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第17話
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「ここがあの有名なルーブル美術館なのね?」
「美術館でありながら博物館でもあるんだ。
あそこのガラスのピラミッドから中に入るんだよ」
「写真で見たことがあるわ、あのガラスのピラミッド」
ここでは全てが芸術だった。
作品を収蔵するこの建物も、そしてこの石畳もすべてがひとつの美術だった。
ガラスのピラミッドのエスカレーターを降りて行くと、そこは巨匠たちの美の至宝で溢れていた。
「ルーブルは元々、フランス歴代の王の宮殿だったんだ」
「だからこんなに美しくて荘厳で華麗なのね?」
「この夥しい数の宝を収めるにはここしかないだろうね?
素晴らしい絵画に見合う額縁が必要なように、ここルーブルにはそれを抱きかかえるだけの包容力がある。
ルーブルといえばモナリザが有名だが、エジプト、ギリシャ、ローマ、イスラムなどの文化遺産を始め、工芸品なども数多く展示されている。
とても一日では回り切れないよ」
私はルーブルの圧倒的な尊厳に言葉を失った。
先ほどのオルセーとは比較にならないプライドが漲っている。
建物と装飾との空間構成が、見事に作品を引き立てていた。
東洋人には絶対に表現出来ない、キリスト教に基づく発想がここにある。
アポロンの間にやって来ると、見たこともない大きなダイヤモンドが展示されていた。
「このダイヤモンド、妖しい美しさがあるだろう? ダイヤモンドの語源はギリシャ語のadamasから来ているんだ。
打ち勝ち難い、征服し難いという意味がある。
つまり、ダイヤの硬さがこの世で唯一だということを表していることになる。
類稀なる宝石には様々な逸話がある。
ダイヤで有名なのはアメリカのスミソニアン博物館にある「ホープ・ダイヤ」だが、このダイヤにも『レ・ジャン』という名が付いている」
「レ・ジャン?」
「紀元前800年頃にインドで発見され、615カラットもあるダイヤだ。
このブリリアンカットにするために2年の歳月を要したらしい。
歴代のフランス王やナポレオンがこれを身に着けたが、あまりいい死に方をしてはいない。
「呪われたダイヤ」だと言われる所以だ。
ルイ15世は天然痘で死に、ルイ16世はギロチンで処刑され、ナポレオンは皇帝の座を追われた」
「そういわれるとこのダイヤの妖艶さが理解できるわ。吸い込まれてしまいそう」
「美しい物には人を惑わす魅力があるものだよ、奈緒のようにね?」
「それって褒めているの?」
「もちろん」
私は伊作と手を繋ぎ、館内を歩いて回った。
「これが僕のルーブルの一番のお気に入りなんだ。
ラ・トゥールの『ダイヤのエースを持つ「いかさま師」』がこれだ。
この絵はね、17世紀のフランスの世俗を表していて、酒、邪淫、博打を風刺している。
ワインを持つ女、胸元の開いた服を着た娼婦、そして後ろ手にダイヤのエースを隠し持つ「いかさま師」というわけさ。
この構図、光と影、そしてこの欲にまみれた人間たちの心を亡くした表情。
僕にはこんな凄い絵は描けないよ」
その絵は私の心の中にゆっくりと沈殿して行った。
ルーブルの作品を熱く語る伊作に、私は強く惹かれた。
私たちに残された時間は、もう後4日になってしまっていた。
「美術館でありながら博物館でもあるんだ。
あそこのガラスのピラミッドから中に入るんだよ」
「写真で見たことがあるわ、あのガラスのピラミッド」
ここでは全てが芸術だった。
作品を収蔵するこの建物も、そしてこの石畳もすべてがひとつの美術だった。
ガラスのピラミッドのエスカレーターを降りて行くと、そこは巨匠たちの美の至宝で溢れていた。
「ルーブルは元々、フランス歴代の王の宮殿だったんだ」
「だからこんなに美しくて荘厳で華麗なのね?」
「この夥しい数の宝を収めるにはここしかないだろうね?
素晴らしい絵画に見合う額縁が必要なように、ここルーブルにはそれを抱きかかえるだけの包容力がある。
ルーブルといえばモナリザが有名だが、エジプト、ギリシャ、ローマ、イスラムなどの文化遺産を始め、工芸品なども数多く展示されている。
とても一日では回り切れないよ」
私はルーブルの圧倒的な尊厳に言葉を失った。
先ほどのオルセーとは比較にならないプライドが漲っている。
建物と装飾との空間構成が、見事に作品を引き立てていた。
東洋人には絶対に表現出来ない、キリスト教に基づく発想がここにある。
アポロンの間にやって来ると、見たこともない大きなダイヤモンドが展示されていた。
「このダイヤモンド、妖しい美しさがあるだろう? ダイヤモンドの語源はギリシャ語のadamasから来ているんだ。
打ち勝ち難い、征服し難いという意味がある。
つまり、ダイヤの硬さがこの世で唯一だということを表していることになる。
類稀なる宝石には様々な逸話がある。
ダイヤで有名なのはアメリカのスミソニアン博物館にある「ホープ・ダイヤ」だが、このダイヤにも『レ・ジャン』という名が付いている」
「レ・ジャン?」
「紀元前800年頃にインドで発見され、615カラットもあるダイヤだ。
このブリリアンカットにするために2年の歳月を要したらしい。
歴代のフランス王やナポレオンがこれを身に着けたが、あまりいい死に方をしてはいない。
「呪われたダイヤ」だと言われる所以だ。
ルイ15世は天然痘で死に、ルイ16世はギロチンで処刑され、ナポレオンは皇帝の座を追われた」
「そういわれるとこのダイヤの妖艶さが理解できるわ。吸い込まれてしまいそう」
「美しい物には人を惑わす魅力があるものだよ、奈緒のようにね?」
「それって褒めているの?」
「もちろん」
私は伊作と手を繋ぎ、館内を歩いて回った。
「これが僕のルーブルの一番のお気に入りなんだ。
ラ・トゥールの『ダイヤのエースを持つ「いかさま師」』がこれだ。
この絵はね、17世紀のフランスの世俗を表していて、酒、邪淫、博打を風刺している。
ワインを持つ女、胸元の開いた服を着た娼婦、そして後ろ手にダイヤのエースを隠し持つ「いかさま師」というわけさ。
この構図、光と影、そしてこの欲にまみれた人間たちの心を亡くした表情。
僕にはこんな凄い絵は描けないよ」
その絵は私の心の中にゆっくりと沈殿して行った。
ルーブルの作品を熱く語る伊作に、私は強く惹かれた。
私たちに残された時間は、もう後4日になってしまっていた。
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