上 下
20 / 20

最終話

しおりを挟む
 オレンジとの青春を思い出しながら、いつの間にか私は駅に着いた。
 心地よい風がホームをすり抜けて行く。
 水曜日の午後のホームは人も疎らで、気怠い駅のアナウンスが流れていた。
 私はホームの自販機で温かい缶コーヒーを買った。


 「まもなく3番線に電車が参ります。
 危ないですから黄色い線の内側に下がってお待ち下さい」

 減速した電車がホームに近づいてくるのが見えた。
 
 その時、反対側のホームに私を見て微笑むオレンジが立っていた。
 それは紛れもなく、あの時のオレンジだった。
 長く美しい栗色の髪、スラリと伸びた長い足、そして鳶色の澄んだ瞳。
 間違いなくそれはオレンジだった。
 彼女は私に何かを言った。
 
 「何? オレンジ、今何て言った?」

 すると彼女は笑って言った。

 「好きよジュン、愛しているの。今でもずっとあなたが好き・・・」

 私はオレンジのその言葉を聞いて安心した。

 「柑奈! 俺もお前が好き・・・」

 私がそう叫ぼうとした時、ホームに入って来た上り電車に私は吸い込まれていった。



 駅の空き地には枯れたススキの穂が秋風に揺れ、線路には潰れた缶コーヒーが転がっていた。
 空は溶けたクリームソーダのような色をしていた。


                          『オレンジとボク』完

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...