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第5話 花屋の女
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街角にあるいつもの花屋に寄った。
「あら神崎さん、いつもありがとうございます」
「俺たちの商売は寂しがり屋の集会所みたいなもんだからな、花があるとホッとするんだよ」
「うれしいです、そんなふうに言っていただけると。
今日はどんなお花にしますか?」
「任せるよ、アンタのアレンジはセンスがいいからな」
「お褒めいただき、ありがとうございます。
ではいつものように3,000円のご予算でお作りして構いませんか?」
「ああ、それで頼むよ」
私は毎週金曜日、この歓楽街にポツンとあるこの小さな花屋で店に飾る花を買っていた。
友理子はその花屋の雇われ店長だった。
高校生の娘がひとり、旦那はいないと言っていた。
「夫は8年前に亡くなりました。胃がんで」
彼女は笑顔の素敵な美人だが、時折見せる悲しい横顔が妙に気になる女だった。
赤いエプロンをした友理子は、テキパキと花を選んでいった。
花を包み終えると友理子が言った。
「神崎さん、相談があるんですけど」
「何だ?」
「私を神崎さんのお店で働かせていただけませんか?」
私は友理子の意外な申し出に少し戸惑った。
「キャバクラでか?」
「いえ、デリの方で」
店としては友理子のような女が来てくれれば大助かりだが、なぜか私はそれを素直には喜ぶことが出来なかった。
「風俗で働いた経験はあるのか?」
「ありません」
「大丈夫なのか? 知らない男と寝るんだぞ」
「耐えて見せます」
「デリに来る女はな、それぞれに事情を抱えてやって来る。
殆どの目的はカネだ。アンタもそうか?」
「お恥ずかしい話ですが、もう限界なんです。
何とかしないと・・・」
「辛い仕事だぞ?」
「覚悟はしています」
「わかった。じゃあ面接をするから俺の事務所に来てくれ、場所はわかるか?」
「はい、椿ビルの3階でしたよね?」
「そうだ、じゃあ早い方がいいだろう。仕事が終わったら俺の携帯に電話をしてくれ」
「よろしくお願いします」
私は名刺を友理子に渡すと、花を携えて店に向かった。
友理子が事務所にやって来た。
窓のないデリヘルの事務所には経理事務の小野寺、女の子のスケジュール管理をする電話番の香織と君江がいた。
デリのキャストは2階の部屋でそれぞれ待機させていた。
待機室には監視カメラを設置してある。
私はなるべく女の子同士を同室にはしなかった。
それは女同士のケンカや苛め、カネの貸し借りやホスト通い、中にはクスリを捌く女もいるからだ。
デリは繁盛していた。
予約の電話が引っ切り無しに鳴り響き、女の子の出入りも頻繁だった。
「はい、ホテル・ラビアンローズですね? はい、ヘネシーさんを、はい、痴女コースで90分で、はい、山本様、いつもありがとうございます。はい、30分ほどでお伺いします。
はい、202号室ですね? かしこまりました」
香織は電話を切ると、待機していたヘネシーに内線を掛けた。
「ヘネシーちゃん、ラビアンローズで山本さん、痴女コースの90分でお願い」
友理子は緊張していた。
私は友理子をパーテーションで区切られた打合せ室に案内した。
経理の小野寺が麦茶を持って入って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
小野寺は何も言わず、部屋を出て行った。
彼女は余計なことは言わない女で、いつも淡々と仕事をこなしていた。
「びっくりしただろう? 結構忙しいんだよ、それだけ世の中にはスケベな男で溢れているということだ。
この仕事だけは大昔からずっと需要がある。供給がいつも足りないのが現状だ」
「びっくりしました、こんなに依頼があるなんて」
「じゃあとりあえず、このアンケートに記入してくれ。それに基づき何点か質問するから」
「わかりました」
友理子はスラスラと書類に記入を始めた。
「これで大丈夫ですか?」
私は記載内容を確認した。
「年齢は38歳? アンタ随分落ち着いて見えるな?
悪い意味ではなく、美熟女という意味でだ。
男は癒しを求めている、つまりマザコンだということだ。でも高校生の娘がいるんだよな?
