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第8話
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就職の面接のために必要なリクルート・スーツを買ってやろうと、北大路はマサルと明美を連れて『洋服の青川』にやって来た。
「面接に行くにはスーツじゃねえとな? それから靴とネクタイ、ベルトとYシャツ、ハンカチに靴下も必要だろう?」
「大丈夫っすよ親父。スーツじゃねえといけねえような面接には行かねえですから」
「どんな仕事でもキチンとした格好で面接を受けるのが、その会社、担当者への礼儀というもんだ。
それから金髪は辞めろ。好感度のある髪型にするんだ」
「七三とかっすか?」
「見苦しくない髪型にしろということだ。短髪にした方がいい。
どうしてだかわかるか? 人は中身が大切だという奴がいるが、あれは嘘だ。
キチンとしている奴は身だしなみもキチンとしている。
言葉遣いもそうだ。だからもうヤンキー言葉は使うな。人は見た目なんだよ」
「はい」
「そうだ、その調子だ」
「川村もやる!」
「明美、お前はその「川村」と自分の名前を呼ぶ癖はもう辞めろ。
お前は話し方とその髪、そして目がチカチカするような格好でかなり損をしている。
お前は本当はバカじゃねえ、勉強が出来なかったんじゃねえんだ、やれなかっただけだからな」
「うん、じゃなかったハイ!」
「お前たちはある意味自分に素直なんだ。正直なんだよ。純粋なんだ。
でもな? その外見でかなり損をしているのも事実だ。
人はな? その人間が何をどれだけ持っているかでその人間を値踏みする。判断するんだ。
エラい奴か、そうでない奴か? 自分にとって得か、得じゃないかで人を見る。
だからと言ってそんな人間を拒絶しては駄目だ。相手を認めてやることだ。
「コイツ、嫌な奴だな」と思うと、必ずそれが相手にも伝わる。
仕事では当然嫌な奴とも付き合わなければならない。だから我慢も必要だ。
お前たちはまず我慢を覚えなくてはいけねえ」
「我慢かあ。やってみます、親父」
北大路はふたりに其々スーツや靴などを丁寧に選んでやった。
「マサル、これなんかどうだ? シンプルで丈夫、しかも洗えるらしいぞ」
「こっちでいいです」
マサルは北大路に気兼ねして、わざと安い方を選んだ。
「安物は買うな? いいものを大切に長く使うんだ。
明美、靴のサイズはそれで合うのか?」
「うん、23.5だから大丈夫」
「一応履かせてもらえよ、靴は大事だからな?」
「はーい」
ふたりは北大路に買ってもらった靴やスーツなどが入った紙袋を、大切に抱えていた。
「親父。ありがとうございます」
「ありがとう北大路、じゃなかった・・・、パパ」
ふたりはとてもしあわせそうな顔をしていた。
その日、北大路はふたりに1万円ずつを渡して美容院に行かせ、髪を切り、黒く染めさせた。
そしてアパートに戻って来たふたりは北大路に買ってもらったスーツを着てみた。
「どうだ明美。似合うか? 俺のスーツ姿」
「なんだかマサル、高卒みたいにみえるよ」
「明美、お前もどっから見ても女子大生って感じで、惚れ直したぜ」
「ありがとう、マサル」
「明日から職探しだな。がんばろうな? 明美」
「うん、マサル。そしてパパを早く安心させてあげたいね?」
「ああ、そうだな? 親父は俺たちの大切な親だからな? 初給料貰ったら、親父を焼肉屋に招待してやろうぜ」
ふたりは希望に溢れていた。
翌日からふたりは、一生懸命仕事を探した。
いくつも面接を受けたが中卒のふたりには思ったような仕事は見つからなかった。
マサルはとある食品工場の正社員を受けてみることにした。
「学歴不問かあ。よし、これなら行けるかもしれねえ」
マサルは履歴書を持って面接に赴いた。
「それでは履歴書を拝見してもよろしいですか?」
「あっ、はい。よろしくおねがいします!」
マサルが緊張して履歴書を出すと、その採用担当者は履歴書を見ながらこう言った。
「わかりました。それでは結果は後日お伝えさせていただきます。今日はどうもお疲れ様でした」
やさしい笑顔で応対してくれたその人を見て、マサルは思った。
(これは採用になったかもしれねえ)
マサルはそう思ってその会社を後にした。
アパートに帰ると明美が待っていた。
「マサル、面接はどうだった?」
「ああ、今度はいけるかもしれねえ」
「よかったね?」
「明美の方はどうだったんだ? スーパーの契約社員だったよな?」
「採用になったの! 明日から来て欲しいって」
「よかったじゃねえか明美! それじゃあ今日はお祝いだな? コンビニで缶酎ハイを買って来るよ」
「私も一緒に行く! あのアイスも買っていい?」
「ああ、おめえの好きなチョコミントな? いいよ、今日は特別だ」
「マサル大好きーっつ!」
ふたりは手を繋いで仲良くコンビニへと出掛けた。
マサルは毎日郵便受けを覗いたが、採用通知は来なかった。
そして3日後、不採用の通知が届いた。
マサルはすぐに人事担当に連絡をした。
「どうして不採用なんですか?」
「君、高校は出ていないんだよね? ウチでは無理だよ」
「だって採用条件には学歴不問って」
「悪いがそういうことだから」
電話は一方的に切られてしまった。
マサルは不採用通知をビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
