★【完結】Silver Rain(作品230608)

菊池昭仁

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第3話

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 朝食を食べた後、私たちは「サモトラケのニケ」に会うためにルーブルへと出掛けた。
 

 「これがあの有名なガラスのピラミッドね? 意外と小さいんだね?」
 「テレビで見るのとは違う。エジプトのギザのスフィンクスだって実際に見ると大きな狛犬のようだからな? 人は勝手な先入観で物事を作り上げるもんだ。
 さあ、ここがルーブルへの入口だ」


 私とアリスはエスカレーターでガラスのピラミッドの中を地下へと降りて行った。

 いくつかの回廊を巡り、アリスは素晴らしい美術品や絵画の数々に溜息を漏らした。


 「教科書で見た物がたくさんあるわ、これ全部が本物なのね?」

 アリスはそれらに見惚れて館内を歩いた。


 ダリュの階段の踊り場にその女神は私たちを待っていた。
 首と腕のない大きな翼を広げた女神「ニケ」

 ギリシャのサモトラケ島で発見されたこの女神像は美しい翼を広げ、勝利へと導く女神として絶対的な威厳を放っていた。
 私はこの女神像と向き合ったまま、アリスにニケの逸話を話して聞かせた。


 「タイタニックの映画があっただろう? あの舳先でケイト・ウインスレットが両手を広げるシーンはこのニケの姿を真似たものだそうだ。
 そしてあのスポーツブランドのNIKIもこのニケから来て・・・」

 そう言ってアリスに振り返った私は完全に言葉を失った。

 ダイヤモンドのように光り輝く大粒の涙がアリスの両目から止めどなく流れていた。
 それは言葉を賭けることが憚れるほど、高貴で尊厳に満ちた姿だった。
 アリスは茫然と立ち尽くしていた。


 「きれい、なんて美しいの・・・。
 パパ、ママ、これがニケなのね?・・・」


 アリスはその場に跪き、ニケの前で両手を組み、祈りを捧げた。


 「どうかママとパパが天国でしあわせでありますように」


 観光客たちがそんなアリスに好奇の目を向けて通り過ぎてゆく。

 私とアリスはしばらくニケの前から離れることが出来なかった。


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