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第7話

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 女を自分の寝室へ招き入れたのは、いつのことだっただろう?
 私たちは無言でキスをした。
 ただ自然に。

 それは彼女への同情でもなく、梅雨になってアジサイの花が開くように、私たちは愛し合った。
 どちらから誘うでもなく、それはまるで出会った時からこうなることが決められていたかのように。

 部屋の灯りは消したままにした。
 それは病に蝕まれた、彼女の衰えたカラダを晒すことが忍びなかったからだ。

 「灯りを消して・・・」

 と、涼子に言わせたくなかった。
 だがカーテンは全開にした。
 スーパームーンの青白い月光が、私たちの若くはない肉体を、やさしく照らしていた。


 「あったかいのね? 人のカラダって?」

 私は冷たい涼子の体を抱きしめ、何度もキスをした。

 「こうしていると、ずっと前からこうしていたみたいだ」
 「ホント、ずっとこうしていたみたい・・・」

 私たちはじっと身じろぎもせず、お互いのカサついた愛を持ち寄った。
 肉欲だけのそれではなく、お互いの愛がすり抜けていかないように、私と涼子は肌を合わせた。
 それはとても心地良いものだった。
 そこにはお互いを想う、ゆるぎない信頼関係が存在していたからだ。

 「ごめんなさいね? 私、もうオバサンだから・・・」
 「素敵だよ、とても」
 「オッパイだって、小さいし・・・」
 「好きだよ、この胸。そして君のすべてが好きだ」
 
 私は涼子の緩やかな起伏の頂に口づけをした。
 涼子の体がビクンとそれに反応した。
 そして涼子が言った。

 「ここ、触ってもいい?」
 「もちろん」
 「うれしい・・・。凄く硬くなってる・・・」
 「君のおかげだよ」
 「やさしくしてね・・・。
 もう随分こうゆうことがなかったから・・・」
 「痛かったら言ってくれ」
 「うん・・・」

 彼女のソコは、十分挿入に可能なほど濡れていた。
 私は静かにそこへ自分を宛がうと、予告をした。

 「それじゃあ、ゆっくりと入れるよ?」
 「はい・・・」

 涼子は囁くようにそれに同意した。
 私が亀頭の部分を滑り込ませた時、涼子が軽く呻いた。

 「痛っ・・・」
 「大丈夫?」
 「大丈夫・・・、ゆっくりお願い」

 ショートケーキに付いている、薄いビニール・フィルムを剥すように、私は彼女の中に自分を慎重に進入させていった。
 彼女の顔から苦悶する表情が消え、顎が上がり、甦る快感に白いシーツを握り締めた。
 私は自分のペニスの根本が涼子の入口まで到達したことを確認すると、そのまま動かず、彼女がそれに慣れるまでじっとしていた。

 「あなたが私の中に入っているのがわかるわ・・・」
 「温かくて、いい気持ちだよ」
 「少し、動いてみて・・・」

 私はゆっくりと腰を動かし始めた。
 ゆっくりと、滑らかに。
 彼女の熱い吐息が漏れて来た。

 「大丈夫みたいだね?」

 涼子は黙って頷いた。
 その動作をしばらく続けていると、涼子が言った。

 「生理はもうないから大丈夫、そのまま中に頂戴」
 「じゃあ、その時が来たら僕の腕を掴んで合図してくれ。そのまま出すから」
 
 涼子は眼を閉じ、頷いた。


 やがて彼女のか細い指が、強く私の腕を掴んで叫んだ。

 「来て!」

 それは今までのセックスでは経験したことのない射精感だった。
 月の光の中で、私たちはお互いの優しさを、体全体に感じた。
 まるで新婚初夜のように。

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