チマチョゴリに恋をしました

菊池昭仁

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第1話

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 初めての韓国だった。釜山は女の涙のような雨が、纏わり付くように降っていた。

 ロッテルダムからの長い航海を終え、私たちは女と新鮮な生野菜に飢えていた。

 私は仲のいいクォーター・マスターの坂本さんと街に出た。



 韓国料理屋で骨付きカルビにむしゃぶり付きながら、韓国のOBビールを飲んでいた。


 「サードオフィサーは韓国は初めてだよね?」
 「なんだか戦後の日本みたいなところですね?」
 「ソウルオリンピックが終わる前までは物価は日本の10分の1だった。キンセンパーティもよくやったもんです。キンセンとは芸者のことで、いわゆる芸者遊びのことです。10万円で1週間、食べ放題、飲み放題のヤリ放題なんですよ。今回は停泊が短いので、また来ることがあれば案内しますよ」
 「ありがとうございます。今でも5分の1ですもんね?」
 「円高だしな? まだ銀行なんかで両替するより闇ドルの方が遥かにレートがいいんです。女郎屋は米ドルか日本円の方が喜ばれますよ」

 職位は航海士の私が上司だが、操舵手の坂本さんの方が遥かに船乗りのベテランだった。


 「韓国の女は色白で肌も艶があり、いい女が多い。だが惚れて名刺なか出しちゃいけません。すぐに日本にスーツケースひとつでやつて来ます。アハハハハ」

 坂本さんは豪快に笑った。
 韓国の政情不安は続いていた。



 まだカラオケがない時代、私たちは釜山の高級クラブで生バンドをバックに当時日本でも流行っていた、『帰れ、釜山港へ』を歌い、緑町へと繰り出した。


 驚いたのは色鮮やかなチマチョゴリを着た女たちが野菜のように雛壇に並び、客待ちをしていることだった。

 少し性欲が落ちた。
 私はカネで女を買う浅ましさに罪の意志を感じていた。
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