結婚は早かったのか? 初体験は中学3年、 相手は?」
「学習塾の先生です」
「そうか、経験人数はふたり、つまりその先生と亡くなった旦那だけということか?」
「そうです」
「あとは可能なプレイは顔射とごっくん以外はすべてOKと・・・。
最初はラブホとビジネスホテルだけの方がいいな、自宅は盗撮や盗聴も多いから。
給料の支払いは日払いと週払いだが、週払いの方が率はいい。
ウチの取り分は店が55%、女の子が45%だ。
オプションは全額アンタの取り分になる。
後は売り上げに応じていろんな手当が付く。
本番行為は厳禁だ、これは意外にわかるから注意してくれ。
それは客がSNS等にその事実を晒すからだ。
その場合は即クビで、給料はすべて没収だから気をつけるように。
それから闇営業をした場合は100万円の罰金。
他に聞きたいことは?」
「ありません」
「じゃあ、これから俺とホテルで研修になるが時間は大丈夫か?」
「はい・・・」
友理子は少し恥ずかしそうだった。
私は友理子をクルマに乗せ、ホテルへと向かった。
「あら神崎さん、いつもありがとうございます」
「俺たちの商売は寂しがり屋の集会所みたいなもんだからな、花があるとホッとするんだよ」
「うれしいです、そんなふうに言っていただけると。
今日はどんなお花にしますか?」
「任せるよ、アンタのアレンジはセンスがいいからな」
「お褒めいただき、ありがとうございます。
ではいつものように3,000円のご予算でお作りして構いませんか?」
「ああ、それで頼むよ」
私は毎週金曜日、この歓楽街にポツンとあるこの小さな花屋で店に飾る花を買っていた。
友理子はその花屋の雇われ店長だった。
高校生の娘がひとり、旦那はいないと言っていた。
「夫は8年前に亡くなりました。胃がんで」
彼女は笑顔の素敵な美人だが、時折見せる悲しい横顔が妙に気になる女だった。
赤いエプロンをした友理子は、テキパキと花を選んでいった。
花を包み終えると友理子が言った。
「神崎さん、相談があるんですけど」
「何だ?」
「私を神崎さんのお店で働かせていただけませんか?」
私は友理子の意外な申し出に少し戸惑った。
「キャバクラでか?」
「いえ、デリの方で」
店としては友理子のような女が来てくれれば大助かりだが、なぜか私はそれを素直には喜ぶことが出来なかった。
「風俗で働いた経験はあるのか?」
「ありません」
「大丈夫なのか? 知らない男と寝るんだぞ」
「耐えて見せます」
「デリに来る女はな、それぞれに事情を抱えてやって来る。
殆どの目的はカネだ。アンタもそうか?」
「お恥ずかしい話ですが、もう限界なんです。
何とかしないと・・・」
「辛い仕事だぞ?」
「覚悟はしています」
「わかった。じゃあ面接をするから俺の事務所に来てくれ、場所はわかるか?」
「はい、椿ビルの3階でしたよね?」
「そうだ、じゃあ早い方がいいだろう。仕事が終わったら俺の携帯に電話をしてくれ」
「よろしくお願いします」
私は名刺を友理子に渡すと、花を携えて店に向かった。
友理子が事務所にやって来た。
窓のないデリヘルの事務所には経理事務の小野寺、女の子のスケジュール管理をする電話番の香織と君江がいた。
デリのキャストは2階の部屋でそれぞれ待機させていた。
待機室には監視カメラを設置してある。
私はなるべく女の子同士を同室にはしなかった。
それは女同士のケンカや苛め、カネの貸し借りやホスト通い、中にはクスリを捌く女もいるからだ。
デリは繁盛していた。
予約の電話が引っ切り無しに鳴り響き、女の子の出入りも頻繁だった。
「はい、ホテル・ラビアンローズですね? はい、ヘネシーさんを、はい、痴女コースで90分で、はい、山本様、いつもありがとうございます。はい、30分ほどでお伺いします。
はい、202号室ですね? かしこまりました」
香織は電話を切ると、待機していたヘネシーに内線を掛けた。
「ヘネシーちゃん、ラビアンローズで山本さん、痴女コースの90分でお願い」
友理子は緊張していた。
私は友理子をパーテーションで区切られた打合せ室に案内した。
経理の小野寺が麦茶を持って入って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
小野寺は何も言わず、部屋を出て行った。
彼女は余計なことは言わない女で、いつも淡々と仕事をこなしていた。
「びっくりしただろう? 結構忙しいんだよ、それだけ世の中にはスケベな男で溢れているということだ。
この仕事だけは大昔からずっと需要がある。供給がいつも足りないのが現状だ」
「びっくりしました、こんなに依頼があるなんて」
「じゃあとりあえず、このアンケートに記入してくれ。それに基づき何点か質問するから」
「わかりました」
友理子はスラスラと書類に記入を始めた。
「これで大丈夫ですか?」
私は記載内容を確認した。
「年齢は38歳? アンタ随分落ち着いて見えるな?
悪い意味ではなく、美熟女という意味でだ。
男は癒しを求めている、つまりマザコンだということだ。でも高校生の娘がいるんだよな?
結婚は早かったのか? 初体験は中学3年、 相手は?」
「学習塾の先生です」
「そうか、経験人数はふたり、つまりその先生と亡くなった旦那だけということか?」
「そうです」
「あとは可能なプレイは顔射とごっくん以外はすべてOKと・・・。
最初はラブホとビジネスホテルだけの方がいいな、自宅は盗撮や盗聴も多いから。
給料の支払いは日払いと週払いだが、週払いの方が率はいい。
ウチの取り分は店が55%、女の子が45%だ。
オプションは全額アンタの取り分になる。
後は売り上げに応じていろんな手当が付く。
本番行為は厳禁だ、これは意外にわかるから注意してくれ。
それは客がSNS等にその事実を晒すからだ。
その場合は即クビで、給料はすべて没収だから気をつけるように。
それから闇営業をした場合は100万円の罰金。
他に聞きたいことは?」
「ありません」
「じゃあ、これから俺とホテルで研修になるが時間は大丈夫か?」
「はい・・・」
友理子は少し恥ずかしそうだった。
私は友理子をクルマに乗せ、ホテルへと向かった。
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