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第4話
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精神科医の使命とは何だろう?
心の病を治すことか? 心の病を完全に治すことは不可能だ。
なぜなら心の病とは、人間の持っている特性、個性だからだ。
物事には常に裏と表、陰と陽がある。太陽と月、コインの裏と表のようにだ。
人間の心にも裏と表、陰と陽があるのだ。
そのどちらかが強くなったり弱くなったりして、人間は存在している。
悲しみと喜び うれしさと切なさ。それが人間なのだ。
出来れば喜怒哀楽の「喜と楽」は、「怒と哀」の7割であるのが理想だ。
そしてそれは糾える縄の如くに交互に訪れる。
悲しみに沈んでいるめぐみを、俺はどうしたら笑顔にすることが出来るのだろう。
彼女を笑顔にしたい、笑わせてあげたい。
俺はめぐみが心配になり、自宅を訪ねてみることにした。
その屋敷は高級住宅街にある、洋館のバラ屋敷だった。
色とりどりのつる薔薇が咲き乱れていた。
ピンポーン
「山本先生? 今、開けます」
モニターフォンを確認しためぐみが、玄関ドアを開けてくれた。
「大丈夫ですか?」
「わざわざすみません。心配して来て下さったのですか?」
「ちょっと近くに用事があったので。大丈夫そうで安心しました。
これ、私の携帯番号です。何か不安になることがあればいつでも連絡して下さい。
24時間年中無休で営業していますから」
「コンビニみたいですね?」
「では今日はこれで失礼します。穏やかにお過ごし下さい。
私が処方した薬はちゃんと飲んでいますか?」
「ええ。もしお急ぎでなければお茶でもいかがですか?」
「女性一人のお宅にお邪魔するわけにはいきませんから。
「エロ精神科医だ!」なんて言われて『ミネネ屋』で報道されたくありませんから」
「どうぞ上がって下さい。今お茶を淹れますから。それともお酒の方がよろしいかしら?」
「それじゃあちょっとだけ」
めぐみは俺にスリッパを勧めてくれた。
広い玄関ホールには大きな階段があった。
「ここに主人がぶら下がっていました」
その下の大理石の床をしゃがんで撫でているめぐみの目からは涙が溢れていた。
俺はその時、自分の精神科医としての無力さを知った。
(この女を笑顔にしたい)
心の病を治すとは「人を笑顔にすること」ではないのか?
この女の悲しみを癒せない俺に、精神科医を名乗る資格はあるのだろうか?
医者としての意味はあるのだろうか?
私は思わず、そんなめぐみを抱きしめてしまった。
「先生、私、生きているのが辛いの。このまま私の首を締めて私を主人のところへ送って欲しい、お願い、お願い先生・・・」
「私は必ずあなたを笑顔にして見せます」
「どうやって?」
その時俺は葵の家で見た、あの道化師になった外科医のことを思い出していた。
笑わなくなってしまった恋人を笑わせようと、必死に道化を演じているあの男のことを。
「僕はお笑い芸人になります! そしてめぐみさんを絶対に笑わせて見せます!」
「先生がお笑い芸人に? お医者さんのあなたが?
ふざけないで下さい。私、お笑いにはうるさいですよ、ちょっとやそっとでは笑いません」
「ふざけてなんかいません! 僕は本気です!」
「お医者さんのお仕事はどうするんですか?」
「辞めます。辞めてお笑い養成所に入ってお笑いを一から勉強します!」
「誰かとコンビを組んで?」
「ピンでやります!」
「先生、心のクリニックに行かれた方がいいですよ」
俺はすぐに教授に辞表を提出し、お笑い養成所に入学願書を提出した。
確かに俺は狂っていたのかも知れない。
だがめぐみを笑わせるために、俺は自分の人生をお笑いに賭ける覚悟を決めた。
心の病を治すことか? 心の病を完全に治すことは不可能だ。
なぜなら心の病とは、人間の持っている特性、個性だからだ。
物事には常に裏と表、陰と陽がある。太陽と月、コインの裏と表のようにだ。
人間の心にも裏と表、陰と陽があるのだ。
そのどちらかが強くなったり弱くなったりして、人間は存在している。
悲しみと喜び うれしさと切なさ。それが人間なのだ。
出来れば喜怒哀楽の「喜と楽」は、「怒と哀」の7割であるのが理想だ。
そしてそれは糾える縄の如くに交互に訪れる。
悲しみに沈んでいるめぐみを、俺はどうしたら笑顔にすることが出来るのだろう。
彼女を笑顔にしたい、笑わせてあげたい。
俺はめぐみが心配になり、自宅を訪ねてみることにした。
その屋敷は高級住宅街にある、洋館のバラ屋敷だった。
色とりどりのつる薔薇が咲き乱れていた。
ピンポーン
「山本先生? 今、開けます」
モニターフォンを確認しためぐみが、玄関ドアを開けてくれた。
「大丈夫ですか?」
「わざわざすみません。心配して来て下さったのですか?」
「ちょっと近くに用事があったので。大丈夫そうで安心しました。
これ、私の携帯番号です。何か不安になることがあればいつでも連絡して下さい。
24時間年中無休で営業していますから」
「コンビニみたいですね?」
「では今日はこれで失礼します。穏やかにお過ごし下さい。
私が処方した薬はちゃんと飲んでいますか?」
「ええ。もしお急ぎでなければお茶でもいかがですか?」
「女性一人のお宅にお邪魔するわけにはいきませんから。
「エロ精神科医だ!」なんて言われて『ミネネ屋』で報道されたくありませんから」
「どうぞ上がって下さい。今お茶を淹れますから。それともお酒の方がよろしいかしら?」
「それじゃあちょっとだけ」
めぐみは俺にスリッパを勧めてくれた。
広い玄関ホールには大きな階段があった。
「ここに主人がぶら下がっていました」
その下の大理石の床をしゃがんで撫でているめぐみの目からは涙が溢れていた。
俺はその時、自分の精神科医としての無力さを知った。
(この女を笑顔にしたい)
心の病を治すとは「人を笑顔にすること」ではないのか?
この女の悲しみを癒せない俺に、精神科医を名乗る資格はあるのだろうか?
医者としての意味はあるのだろうか?
私は思わず、そんなめぐみを抱きしめてしまった。
「先生、私、生きているのが辛いの。このまま私の首を締めて私を主人のところへ送って欲しい、お願い、お願い先生・・・」
「私は必ずあなたを笑顔にして見せます」
「どうやって?」
その時俺は葵の家で見た、あの道化師になった外科医のことを思い出していた。
笑わなくなってしまった恋人を笑わせようと、必死に道化を演じているあの男のことを。
「僕はお笑い芸人になります! そしてめぐみさんを絶対に笑わせて見せます!」
「先生がお笑い芸人に? お医者さんのあなたが?
ふざけないで下さい。私、お笑いにはうるさいですよ、ちょっとやそっとでは笑いません」
「ふざけてなんかいません! 僕は本気です!」
「お医者さんのお仕事はどうするんですか?」
「辞めます。辞めてお笑い養成所に入ってお笑いを一から勉強します!」
「誰かとコンビを組んで?」
「ピンでやります!」
「先生、心のクリニックに行かれた方がいいですよ」
俺はすぐに教授に辞表を提出し、お笑い養成所に入学願書を提出した。
確かに俺は狂っていたのかも知れない。
だがめぐみを笑わせるために、俺は自分の人生をお笑いに賭ける覚悟を決めた。
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