★【完結】終わりなき長いトンネルの中を 口笛を吹きながら進め(作品230601)

菊池昭仁

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最終話

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 債権者たちに残金の返済をするために、俺は親父に同行した。


 「お支払いが遅れてすみませんでした。取り敢えず、半分ですが、残りは必ず一生かけても返済します」

 すると、あんなに鬼のような形相で父を罵倒した債権者たちは、

 「社長なら、必ず復活すると信じていましたよ」

 それが世の中というものだと、そのあさましい歪んだ偽りの笑顔を見て、俺はそれを思い知った。
 親父は軽トラックに乗ると言った。

 「俊之助、カネというのは恐ろしい物だよなあ」

 それだけ言うと、親父はクルマのエンジンをかけた。
 親父は新しく、不動産とリフォームの会社を立ち上げた。




 久しぶりに沙織と再会した。

 「よかったね? お父さんが戻って来て」
 「来年、東北大の医学部を受験するつもりなんだ」
 「シュンならきっと大丈夫だよ、絶対に」


 俺は予備校へ入り、猛勉強を始めた。
 母も妹も仕事は辞めなかった。

 「何があるかわからないのが人生だからね」

 ようやく家族に笑顔が戻った。




 そして、2週間が過ぎたころ、秀樹の動画は更新された。
 だが、そこには病室のベッドにいる秀樹の映像ではなく、黒い背景に白く短い文章が綴られていた。



          3月10日 13時52分

          2年間の闘病生活を終え

          息子は天国へ旅立ちました

          ご支援、励ましを下さった皆様

          本当にありがとうございました

                      前嶋



 俺は狂ったように泣き叫んだ。
 桜の花も咲かないうちに、あいつは死んだ。

 どうして、なぜ? せめてサクラの花が咲くまで・・・。
 今、桜は満開なのに。





 10年が過ぎた。
 俺は今、大学病院の医者になった。
 命の最前線で死んでいく命、救われる命。
 俺はその暗い出口のないトンネルの中で、希望の光となる医者になろうと思っている。
 長くて暗いトンネルの中を、明るく口笛を吹きながら。
 その暗いトンネルの中を自分が輝き、闇を照らすために。


               
                    『終わりなき長いトンネルの中を 口笛を吹きながら進め』 完

 
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