「ちくしょー! ふざけやがって!」
マサルは荒れた。
「面接に行くにはスーツじゃねえとな? それから靴とネクタイ、ベルトとYシャツ、ハンカチに靴下も必要だろう?」
「大丈夫っすよ親父。スーツじゃねえといけねえような面接には行かねえですから」
「どんな仕事でもキチンとした格好で面接を受けるのが、その会社、担当者への礼儀というもんだ。
それから金髪は辞めろ。好感度のある髪型にするんだ」
「七三とかっすか?」
「見苦しくない髪型にしろということだ。短髪にした方がいい。
どうしてだかわかるか? 人は中身が大切だという奴がいるが、あれは嘘だ。
キチンとしている奴は身だしなみもキチンとしている。
言葉遣いもそうだ。だからもうヤンキー言葉は使うな。人は見た目なんだよ」
「はい」
「そうだ、その調子だ」
「川村もやる!」
「明美、お前はその「川村」と自分の名前を呼ぶ癖はもう辞めろ。
お前は話し方とその髪、そして目がチカチカするような格好でかなり損をしている。
お前は本当はバカじゃねえ、勉強が出来なかったんじゃねえんだ、やれなかっただけだからな」
「うん、じゃなかったハイ!」
「お前たちはある意味自分に素直なんだ。正直なんだよ。純粋なんだ。
でもな? その外見でかなり損をしているのも事実だ。
人はな? その人間が何をどれだけ持っているかでその人間を値踏みする。判断するんだ。
エラい奴か、そうでない奴か? 自分にとって得か、得じゃないかで人を見る。
だからと言ってそんな人間を拒絶しては駄目だ。相手を認めてやることだ。
「コイツ、嫌な奴だな」と思うと、必ずそれが相手にも伝わる。
仕事では当然嫌な奴とも付き合わなければならない。だから我慢も必要だ。
お前たちはまず我慢を覚えなくてはいけねえ」
「我慢かあ。やってみます、親父」
北大路はふたりに其々スーツや靴などを丁寧に選んでやった。
「マサル、これなんかどうだ? シンプルで丈夫、しかも洗えるらしいぞ」
「こっちでいいです」
マサルは北大路に気兼ねして、わざと安い方を選んだ。
「安物は買うな? いいものを大切に長く使うんだ。
明美、靴のサイズはそれで合うのか?」
「うん、23.5だから大丈夫」
「一応履かせてもらえよ、靴は大事だからな?」
「はーい」
ふたりは北大路に買ってもらった靴やスーツなどが入った紙袋を、大切に抱えていた。
「親父。ありがとうございます」
「ありがとう北大路、じゃなかった・・・、パパ」
ふたりはとてもしあわせそうな顔をしていた。
その日、北大路はふたりに1万円ずつを渡して美容院に行かせ、髪を切り、黒く染めさせた。
そしてアパートに戻って来たふたりは北大路に買ってもらったスーツを着てみた。
「どうだ明美。似合うか? 俺のスーツ姿」
「なんだかマサル、高卒みたいにみえるよ」
「明美、お前もどっから見ても女子大生って感じで、惚れ直したぜ」
「ありがとう、マサル」
「明日から職探しだな。がんばろうな? 明美」
「うん、マサル。そしてパパを早く安心させてあげたいね?」
「ああ、そうだな? 親父は俺たちの大切な親だからな? 初給料貰ったら、親父を焼肉屋に招待してやろうぜ」
ふたりは希望に溢れていた。
翌日からふたりは、一生懸命仕事を探した。
いくつも面接を受けたが中卒のふたりには思ったような仕事は見つからなかった。
マサルはとある食品工場の正社員を受けてみることにした。
「学歴不問かあ。よし、これなら行けるかもしれねえ」
マサルは履歴書を持って面接に赴いた。
「それでは履歴書を拝見してもよろしいですか?」
「あっ、はい。よろしくおねがいします!」
マサルが緊張して履歴書を出すと、その採用担当者は履歴書を見ながらこう言った。
「わかりました。それでは結果は後日お伝えさせていただきます。今日はどうもお疲れ様でした」
やさしい笑顔で応対してくれたその人を見て、マサルは思った。
(これは採用になったかもしれねえ)
マサルはそう思ってその会社を後にした。
アパートに帰ると明美が待っていた。
「マサル、面接はどうだった?」
「ああ、今度はいけるかもしれねえ」
「よかったね?」
「明美の方はどうだったんだ? スーパーの契約社員だったよな?」
「採用になったの! 明日から来て欲しいって」
「よかったじゃねえか明美! それじゃあ今日はお祝いだな? コンビニで缶酎ハイを買って来るよ」
「私も一緒に行く! あのアイスも買っていい?」
「ああ、おめえの好きなチョコミントな? いいよ、今日は特別だ」
「マサル大好きーっつ!」
ふたりは手を繋いで仲良くコンビニへと出掛けた。
マサルは毎日郵便受けを覗いたが、採用通知は来なかった。
そして3日後、不採用の通知が届いた。
マサルはすぐに人事担当に連絡をした。
「どうして不採用なんですか?」
「君、高校は出ていないんだよね? ウチでは無理だよ」
「だって採用条件には学歴不問って」
「悪いがそういうことだから」
電話は一方的に切られてしまった。
マサルは不採用通知をビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
「ちくしょー! ふざけやがって!」
マサルは荒れた。
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