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第47話
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学校は卒業したものの、私は何がやりたいのか自分でもよくわからなかった。
航海訓練所にいる時にも就職担当の教授に電話を掛けて、色々と会社を紹介していただいたがどれもピンと来ない。
入学試験では上から5番の成績だった私も、卒業時は下から5番目。大手船会社への就職どころか、入社試験を受けることすら出来なかった。
バイトを始める高専の3年生までは真面目だったんだよ、3年生まではね(笑)
でもそれ以降は赤点落第スレスレの超低空飛行。授業にも出ず、酒とタバコ、音楽と読書の毎日だった。
真面目な時は嫌われ者だった私は友人も少なかった。
だが傾奇者になるといきなり友だちが増えた。
「菊池、お前ホンマにアホやな? 飲みに行かへんか?」
今まで敬遠していた奴が、実は凄く友情に熱い奴だった。
つまりお互いに相手を良く知らなかったのである。話してみると意外といい奴ばかりだった。
友だちを作るには先入観を捨て、嫌なところは見ないでいいところを見る。そして相手が話し易い隙をみせるのもいいかもしれない。
同級生で船会社に就職したのはおよそ半分。後は荷役会社や倉庫会社、コンピューター会社や貿易会社などの陸上勤務が多かった。
私はただ漠然と「船に乗るしかないなあ」と思っていた。
それは陸の仕事に比べて給料が高いことと、東京へ出るカネがなかったからだ。アパートを借りるカネも生活費もない。
スーツは成人式に買ってもらった安い背広が一着のみ。航海士になるしかなかったのである。
先生のコネで虎ノ門にある財団の職員を紹介してもらったが、初任給が安いので断念した。
そこには学校の先輩もおり、受け入れ体制は十分整っていた。
私は仕方なく船乗りになることを選んだ。
船乗りは船で生活する。ゆえに住む所タダ、食事も服もタダ。給料はキャッシュ・アドバンスと呼ばれる前金制度があり、働かなくても貰えて給料はすべて小遣い。
おまけに休暇中には待機手当も支給され、1年航海士として乗船すると、2ヶ月から半年ほどのバカンスもあるのだ。
乞食と船乗りは三日やったら辞められない
と言われるほど、いい職業であった。タダで日本中、世界中も旅出来るしね?
私はとある東京の海運会社に就職することになった。
甲種二等航海士の海技免状は商船高専や商船大学を卒業すると筆記試験は免除され、口述試験のみ合格すれば良い。つまり試験官との口頭試問に合格すれば国際航路の二等航海士にはなれるのである。
在学中に甲種一等航海士、さらに甲種船長の筆記試験に合格すれば就職は選り取り見取りだった。
口述試験の受験資格は実務経験がないと受験できないほどの極めて難関試験である。
甲種一等航海士の筆記試験に合格出来るのは高専に在学中でたった数人程度、甲種船長に至っては一人いるかいないかだった。
機関科でも同じシステムである。甲種機関長も最難関の国家資格である。
三菱の総本山、日本郵船では船長、機関長になるには論文の提出も義務付けられているらしい。母校の教官になり、教授コースに進む者もいた。
試験は論述試験であり、航海術、運用術、法規、英語の四科目で、それぞれ各2問から5問をおよそ2時間前後で記述する試験だった。一日二科目を午前と午後に昼食を挟んで行う。
私は学生時代に甲種一等航海士に挑戦したが落第したので贅沢は言えなかった。
面接の時、採用担当者から言われた。
「菊池君は食事に好き嫌いはあるかな?」
「ありません」
「なら合格だ」
「?」
(ヘンなことを訊くんだな?)
