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第25話
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5年生になった。
家畜、奴隷、平民、貴族、そして神になったのである。
夏休みが明けたら運輸省航海訓練所での1年間の航海実習が待っている。
5年生になって寮生活はパラダイスだった。
たくさん本を読み、バイトしたカネは本代と飲食に全部使った。片想いに終わったが恋も多くした。
酒を飲んでは友だちとどうでもいい事を朝方まで真剣に議論した。
5年生になるとあまり付き合いのなかった無頼派な連中からもよく飲みに誘われるようになった。
話してみると凄くいい奴らだった。友だち思いでピュアな性格の連中だった。
私の名前をファーストネームで呼び捨てにし、お互いに何でも話せる友人もたくさん出来た。
「昭仁がこんなにバカで面白え奴だとは思わなかったよ」
「バカで悪かったなあ、お前も同じやろ? あはははは」
青春だった。
授業は卒論とゼミが主体になった。
哲学、保健体育、武道、英語Ⅰ、フランス語、応用数学、統計学、商船法規、航海学、船位誤差論、卒業研究、海洋気象学Ⅱ、航海計測特論、操船論、船貨論、航海特論、貿易論、海法特論、港湾論、商学実務、計測・自動制御Ⅱ、情報数学、内燃機関工学、電気電子工学、機械設計、蒸気機関工学、補助機関工学と多岐に渡り、実験と実習が多くなった。
原子力船工学という授業は『原子力船 むつ』の問題により私たちの頃にはなくなっていた。
商船高専を卒業すると、甲種二等航海士の筆記試験が免除され、口述試験を受けて合格すれば全世界のどんな大型船でも二等航海士として職務に就くことが出来た。
そして甲種一等航海士の筆記試験に在学中に合格すると、大手船会社への就職が約束され、甲種船長の筆記試験を合格すれば日本郵船や大阪商船三井船舶、日本航空や全日空にも就職の斡旋を受けることが出来た。
日本はSOLAS条約に批准していたので、甲種船長に合格すれば船の上限なく、世界中の大型船の船長が出来る狭き門だった。
私は学生時代はぐうたらだったので、航海士になってから甲種船長と甲種一等航海士を併科受験して同時合格した。新潟で受験したが休み1日を挟んで4日間の試験が終わって新潟駅から帰省する時、ホームが真っ白に見えるほど集中し、『あしたのジョー』の矢吹丈のようだった。燃え尽きた。
在学中に取得していれば人生は大きく変わっていたかもしれない。
だが私には元々船長の器がなかった。
航海訓練所では最初の半年間は帆船実習になる。その後半年間は各練習船での最新の航海システムを学ぶために再び世界中を航海して回ることになる。
A組とB組に別れて、それぞれ『日本丸』と『海王丸』で実習を行う。
それをどうやって決めるのかというと、富山商船高専の場合は伝統的にクラス対抗の総当たりジャンケンで決めていた。
これはとても重要なことだった。
『日本丸』と『海王丸』は同型帆船ではあるが『日本丸』の方が格段に知名度が高い。
今、横浜の伊勢佐木町のドックに係留されている初代日本丸がそれである。
『日本丸』は「太平洋の白鳥」と呼ばれていた。
『海王丸』は「太平洋の貴婦人」と呼ばれ、海の男たちは実にロマンチストである。ネーミングが上手い。
そこで熱いジャンケン大会が行われるのである。『日本丸』での乗船実習を賭けて。
そして見事、私たちA組は『日本丸』での乗船権を獲得することが出来た。
卒論の発表会も終わり、夏休みが明ければいよいよ航海実習が始まる。
だが私は気が重かった。
学校の練習船でも酷い船酔いをするのに、太平洋を渡ってハワイに帆船で1ヶ月も掛けての実習など、考えたくもなかったからだ。
私は「海の男」なのにビビリだったのである。実に情けない。
この時点で私は航海士になるつもりは全くなかった。
陸上自衛隊の特殊工作員になるのが目標だったからである。本気でそう思っていた。
