【完結】★寺子屋『ひまわり』(作品250818)

菊池昭仁

文字の大きさ
11 / 15

第11話

しおりを挟む
 古い文化アパートの中に登は入って行った。

 「あそこが登君の家なのね?」
 「かなり傷みのあるアパートですね?」

 そこにちょうど竜也が帰って来た。どうやら今日もパチンコに負けたようだった。
 遠くからでも苛ついているのが分かった。

 「行きましょう」

 桃香は意を決した。



 
 チャイムはなかった。

 コンコンコン

 出て来る気配はない。

 「井上さーん、『寺子屋ひまわり』の桜井と申します。登君の事でお話がありまーす」

 するとドアが開き、竜也が顔を出した。

 「ウチのガキに何の用だ? 万引きでもしたんか?」
 「いえ、そういうことではありません」
 「児相の関係者か?」
 「児相とは関係ありません。ここではなんですから玄関でお話しさせていただいてもよろしいですか?」

 竜也は玄関ドアを開け、桃香たちを招き入れた。

 「カネならねえぞ」
 「お金の話しではありません。登君をウチで面倒を見させていただきたいのです」
 「何で?」
 「お父様がお忙しいようなので、ウチでお預かりしようかと思いました」
 「100万、100万で売ってやるよ」
 「売る? ご自分のお子さんですよ」
 「俺のガキだ、どうしようと俺の勝手だろう?」
 「今のあなたには登君の子育ては無理ですよね?」
 「お前には関係ねえ話だ、登は中学を出たら大工にする。だから俺たち親子に口出しをするのは止めろ」
 「登君にもしあわせになる権利があります」
 「カネ、貸してくんねえか? カネがねえんだよ」

 桃香はバッグから財布を出して1万円を竜也に渡した。

 「わりいな? 来月、カネが入ったら返すよ」
 「返さなくていいです。その代わり登君は私たちがお預かりします」
 「だったらもう1万円くれ」
 
 桃香は財布の中にあった3万円ほどをすべて竜也に渡した。

 「全部あげます。登くーん、オバチャンたちと行こう」
 
 竜也は思いがけない臨時収入に上機嫌になった。

 「登、このひとたちに食わせてもらえ」
 「いやだ。父ちゃんと一緒がいい」
 「いいから黙って行って来い。嫌になったらまた帰ってくればいい。俺はちょっと出掛けて来るからな。
 それじゃあ登のこと、よろしくお願いします」

 竜也はパチンコ屋に走って行った。

 「登君、それじゃあ行こうか?」

 登は桃香と薫子に手を引かれ、アパートを出た。




 パチンコは大当たりだった。

 「ようやく俺にも運が向いてきたぜ。10万にはなるな?」

 するとこの前の老人が竜也に声を掛けて来た。

 「また連続確変かいな? ついてまんなあ、アンタはん」
 「たまには勝たねえとなあ」
 「アンタ、ツイてるようや。どや? ええ仕事があるんやけどやってみんか?」
 「ヤバい仕事はしねえよ」
 「なーに簡単な仕事じゃよ、誰でも出来る」

 それだけ言うと老人は笑って去って行った。



 翌日は最悪だった。朝から6万円が溶けていた。

 「クソっ! なんなんだこの台は!」

 そこにまた昨日の老人が柄の悪い男ふたりを従えてやって来た。

 「今日は最悪のようやなあ? どや? 話だけでも聞いてみいひんか?」



 竜也はパチンコ屋の立体駐車場に連れて行かれた。
 
 「乗れ」

 竜也は男たちに促され、黒のヴェルファイアの中に乗せられた。

 「取り敢えず前金で3万円。入社祝い金や」

 老人は3万円を竜也に渡した。
 竜也は喉から手が出るほどカネが欲しかったのでそのカネをすぐに受け取った。

 「仕事はなんだ?」
 「セールスだよ」
 「営業か?」
 「これを売って欲しいんや」

 男が竜也に小さなパケを渡した。

 「俺はクスリはやらねえ」
 「入社祝い金を受け取った以上、拒否は出来んぞ。お前はもうやるしかねえんだよ」
 「これを5万で売れ。お前の取り分は10%の5,000円だ。悪い話じゃねえだろう?」
 「1万円だ、売ったら二割を俺にくれ」
 「お前、誰に物を言ってるんだ? このお方を誰やと思うとるんじゃボケ」
 「まあいい。いいだろう、二割をお前にやる。その代わりノルマは月100万だ。売れない時はお前の買い取りになる。いいな?」
 「・・・」
 「分かっていると思うがデコ助に捕まったり、垂れ込んだらおめえは森の中で腐り果てることになることを忘れんな」

 竜也はこうしてヤクの密売人にされてしまった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

兄の悪戯

廣瀬純七
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...