【完結】『続・聖パラダイス病院』(作品260123)

菊池昭仁

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入院47日目

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 「鬼束さん、すみませんが私は2026年の過去から来たので1度帰らせて下さい。また必ず地獄に帰って来ますから」
 「あなたは過去人だったんですか?」
 「なんだかそう言われると、鹿児島県人みたいですね?」
 「なんで地獄なんかに? そうか、悪い事したからでしたね?
 地獄へはどうやって? バス、タクシー? それともリニア新幹線で?」
 「リニアはまだ開通していません 『どこですかドア』から来ました」
 「ああ、あのホラ吹きホリエモンがボケた菅義偉をたぶらかしてもらったロケット開発の補助金で作ったというアレですか? 梅コプター」 



 そして私は『どこですかドアから現在の2026年に戻って来た。
  

 「あー、怖かったー。死ぬかと思ったー。
 そうかー、俺、死んじゃうのかー、そしてやっぱり地獄行き。
 予想していたより遥かに怖かったなー、地獄。
 そして人類滅亡・・・。
 でも鬼束さん、最後に変なこと言ってたな?

 「現世で善い徳を積めば、地獄に来ても恩赦で蜘蛛の糸が降りて来る人もイレギュラーではありますが、ないこともないかも知れません.一応頑張ってみて下さい」

 とか」



 正月早々、私の病室に、これまたわがままな白内障の爺さんと、酷い喘息のヤンキー兄ちゃんが入院して来た。
 このフロアは痴呆老人の巣窟、姥捨山である。   
 病気や怪我をして痴呆になったのか?
 痴呆になったから病気になったり怪我をしたのかは定かではないが、とにかくここはカオスだった。


 「退院したらお酒は少し控えて下さいね」
 「わかってるって、せっかく白内障もよくなったんだからな。
 ブスなお前の顔もハッキリ見えるよ」
 「50年前、そのブスにプロポーズしたのは誰だったかしら?
 薔薇の花束なんか抱えて」
 「酒と女と仮面ライダーは2号までにするよ。ガハハハハ」
 「では問題です。今日は何月何日でしょうか?」
 「なめてんのか? この俺を? 昭和27年3月4日生まれの73歳、好きな女はオッパイのデカい女だ」

 爺さん、それはアンタの誕生日!

 「じゃあここはどこ?」
 「お前はバカなのか? ここはお俺の家に決まってんだろ。
 ところでケアマネさん、女房が犬のゴンと散歩に行ったっきりまだ帰ってこねえ。どこをほっつき歩いているのやら」
 
 一見すると普通の爺さんだが、残酷にも脳の退化萎縮は進んでいる。
 およそ8割の入院患者がそんなあり様だった。
 そして不思議と男は「ウチのヤツはどこへ行った?」と不安になる。それは妻を家政婦のミロソレみたいになんでもやらせてきたからかもしれない。
 一方女性は家に帰りたがる。
 もちろんそれは施設ではなく、家族と暮らした楽しかった頃のその家にだ。
 私の母もそうだった。
 だが見舞いには行かなかった。いや、行けなかった。
 若い頃はモデルをしていた母。
 いつもキチンと化粧をして、よく着物を着ていた。
 今でも母の着物から香る、ナフタリンの匂いを覚えている。
 そんな母が痴呆になり、寝たきりになった姿を見るのが怖かった。

 だが考えさせられたのはヤンキー兄ちゃんの方だった。  
 喘息は持病らしく、たまに発作に襲われると凄く苦しそうだった。
 そんな彼を健気にやさしく支える恋人。
 あれしろこれしろと指図をし、夜中の2時、3時でも関係なく、昼間仕事で疲れている彼女に眠れないのか愚痴を1時間以上も話している。
 相手のことは考えないガキだ。
 そしてそれに付き合う彼女。
 ふたりはおそらく結婚間近なのかもしれない。
 そして結婚し、彼女は夫の看病に疲れ果て。こう思うはずだ。


どうして結婚なんかしたんだろう?


 彼女は自分の人生の主役にはなれず、この男の人生の脇役で一生を終えてしまうかもしれない。 
 あるいは離婚。

 そして男は気づく、彼女がいかに自分に献身的に尽くしてくれたのかを。
 
 人生のお互いの学びがそこにある。

 男は女をしあわせに出来ないならそっと身を引くべきだと私は思う。
 だから私はデリヘルとオツハブで我慢する。
 なぜなら結婚はただの家庭内売春ではなく、共に人生を闘い抜く戦友、バディだからだ。
 だから身体障がい者の俺は「パンツちょうだい」とは言うが、恋愛をする資格はない。
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