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第4話
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私には好きな女の子がいた。
皆川由美子。彼女も私と同じ、小学校6年生の時に転校して来た女の子だった。
彼女は市内からの転校だった。
読書好きで、読書感想文コンクールではいつも賞を総なめにしていた。
活発で明るく、ユーモアのわかる女の子だった。
私はすぐに彼女が好きになり、仲良くなった。それは淡い初恋だった。
同じ中学に進み、クラスは別々になってしまったが、廊下などで会うとよく話しをした。
皆川はリカちゃんがキャプテンをしているソフトボール部に入部した。
「部長のリカ先輩が凄くいい先輩なんだよ。やさしくて後輩の面倒みが良くてピッチャーで4番なんだ」
(それは知っているよ。リカちゃんは俺の本当の姉ちゃんなんだから)
「リカ姉ちゃんは俺の従姉妹なんだ」
「えっ? そうなの? それじゃあ将来、私のお姉さんになるかもね? あはははは」
私は笑わなかった。笑えなかった。
皆川の言った「お姉さん」という言葉が胸に突き刺さった。
(由美子、お前がお姉さんと言ったリカちゃんは従姉妹ではなく、俺の本当の姉さんなんだよ)
声に出して言いたかった。
家に遊びに来ていたリカちゃんに私は皆川の部活でのことをよく訊いた。
「リカちゃんのソフト部の1年生に皆川由美子って女子がいるだろう?
どう? レギュラーになれそう?」
「ああ、由美子ね? けっこうイケるんじゃないのかなあ? センスもいいしかわいいしね?」
「そう」
「仲がいいの? 由美と?」
「普通」
もちろんリカちゃんは私が皆川に気があることはお見通しだ。
リカちゃんは私に会う度、皆川の話しをしてくれた。
「今日は由美とキャッチボールをしたんだけど、アキのことをうれしそうに話していたよ。
由美もあなたのことが好きなのね?」
リカちゃんは皆川のことを親しみを込めて「由美」と呼んでいた。
そして皆川もリカちゃんのことを「リカ先輩」と下の名前で呼んでいたらしい。うれしかった。
もっと彼女のことが聞きたかった。
リカちゃんと私の間に共通の話題が出来た。
だがそんなある日、皆川から悲しいことが告げられた。
「私ね、二年生になったら三中に転校することになっちゃった。
お父さんが家を建てて引っ越すことになったの」
私は酷く落ち込んだ。
リカちゃんも皆川からそれを聞いたようで、私を姉のように慰めてくれた。
「アキ、ガッカリすんな。同じ市内にいるんだからいつでえ会えっペ。
そうだ、今度由美とデートすればいいよ。由美に言ってやるから」
リカちゃんは弟の私のためにわざわざ皆川の家まで行き、デートの約束を取り付けて来てくれた。
「由美は大きな家に住んでいてね、ピアノもあったよ。学校ではいつもジャージか制服だけど、家ではかわいい服を着ていた。今度の土曜日の午後2時に、大町中央公園で待っているってさ」
私は胸が高鳴った。
「ありがとう、ありがとうリカちゃん」
本当はこの時、「ありがとう、姉ちゃん」と言おうと思ったが止めた。
それはまだ早いと思ったからだ。
公園で一緒にブランコに乗り、皆川にオルゴールを渡した。
「ありがとう、また会おうね?」
「うん」
皆川との幼い恋が芽生えた。
彼女が三中に転校して何度か文通をしたが、そのうち皆川から返事が来なくなった。
風の噂ではどうやら彼女には新しいボーイフレンドが出来たということらしかった。
私の初恋はあっけなく幕を閉じた。
悲しみに沈む弟の私に、リカちゃんはやさしかった。
「アキ、『白孔雀』のソースカツ丼、食いにあいべ(一緒に行こう) ごちそうしてやっから」
私はその時、リカちゃんに御馳走になったソースカツ丼の味を今も忘れてはいない。
皆川由美子。彼女も私と同じ、小学校6年生の時に転校して来た女の子だった。
彼女は市内からの転校だった。
読書好きで、読書感想文コンクールではいつも賞を総なめにしていた。
活発で明るく、ユーモアのわかる女の子だった。
私はすぐに彼女が好きになり、仲良くなった。それは淡い初恋だった。
同じ中学に進み、クラスは別々になってしまったが、廊下などで会うとよく話しをした。
皆川はリカちゃんがキャプテンをしているソフトボール部に入部した。
「部長のリカ先輩が凄くいい先輩なんだよ。やさしくて後輩の面倒みが良くてピッチャーで4番なんだ」
(それは知っているよ。リカちゃんは俺の本当の姉ちゃんなんだから)
「リカ姉ちゃんは俺の従姉妹なんだ」
「えっ? そうなの? それじゃあ将来、私のお姉さんになるかもね? あはははは」
私は笑わなかった。笑えなかった。
皆川の言った「お姉さん」という言葉が胸に突き刺さった。
(由美子、お前がお姉さんと言ったリカちゃんは従姉妹ではなく、俺の本当の姉さんなんだよ)
声に出して言いたかった。
家に遊びに来ていたリカちゃんに私は皆川の部活でのことをよく訊いた。
「リカちゃんのソフト部の1年生に皆川由美子って女子がいるだろう?
どう? レギュラーになれそう?」
「ああ、由美子ね? けっこうイケるんじゃないのかなあ? センスもいいしかわいいしね?」
「そう」
「仲がいいの? 由美と?」
「普通」
もちろんリカちゃんは私が皆川に気があることはお見通しだ。
リカちゃんは私に会う度、皆川の話しをしてくれた。
「今日は由美とキャッチボールをしたんだけど、アキのことをうれしそうに話していたよ。
由美もあなたのことが好きなのね?」
リカちゃんは皆川のことを親しみを込めて「由美」と呼んでいた。
そして皆川もリカちゃんのことを「リカ先輩」と下の名前で呼んでいたらしい。うれしかった。
もっと彼女のことが聞きたかった。
リカちゃんと私の間に共通の話題が出来た。
だがそんなある日、皆川から悲しいことが告げられた。
「私ね、二年生になったら三中に転校することになっちゃった。
お父さんが家を建てて引っ越すことになったの」
私は酷く落ち込んだ。
リカちゃんも皆川からそれを聞いたようで、私を姉のように慰めてくれた。
「アキ、ガッカリすんな。同じ市内にいるんだからいつでえ会えっペ。
そうだ、今度由美とデートすればいいよ。由美に言ってやるから」
リカちゃんは弟の私のためにわざわざ皆川の家まで行き、デートの約束を取り付けて来てくれた。
「由美は大きな家に住んでいてね、ピアノもあったよ。学校ではいつもジャージか制服だけど、家ではかわいい服を着ていた。今度の土曜日の午後2時に、大町中央公園で待っているってさ」
私は胸が高鳴った。
「ありがとう、ありがとうリカちゃん」
本当はこの時、「ありがとう、姉ちゃん」と言おうと思ったが止めた。
それはまだ早いと思ったからだ。
公園で一緒にブランコに乗り、皆川にオルゴールを渡した。
「ありがとう、また会おうね?」
「うん」
皆川との幼い恋が芽生えた。
彼女が三中に転校して何度か文通をしたが、そのうち皆川から返事が来なくなった。
風の噂ではどうやら彼女には新しいボーイフレンドが出来たということらしかった。
私の初恋はあっけなく幕を閉じた。
悲しみに沈む弟の私に、リカちゃんはやさしかった。
「アキ、『白孔雀』のソースカツ丼、食いにあいべ(一緒に行こう) ごちそうしてやっから」
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