かくして4年半に及ぶ高専での座学が修了した。
家畜、奴隷、平民、貴族、そして神になったのである。
夏休みが明けたら運輸省航海訓練所での1年間の航海実習が待っている。
5年生になって寮生活はパラダイスだった。
たくさん本を読み、バイトしたカネは本代と飲食に全部使った。片想いに終わったが恋も多くした。
酒を飲んでは友だちとどうでもいい事を朝方まで真剣に議論した。
5年生になるとあまり付き合いのなかった無頼派な連中からもよく飲みに誘われるようになった。
話してみると凄くいい奴らだった。友だち思いでピュアな性格の連中だった。
私の名前をファーストネームで呼び捨てにし、お互いに何でも話せる友人もたくさん出来た。
「昭仁がこんなにバカで面白え奴だとは思わなかったよ」
「バカで悪かったなあ、お前も同じやろ? あはははは」
青春だった。
授業は卒論とゼミが主体になった。
哲学、保健体育、武道、英語Ⅰ、フランス語、応用数学、統計学、商船法規、航海学、船位誤差論、卒業研究、海洋気象学Ⅱ、航海計測特論、操船論、船貨論、航海特論、貿易論、海法特論、港湾論、商学実務、計測・自動制御Ⅱ、情報数学、内燃機関工学、電気電子工学、機械設計、蒸気機関工学、補助機関工学と多岐に渡り、実験と実習が多くなった。
原子力船工学という授業は『原子力船 むつ』の問題により私たちの頃にはなくなっていた。
商船高専を卒業すると、甲種二等航海士の筆記試験が免除され、口述試験を受けて合格すれば全世界のどんな大型船でも二等航海士として職務に就くことが出来た。
そして甲種一等航海士の筆記試験に在学中に合格すると、大手船会社への就職が約束され、甲種船長の筆記試験を合格すれば日本郵船や大阪商船三井船舶、日本航空や全日空にも就職の斡旋を受けることが出来た。
日本はSOLAS条約に批准していたので、甲種船長に合格すれば船の上限なく、世界中の大型船の船長が出来る狭き門だった。
私は学生時代はぐうたらだったので、航海士になってから甲種船長と甲種一等航海士を併科受験して同時合格した。新潟で受験したが休み1日を挟んで4日間の試験が終わって新潟駅から帰省する時、ホームが真っ白に見えるほど集中し、『あしたのジョー』の矢吹丈のようだった。燃え尽きた。
在学中に取得していれば人生は大きく変わっていたかもしれない。
だが私には元々船長の器がなかった。
航海訓練所では最初の半年間は帆船実習になる。その後半年間は各練習船での最新の航海システムを学ぶために再び世界中を航海して回ることになる。
A組とB組に別れて、それぞれ『日本丸』と『海王丸』で実習を行う。
それをどうやって決めるのかというと、富山商船高専の場合は伝統的にクラス対抗の総当たりジャンケンで決めていた。
これはとても重要なことだった。
『日本丸』と『海王丸』は同型帆船ではあるが『日本丸』の方が格段に知名度が高い。
今、横浜の伊勢佐木町のドックに係留されている初代日本丸がそれである。
『日本丸』は「太平洋の白鳥」と呼ばれていた。
『海王丸』は「太平洋の貴婦人」と呼ばれ、海の男たちは実にロマンチストである。ネーミングが上手い。
そこで熱いジャンケン大会が行われるのである。『日本丸』での乗船実習を賭けて。
そして見事、私たちA組は『日本丸』での乗船権を獲得することが出来た。
卒論の発表会も終わり、夏休みが明ければいよいよ航海実習が始まる。
だが私は気が重かった。
学校の練習船でも酷い船酔いをするのに、太平洋を渡ってハワイに帆船で1ヶ月も掛けての実習など、考えたくもなかったからだ。
私は「海の男」なのにビビリだったのである。実に情けない。
この時点で私は航海士になるつもりは全くなかった。
陸上自衛隊の特殊工作員になるのが目標だったからである。本気でそう思っていた。
かくして4年半に及ぶ高専での座学が修了した。
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