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第21話 再びの想い

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 その日、瑞希は実家に居た。

 「パパ、ごめんなさい。私、聡と離婚しちゃった」

 池の錦鯉に餌をやっていた大山は、瑞希に振り向き笑った。

 「どうせあいつはただの種馬だ。
 おまえと信正がおればそれでいい。
 お前を乗りこなすことの出来ぬ男に、政治家など務まらんよ。
 アイツの父親と同じ、せいぜい県議止まりの男だ」




 聡は大山の口利きで入った市役所を辞めた。
 意外にも聡の両親はそれを咎めようとはしなかった。

 「聡、すまなかったな・・・」

 聡は何故父親が地方議員のままなのか、理解することができた。
 国政に出るには親父はあまりに優しすぎたのだ。




 聡は自分の気持ちを整理するために、北陸の金沢へ旅に出ることにした。
 香林坊や兼六園を散策したが、聡の心は埋まらなかった。

 (一体俺は今まで何をしていたんだ? これから俺は何をして生きて行けばいい?)

 聡の自問自答は続いた。



 内灘の砂浜で、沈みゆく日本海の夕日を見詰めていると、遥の笑顔が浮かんだ。
 
 (遥は今、幸せなのだろうか? 遥に会いたい・・・)

 聡は声をあげて泣いた。
 日本海の波音がそれを掻き消してゆく。
 何度も何度も砂浜を拳で叩きつけ、自分の不甲斐なさを詰った。


 それに疲れ果てた聡は砂浜に大の字になり、星空を眺めた。
 いつの間にか辺りは闇に包まれ、天空には無数の星が輝いていた。
 流れ星が流れ、聡は決意した。

 (一度きりの人生を後悔して生きるのはもうごめんだ、今度こそ、俺は自分の気持ちに正直に生きるんだ!)

 遥を、遥の愛をもう一度取り戻そうと聡は思った。
 たとえ詰られても、罵倒されてもいい、家族とすでに暮らしていようと遥を取り戻したい。

 結果なんてどうでもいい、遥に拒絶されても構わない。
 何もしないで人生を諦めたくはない。


 聡は直ちに金沢駅に向かうと、東京行きの北陸新幹線に飛び乗った。

 そこにはもう聡の迷いはなかった。
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