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第8話 日本解放戦線

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 「こんな日本が許されていいわけがない! 絶対に!」
 「これ以上民自党の好きにはさせん! まずは総理の小山田と、官房長官の井沢に天誅を下すべきだ!」
 「自由で平和な日本を取り戻すのだ! 日本の未来のために!」

 上野の老朽化したビジネスホテルの最上階が、この日本の激変と戦う、『日本解放戦線』のアジトになっていた。
 彼らは密かに小山田総理たちの暗殺を計画していた。

 リーダーの中洲川の表の顔は、大本営陸軍作戦参謀だった。
 祖先は幕臣であり、明治維新から続く、代々軍人の家系だった。
 防衛大学を首席で卒業したエリート軍人である。
 周囲は彼を「ラスト侍」と呼んでいた。

 冷静沈着、常に自分を第三者として俯瞰することが出来る男だった。
 軍人というよりも、オーケストラの指揮者のような雰囲気を持っていた。

 「半年後に国立競技場で行われる「独立記念日」の祝典には小山田をはじめ、多くの政府閣僚が列席する。そこを狙うことにする。当然のことではあるが、厳重な警備体制により、小山田たちに近づくことも、会場に爆薬を仕掛けることも出来ない。
 ドローンや化学兵器での暗殺も不可能に近い。もちろん狙撃もだ」
 「となると特攻ですか?」
 「そうだ。会場近くに配備される10式戦車を奪い、そのまま会場に突撃し、小山田たちを殲滅する」
 「中洲川参謀、その任務はこの私にやらせて下さい! メンバーの中で10式戦車を熟知し、操縦出来る者は私以外にはおりません」
 「木島中尉、やってくれるか?」
 「はっ! 喜んで自分がやらせていただきます!」
 「木島、俺も貴様と行動を共にするぞ!」
 「春村、貴様に手柄はたてさせんぞ! 貴様には参謀を護衛してくれ。これからの日本のためにな」
 「貴様だけにいいカッコさせてたまるか! 仲間は多いほうがいい!」
 「何も死に急ぐことはない。貴様はゆっくり日本の平和と安定を見届けてから来い」

 防大で木島と春村陸軍中尉は同期だった。

 「自分は喜んで自決します!」
 「木島中尉の名は永久に日本の歴史に刻まれることだろう。
 案ずるな、我々もいずれ後を追う覚悟である。
 薄汚い権力者どもを滅ぼし、貧富の差がない、自由で平和で平等な日本を、世界を創るのだ。
 我々日本解放戦線の使命は現政権の打倒にある。それを成功させ、世界のリーダーとしての日本を再生させなければならない。
 日本の未来は有栖川たち若手官僚を中心とした『洗心の会』に託そうではないか!」
 「我々に勇気を!」
 「日本に自由と平和と平等を!」
 「世界に安定した正しい秩序を!」

 中洲川たちは綿密な作戦計画の立案に着手した。

 だがその日本解放戦線の幹部の中に、江戸時代から続く、『御庭番』がひとり、紛れ込んでいた。
 日本解放戦線の動きは内閣官房調査室に逐一報告されていた。


 調査室長の柳葉はほくそえんでいた。

 「もう少し泳がせて、一網打尽にするのだ。
 そしてその家族諸共、公開処刑となることだろう。
 お気の毒様」
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