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第4話
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家に絵本はなかったが、2歳くらいの時から母はよく私を抱っこして昔話をしてくれた。
私は3歳になるまで母の乳を吸っていた。母の乳房を触りながら母の昔話を聴いて私は育った。
母は本を読まない人だったが、母は曾祖母から聴かせてもらったという地元の民話を、臨場感たっぷりに話してくれた。
「昔、ママが住んでいた柳津というところに虚空蔵様があってね? その下の只見川に亀岩というのがあって、その下には龍宮城があったの。
龍宮城には宝物の玉があってね? それを龍宮城に招待された若者が盗んで持ち帰り。虚空蔵菩薩様に差し上げたのよ。
するとね? その玉を取り戻すために龍宮城から使者たちがやって来て、毎年1月7日に虚空蔵尊にやって来るようになったの。
柳津の男たちは褌姿になってみんなでその玉を守ったのよ。
それが柳津虚空蔵様の『七日堂裸参り』になんたというお話。
柳津の只見川にはたくさんの「うぐい」というお魚が泳いでいてね?
それは虚空蔵尊のお寺を作る時に出た鉋屑が只見川に落ちて「うぐい」になったらしいわ」
私はそんな母が語る昔話をイメージしながら聴いていた。
私の中での竜宮城は浦島太郎が訪れた海ではなく、川にある。
3歳の時、家に白い迷い犬がやって来て、母がその犬に味噌汁かけご飯を与えたらそのまま居付いてしまい、飼うことになった。
子犬ではなく成犬で、白い雑種犬だったため、名前は安直に「シロ」と母が名付けた。
3歳の私にとっては大型犬である。
近所の店からアイスを買って帰ってくると、放し飼いのシロが私のアイスを獲ろうとジャンプして来る。
すると私は必死で母に訴える。
「ママーっつ! シロにアイスを食べられちゃうよー!」
母に叱られるとシロはしぶしぶ引き下がった。
ある日、テレビで散髪をしているシーンを見た私は、母の洋裁箱にあった裁鋏を持ってシロの元へ。
「シロ。かわいくしてあげるからね?」
脇腹のフサフサした辺りを肌を傷つけないようにジョキ。
私は慌てた。ザックリと切ったので肌がそこだけ丸く露出してしまったからだ。
私はすぐに家に逃げ帰った。
そこだけ卵型にハゲてしまったシロを残して。
当時はペットショップなどは殆どなく、家の前のダンボールに子犬が入れられて「どうぞご自由に」と書かれているような状態で、野犬も多く、クルマにはねられた犬の死体がよく転がっていた。
私はテレビばかり見ていた子供だったのでシロと遊んだ記憶はあまりない。
ただよく鳴く犬だったので、母は近所迷惑だと山ちゃんに頼んでシロをクルマに乗せて遠くの山に捨てて来てしまった。
拾ったり捨てたりが当たり前の時代だった。
近所に大きなシェパードが頑丈な檻に入れられていて、その犬がよく脱走して近くをうろついていることがあった。
ある時、私はそのシェパードに追いかけられて、すぐに玄関に逃げ込んだのだが玄関までシェパードが入って来た。
まるでオオカミのようなシェパード。
母は私を守ろうと座敷箒でその犬を追い払ってくれた。
今でもその時の恐ろしいシェパードの顔は覚えている。
その飼主は変わった爺さんで、やはり犬は飼主に似るのだろう。
その頃、テレビでは『名犬ラッシー』という気品のある賢いコリー犬のアメリカドラマをやっていた。
私は「シロとは全然違うなあ」と見ていたが、小学校に入学して、S君という鉄筋コンクリート造りのお屋敷に住んでいた友だちに家に招かれた時、芝生の庭の木にワイヤーが張られ、その間を鎖で繋がれたコリー犬が悠然と走っているのを見て驚いた。
「S君の家にはラッシーがいるんだね?」
「うちのは「ラッキー」だけどね?」
その後おやつにと、S君のお母さんが焼いてくれたお菓子をご馳走になった。
(この世にはこんな美味しいお菓子があるんだ!)
