【完結】姉ちゃんって呼んでもいいか?(作品250620)

菊池昭仁

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第1話

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 子供の頃、夏休みにおふくろの田舎に行くと、いつも俺にやさしくしてくれる2つ年上の従姉妹いとこがいた。
 だが私は彼女が何故か苦手だった。
 私には生れたばかりの妹しかいなかったこともあり、いつも遊ぶのは従兄弟の賢治兄ちゃん、「ケンボアンチャン」だった。
 その従姉妹との関わりを、私はそうしてなんとなく避けていたのである。
 

 私が小学校の6年生になった時、おふくろが急に田舎に家族全員で引っ越すと言い始めた。
 おふくろは一度言ったらきかない性分の女だった。
 あと一年で小学校を卒業して中学という時に、突然田舎に引っ越すというのである。
 息子の私のことなど考えてはいない様子だった。

 親父は会社ではかなり有能な社員であり、親父がいなくなるとその酒造会社は多大な損失になるということもあり、社長が家までやって来て、親父とおふくろを説得しようと試みたらしい。

 「給料も上げる、家も建ててやるし息子も大学まで面倒をみてやる、だから頼む、どうか会社に残ってくれ」

 だがおふくろはその社長の破格の条件にも首を縦には振らなかったという。
 それは後日、親父から聞いた話だった。
 親父は若い頃はエリート銀行員だったが、カネに執着のない男で、田舎で暮らしたいというおふくろの申し出に従った。
 
 私はそれが決してイヤではなかった。
 一度、転校生というやつをやってみたかったからである。
 だが田舎の小学校での転校生は珍しく、埼玉という中途半端な都会から来た私は苛められた。

 「おめえ、東京から来たんだってな? すかして(カッコつけること)んじゃねえぞ!」

 と、最初はよく殴られたり蹴られたりもした。

 
 おふくろは田舎に帰って来ると夜、毎日のように私と妹を連れて、片道歩いて30分も掛かるおふくろの実家に大きな懐中電灯を点けながら祖母に会いに行った。
 だがそれは祖母に会いに行くというより、従姉妹に会いに行くような気がしていた。
 なぜならケンボアンチャンに接する態度と、明らかに違っていたからである。

 「リカ、アンタに靴を買って来たから履いてみなさい」

 従姉妹は私よりも2つ年下の広美ちゃんもいたのに、彼女には何も与えようとはしなかった。
 それはまるで我が子を見るような愛おしそうな目であった。

 (何でリカちゃんばっかりかわいがるんだろう? しかも毎日)

 
 中学に入学した時、親戚の叔母さんからヘンな事を言われた。

 「あっちゃん、リカちゃんはあっちゃんの本当のお姉ちゃんなんだよ。あはははは」

 衝撃的だった。
 叔母は以前、睡眠薬を多量摂取して自殺未遂をしており、精神が不安定だった。
 だが本当はそんなに驚くことではなかった。
 それはなんとなくリカちゃんが、自分と血が繋がっているような気がしていたからだった。
 母がどうして田舎に帰りたがったのか、それは実家に里子に出した、自分の娘の傍にいたかったからだったのである。
 私と親父、妹はそのために都会での安定した生活を捨てることになったというわけだ。
 私はやるせない気持ちになった。

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