★【完結】寒椿(作品240421)

菊池昭仁

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最終話

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 組事務所に連れて来られた椿は服を脱がされ、ストッキングや下着を剥ぎ取られ、髪の毛を掴まれて奥の組長専用のベッドルームへと連れて行かれた。

 「さあ楽しもうじゃねえか? もあるぜ」
 「いやあー! 止めて!」

 組長の小野寺は椿を押さえつけると、覚醒剤の入った注射器を椿の腕の静脈に刺した。
 注射器に椿の血液が少し逆流して来た。

 「これを使うとな? もうお前は俺から離れられなくなる。
 宇宙食が欲しくて欲しくてたまらなくなるんだ。
 これから三日三晩、お前を調教してやる。
 最高のエクスタシーをお前に教えてやるぜ」

 椿は次第に抵抗するチカラを失っていった。




 大体の状況は把握出来た。
 俺はキッチンのシンク下の扉を開け、キッチン収納の上に新聞紙に包んで粘着テープで留めて隠しておいた、トカレフと実弾10発を取り出し、釣竿のケースに入れておいた日本刀を鞘から抜き、慎重に刃を確認した。

 そして刃物避けるために新聞紙を重ね、上半身に晒布さらしを巻いてそれを固定した。
 女房の遺影に手を合わせた。

 「女を取り返して来る」

 俺は紅鯱の組事務所へとひとりで向かった。


 
 途中、会社の人事宛に辞表をポストに投函した。
 会社に迷惑を掛けたくはなかったからだ。



 組事務所に着くと、俺はインターホンを押した。

 「どちらさんですか? こんな時間に」
 「俺の女を返してもらいにやって来た。ここを開けろ」

 すると遠隔でドアが解錠された音がした。
 俺は階段を上がり、二階の事務所の扉を開いた。
 事務所には組員が4人いて、俺を威嚇いかくした。
 
 「椿を返してもらう」
 「誰だそれ? ここにはそんな女はいないぜ。ここは紅鯱のだ。
 怪我しねえうちに早くけえんな」 
 
 俺はその組員の顔を殴りつけた。うずくまる男。
 事務所が騒然となった。

 「オッサン、タダでここから出られると思うなよ!」
 「極道に喧嘩売るとはいい度胸だ!」
 「もうここから生きて帰ることは出来ねえぜ?」

 男たちは金属バットや木刀を握り、俺に近づいて来た。
 
 「なーんだ。お前も同業者か?」

 俺のワイシャツの袖から入れ墨が透けて見えたようだった。

 「どこの組のモンかしらねえが、手加減はしねえ。
 覚悟は出来ているんだろうな!」

 俺は釣竿のケースから日本刀を取り出して上段に構えた。

 「やる気か? 面白えじゃねえか? ちょうど退屈していたところだ!
 容赦しねえぞこの野郎!」

 俺はその男の左腕を切り落とした。

 「うぎゃーーーーっつ!」

 男たちがひるんだ。
 そして俺は腰のベルトからトカレフを抜いた。

 「コイツ、チャカまで持っていやがる!」
 「女はどこだ?」

 組事務所内に緊張が走った。
 その時、奥の部屋から椿の声がした。
 奥に進み、俺はドアを開けた。

 
 椿が口から涎を垂らし、男に犯されていた。

 (シャブを打たれたのか?)

 「何じゃお前!」
 「あなた・・・、助けに、来てくれたの、ね? うれ、しい・・・」

 俺はためらうこと無く組長の額と左胸を撃ち抜き、仰向けに転がった男の股間に銃弾を撃ち込んだ。

 そこへ男たちがなだれ込んで来た。

 「往生せえや!」

 男たちは俺に切り込み、銃弾を浴びせた。
 
 「キャーーーーーッ!」

 大森の亡骸なきがらに縋って椿は大森の血を浴び、狂ったように泣き叫んだ。

 

 
 1週間後、警察の聴取も終わり、椿は柳津虚空蔵尊の前に架かる瑞光寺橋の中央に立っていた。
 椿は美空ひばりの『川の流れのように』を呟くように歌った。

    
      
        知らず知らず 歩いて来た
        細く長い この道
        振り返れば 遥か遠く
        故郷が見える
        でこぼこ道や 
        曲がりくねった道
        地図さえない
        それもまた人生・・・


 翌日、椿の遺体があがった。
 椿の実家跡で出会った老婆がポツリと言った。

 「あの娘の人生は、生まれてからずっと、不幸続きの人生だったな・・・」

 椿の一生は、椿の華のように咲いて、儚くポトリと落ちた短い人生だった。
 

                             『寒椿』完
 

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