と思った。すると担当者は笑ってこう言った。
「実はね? 司厨長が中国人で食事がちょっとねえ。ほら、日本食とは違うからさあ」
雇用条件にはもちろん職種は三等航海士となっていた。25,000トンほとの貨物船であり、オーストラリアと日本の定期航路だった。
だが私は騙されていたのである。
乗船1週間前になると本社から連絡があり、操舵手の欠員が出たので少しの間でいいから操舵手で乗船して欲しいと言われたのである。どうやら最初から決められていたようだったが、事前に言うと私に拒否されると思われたのか、直前に言って拒否できないことを狙っていたようだった。
「給料とかの待遇面やキャビンは三等航海士としての扱いだから頼むよ」
私は仕方なくそれを承諾し、名古屋のガーデン埠頭から初乗船となった。
操舵手、クウォーター・マスターとして。
航海訓練所にいる時にも就職担当の教授に電話を掛けて、色々と会社を紹介していただいたがどれもピンと来ない。
入学試験では上から5番の成績だった私も、卒業時は下から5番目。大手船会社への就職どころか、入社試験を受けることすら出来なかった。
バイトを始める高専の3年生までは真面目だったんだよ、3年生まではね(笑)
でもそれ以降は赤点落第スレスレの超低空飛行。授業にも出ず、酒とタバコ、音楽と読書の毎日だった。
真面目な時は嫌われ者だった私は友人も少なかった。
だが傾奇者になるといきなり友だちが増えた。
「菊池、お前ホンマにアホやな? 飲みに行かへんか?」
今まで敬遠していた奴が、実は凄く友情に熱い奴だった。
つまりお互いに相手を良く知らなかったのである。話してみると意外といい奴ばかりだった。
友だちを作るには先入観を捨て、嫌なところは見ないでいいところを見る。そして相手が話し易い隙をみせるのもいいかもしれない。
同級生で船会社に就職したのはおよそ半分。後は荷役会社や倉庫会社、コンピューター会社や貿易会社などの陸上勤務が多かった。
私はただ漠然と「船に乗るしかないなあ」と思っていた。
それは陸の仕事に比べて給料が高いことと、東京へ出るカネがなかったからだ。アパートを借りるカネも生活費もない。
スーツは成人式に買ってもらった安い背広が一着のみ。航海士になるしかなかったのである。
先生のコネで虎ノ門にある財団の職員を紹介してもらったが、初任給が安いので断念した。
そこには学校の先輩もおり、受け入れ体制は十分整っていた。
私は仕方なく船乗りになることを選んだ。
船乗りは船で生活する。ゆえに住む所タダ、食事も服もタダ。給料はキャッシュ・アドバンスと呼ばれる前金制度があり、働かなくても貰えて給料はすべて小遣い。
おまけに休暇中には待機手当も支給され、1年航海士として乗船すると、2ヶ月から半年ほどのバカンスもあるのだ。
乞食と船乗りは三日やったら辞められない
と言われるほど、いい職業であった。タダで日本中、世界中も旅出来るしね?
私はとある東京の海運会社に就職することになった。
甲種二等航海士の海技免状は商船高専や商船大学を卒業すると筆記試験は免除され、口述試験のみ合格すれば良い。つまり試験官との口頭試問に合格すれば国際航路の二等航海士にはなれるのである。
在学中に甲種一等航海士、さらに甲種船長の筆記試験に合格すれば就職は選り取り見取りだった。
口述試験の受験資格は実務経験がないと受験できないほどの極めて難関試験である。
甲種一等航海士の筆記試験に合格出来るのは高専に在学中でたった数人程度、甲種船長に至っては一人いるかいないかだった。
機関科でも同じシステムである。甲種機関長も最難関の国家資格である。
三菱の総本山、日本郵船では船長、機関長になるには論文の提出も義務付けられているらしい。母校の教官になり、教授コースに進む者もいた。
試験は論述試験であり、航海術、運用術、法規、英語の四科目で、それぞれ各2問から5問をおよそ2時間前後で記述する試験だった。一日二科目を午前と午後に昼食を挟んで行う。
私は学生時代に甲種一等航海士に挑戦したが落第したので贅沢は言えなかった。
面接の時、採用担当者から言われた。
「菊池君は食事に好き嫌いはあるかな?」
「ありません」
「なら合格だ」
「?」
(ヘンなことを訊くんだな?)
と思った。すると担当者は笑ってこう言った。
「実はね? 司厨長が中国人で食事がちょっとねえ。ほら、日本食とは違うからさあ」
雇用条件にはもちろん職種は三等航海士となっていた。25,000トンほとの貨物船であり、オーストラリアと日本の定期航路だった。
だが私は騙されていたのである。
乗船1週間前になると本社から連絡があり、操舵手の欠員が出たので少しの間でいいから操舵手で乗船して欲しいと言われたのである。どうやら最初から決められていたようだったが、事前に言うと私に拒否されると思われたのか、直前に言って拒否できないことを狙っていたようだった。
「給料とかの待遇面やキャビンは三等航海士としての扱いだから頼むよ」
私は仕方なくそれを承諾し、名古屋のガーデン埠頭から初乗船となった。
操舵手、クウォーター・マスターとして。
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