私のおやつは母の漬けた味噌漬けのお茶漬けか? 味噌のおにぎりだった。
サザエさんの家のイチゴのショートケーキなどは見たことがなかった。
そのお菓子がアップルパイであることを知ったのは、私が中学生になってからだった。
私は3歳になるまで母の乳を吸っていた。母の乳房を触りながら母の昔話を聴いて私は育った。
母は本を読まない人だったが、母は曾祖母から聴かせてもらったという地元の民話を、臨場感たっぷりに話してくれた。
「昔、ママが住んでいた柳津というところに虚空蔵様があってね? その下の只見川に亀岩というのがあって、その下には龍宮城があったの。
龍宮城には宝物の玉があってね? それを龍宮城に招待された若者が盗んで持ち帰り。虚空蔵菩薩様に差し上げたのよ。
するとね? その玉を取り戻すために龍宮城から使者たちがやって来て、毎年1月7日に虚空蔵尊にやって来るようになったの。
柳津の男たちは褌姿になってみんなでその玉を守ったのよ。
それが柳津虚空蔵様の『七日堂裸参り』になんたというお話。
柳津の只見川にはたくさんの「うぐい」というお魚が泳いでいてね?
それは虚空蔵尊のお寺を作る時に出た鉋屑が只見川に落ちて「うぐい」になったらしいわ」
私はそんな母が語る昔話をイメージしながら聴いていた。
私の中での竜宮城は浦島太郎が訪れた海ではなく、川にある。
3歳の時、家に白い迷い犬がやって来て、母がその犬に味噌汁かけご飯を与えたらそのまま居付いてしまい、飼うことになった。
子犬ではなく成犬で、白い雑種犬だったため、名前は安直に「シロ」と母が名付けた。
3歳の私にとっては大型犬である。
近所の店からアイスを買って帰ってくると、放し飼いのシロが私のアイスを獲ろうとジャンプして来る。
すると私は必死で母に訴える。
「ママーっつ! シロにアイスを食べられちゃうよー!」
母に叱られるとシロはしぶしぶ引き下がった。
ある日、テレビで散髪をしているシーンを見た私は、母の洋裁箱にあった裁鋏を持ってシロの元へ。
「シロ。かわいくしてあげるからね?」
脇腹のフサフサした辺りを肌を傷つけないようにジョキ。
私は慌てた。ザックリと切ったので肌がそこだけ丸く露出してしまったからだ。
私はすぐに家に逃げ帰った。
そこだけ卵型にハゲてしまったシロを残して。
当時はペットショップなどは殆どなく、家の前のダンボールに子犬が入れられて「どうぞご自由に」と書かれているような状態で、野犬も多く、クルマにはねられた犬の死体がよく転がっていた。
私はテレビばかり見ていた子供だったのでシロと遊んだ記憶はあまりない。
ただよく鳴く犬だったので、母は近所迷惑だと山ちゃんに頼んでシロをクルマに乗せて遠くの山に捨てて来てしまった。
拾ったり捨てたりが当たり前の時代だった。
近所に大きなシェパードが頑丈な檻に入れられていて、その犬がよく脱走して近くをうろついていることがあった。
ある時、私はそのシェパードに追いかけられて、すぐに玄関に逃げ込んだのだが玄関までシェパードが入って来た。
まるでオオカミのようなシェパード。
母は私を守ろうと座敷箒でその犬を追い払ってくれた。
今でもその時の恐ろしいシェパードの顔は覚えている。
その飼主は変わった爺さんで、やはり犬は飼主に似るのだろう。
その頃、テレビでは『名犬ラッシー』という気品のある賢いコリー犬のアメリカドラマをやっていた。
私は「シロとは全然違うなあ」と見ていたが、小学校に入学して、S君という鉄筋コンクリート造りのお屋敷に住んでいた友だちに家に招かれた時、芝生の庭の木にワイヤーが張られ、その間を鎖で繋がれたコリー犬が悠然と走っているのを見て驚いた。
「S君の家にはラッシーがいるんだね?」
「うちのは「ラッキー」だけどね?」
その後おやつにと、S君のお母さんが焼いてくれたお菓子をご馳走になった。
(この世にはこんな美味しいお菓子があるんだ!)
私のおやつは母の漬けた味噌漬けのお茶漬けか? 味噌のおにぎりだった。
サザエさんの家のイチゴのショートケーキなどは見たことがなかった。
そのお菓子がアップルパイであることを知ったのは、私が中学生になってからだった。
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