エッセイ集『午後のシエスタ』

ラーメンライス

　昔はラーメン専門店は少なく、殆どが食堂のメニューの一部だった。
　
　カツ丼、カレーライス、チャーハン、鳥の唐揚げ、野菜炒め、そしてラーメンと餃子と言った具合である。
　でも今は石を投げればラーメン屋に当たるほどラーメン店が多くなった。
　そして飽きられはじめている。
　日本人は流行に敏感だが飽きるのも早い（笑）
　
　どうしてラーメンマニアがいるの？　それは「安くて、早くて、そこそこ美味しいから」だ。

　ラーメンなら高いラーメンでもせいぜい1,500円前後だしテーブルマナーもいらない。
　もっともマナーやエチケットを少しは守った方がいい輩もいるのも事実だけどね。

　そしてテレビでもYouTubeでもSNSでも毎日のようにラーメンの情報が溢れている。
　かくいう私もラーメンは好きである。

　一時期、暗黒街をうろちょろしていたら「ラーメン屋をやってもいいぞ」とそのスジのボスから許され、ボスの出資でラーメン屋をやることになった。

　私は飲食事業部と風俗事業部の一部を任されており、居酒屋でのランチ、イタリアン、立ち呑み屋、キャバクラにホストクラブ、ピンサロ、デリヘルと、組織からはモテモテであった。
　そして遂に念願のラーメン屋。スープの仕込み等に８時間は掛かるので一日の睡眠時間はたったの２時間。死んじゃうかと思ったがラーメンを作るのは好きだった。体はこわれちゃったけどね。

　スープのレシピはあのラーメンの鬼、佐野実氏の物を勝手に受け継いだ。
　お店はヤクザ屋さんたちの銃撃戦があった殺人事件のあったテナントビルの地下１階。まわりは会員制のオカマBARやサパークラブ、ホストクラブのあるフロアだった。
　上半身裸の金髪ホストとパンツ丸見えのキャバ嬢が階段によく転がっていた（笑）

　掛け持ちだったので営業は午前零時から早朝５時まで。いわゆる深夜食堂的なラーメン屋だった。
　ビルのテナントに入っていたスナックのママさんやクラブのオーナーたちに支えられ、結構店は繁盛していた。

　釣り銭と計算が面倒なのでラーメンは一杯1,000円、餃子とネギ卵チャーハンはそれぞれ200円、生ビールと日本酒は500円均一にした。
　スープはすぐに出来たがこのスープに合う麺が中々出来なかった。麺づくりは難しい。

　さあこれから本格的にラーメンを始めようとした矢先、あるチンピラから俺のラーメンを白河ラーメンにして成功させてやるという話がボスに来て、

　「というわけだからどうだ菊池？　やってみんか？」
　
　と言われたので、

　「だったら私ではなく他の奴にやらせて下さい。私はやりませんから」

　そしてその話は立ち消えになり、私は新しくオープンする昼サロの責任者もやらされることになったので組織を辞めた。


　ラーメンは奥が深くて面白いが所詮は庶民の食物である。蘊蓄を語るようなモノではない。
　「美味い」か「不味い」でいいのだ。価格もワンコインで食べられるモノで十分である。ラーメンでグルメ気取りはあまりに悲しすぎる。

　子供の時、親父が言っていた。

　「東京に配達に行くとな？　ラーメンライスというのがあってラーメンとメシが一緒に出て来るんだ。
　それが結構美味いんだよ」

　ラーメンライス？
　当時、子供だった私にはそれが何か壮大なモノに思えた。

　「尊敬するパパが言うんだから間違いなく美味しいはずだ！」

　そしてついに学生の時、

　「ラーメンライスを下さい！」

　と自信たっぷりに注文したらやはりラーメンとご飯が出て来た。
　とりあえずラーメンをご飯に乗せて食べた。それがラーメンライスの思い出である（笑）