【完結】姉ちゃんって呼んでもいいか?(作品250620)

菊池昭仁

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第6話

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 5月のゴールデンウィークに初めて帰省した。
 
 家に着いてすぐ、おふくろの得意なチャーシュー麺を食べた。
 それは帰省することを母に告げた時にリクエストしていた物だった。

 「帰省したら何が食べたい」
 「お母さんのチャーシュー麺」
 「うんわかった、大盛りを作って上げる」

 美味そうに食べている私を、母は目を細めて凄くうれしそうに見ていた。

 「どうなの? 富山は? お金を貯めてお母さんも卒業式には富山に行きたいわ」

 母はそんな遠い先の話しをした。富山は会津から遠い。我が家にとっては旅費もバカにはならなかった。
 入学式には父だけが臨席してくれた。
 私はラーメンを啜りながら言った。

 「富山に行って初めて、親のありがたさを知ったよ。ありがとうおふくろ」

 私は高専に入ったこともあり、母のことをお母さんではなく「おふくろ」と呼んだ。
 「お前には苦労させてごめんね?」

 母はそう言って涙を拭いていた。自分の息子がこんなにも大人になって帰って来たのかと喜んでいる様子だった。


 私は長旅の疲れもあり、すぐに横になって眠ってしまった。


 
 目を覚ますと親父が少し早く会社から帰っていて、ビールを飲んでいた。

 「あっ、親父ただいま」

 父のことも「親父」と呼んだ。親父もそれがうれしそうだった。

 「お帰り。汽車、混んでいなかったか?」
 「うん、大丈夫だったよ」
 「そうか」

 すると母が言った。

 「親のありがたみがわかったって言っていたわよって言ったら、この人、泣いていたわよ」
 「親父、富山の学校に行かせてくれて本当にありがとう」
 
 親父は黙って微笑んで頷いた。
 私は妹に富山駅で買ったお菓子をあげた。

 「お兄ちゃん、ありがとう」

 家族っていいものだなあと思った。その時、リカちゃんの顔が目に浮かんだ。
 本来ならここにいるはずの姉の姿を。


 高専の三年生の時、学校を辞めようとしたこともあったが両親に反対され、そのまま学業を続けて5年半の学生生活を終え、私は国際航路の航海士として世界中を歩いていた。
 
 会社から給料の振り込まれる銀行の通帳と通帳印は母に預けていた。

 「この口座のカネは自由に使っていいからね?」
 「お前が働いたお金なんて使えないよ」

 おふくろはそう言って喜んでくれた。
 衣食住がすべてタダの船乗りである、給料はどんどん貯まる一方であった。
 小学校6年生になった妹はその通帳をおふくろから見せてもらい、

 「お兄ちゃん凄いねママ? これならお家もすぐに建っちゃうね?」

 そう言って喜んでいたらしい。


 日本に帰国すると、よくリカちゃんに看護婦たちとの飲み会に誘われた。
 どうやらおふくろから嫁さん候補を探すように依頼されていたようだった。

 「アキ、ここここ、ここに座れ。オラの従弟なんだ、いい男だべ? 船乗りしてんだ」

 リカちゃんは私を弟とは言わず、自分の従弟いとことして紹介した。それがなぜか寂しく感じた。

 「えっー、この人が主任の自慢の従弟さんなのお?」
 「はーい! 私、お付き合いしたいでーす! あはははは」

 リカちゃんはとてもうれしそうだった。
 そしてリカちゃんは一番仕事が出来て美人でリカちゃんと気心の知れたナースを私に紹介してくれた。
 歳は私と同じ歳だった。だが私にはその時既に結婚を約束した女がいたので交際へと発展することはなかった。


 それから5年、私はニューヨーク支店への栄転も辞退して会社を辞め、彼女の待つ地元会津に戻り結婚した。
 私は無職で女房に食べさせてもらっていた。
 リカちゃんは酷く落胆した。リカちゃんのすすめる看護師と結婚すれば私は仕事を辞めることもなく、おふくろたちもみんな安泰であったからだ。
 私は会津で仕事を探した。

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