小早川
さんに会いに行ってきました。
結論からいいますね? 完敗です。
あの聡明さ、美しさ、大人の女性としての余裕。
気品の高さ。
私はすっかり小早川さんに魅了されてしまいま
した。
ミイラ盗りがミイラになる? そんな気分です。
功介が惚れるのも無理はありません。
女性の私が憧れるのですから。
私、新しい恋をはじめました。
今年のクリスマスに結婚式を挙げる予定です。
ホントは功介に、ウエディングドレス姿の私
を見せたかったけど、諦めます。
功介、ニューヨークに旅行することがあったら
ガイドしてね?
私は小早川さんにはなれそうもありません。
功介、たくさんの素敵な思い出をありがとう。
お元気で。
かしこ
元恋人 美香より
美香にはすまないことをしたと思った。
だが、自分の気持ちを誤魔化すことは出来なかった。
クリスマス・イブの前日、同僚たちが足早に休暇のために帰って行く中、オフィスで残った仕事を片付けていると、あの懐かしい香りがした。
ふと顔を上げると、そこにポワゾンが立っていた。
「お久しぶりね? 寺田君。
随分といい顔になったんじゃない?
男の色気も大分出て来たみたいだし。ふふっ」
「小早川部長・・・」
眩しいほどのポワゾンの笑顔に、時が停まった。
ポワゾンはより美しくなっていた。
「さあ、もう退社時間よ。
いつまでやっているの? 時間内に仕事を納められないビジネスマンは失格よ。
それに今日はクリスマス・イブの前日なのに」
功介は慌てて書類の山を机の引き出しに押し込んだ。
ポワゾンと腕を組み、無言のまま歩く5th Avenue。
すべてが輝いて見えた。
ロックフェラー・センターに辿り着くと、100フィートはあろうかという巨大なクリスマス・ツリーが摩天楼に囲まれ、そびえ立っていた。
美しく光輝くクリスマス・ツリーの下で功介とポワゾンは抱き合い、熱い口づけを交わした。
甘いルージュの味と、『Poison』の香り。
粉雪がやさしくふたりに降り注ぐ。
僕の肩に、ポワゾンの髪に。
ふたりはその雪を払おうともせず、ずっと抱き合ったままだった。
神の祝福を受けながら。
どこからか、アンディ・ウイリアムスの唄う『White Christmas』が聴こえていた。
『ポワゾンと呼ばれた女』完
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる