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最終対談

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 作品のコンセプトは雪のよう降っては来るが、書くペースが落ちて来ていた。
 それがもどかしい。

 所詮、ジャンルの順位などは当てにならないのは理解した。
 1,500ポイントを超えたら出版申請が出来るというので、すぐに書籍化されるものだとばかり思っていたが、もう何十回も申請したが返事はいつもNOだった。

 最近では審査すること自体が面倒になったのか? 3カ月以内にコンテストが予定されている対象作品は受付ないと言われた。

 私のような化石の「純な文学」が対象になる作品などない。
 つまりアルファポリスでの書籍化は不可能だということになる。
 まあ、自己満足の小説もどきではあるから当然だと言えば至極当然のことである。

 お気に入りの数が読者の感動の数だとすれば、それが私の作品への無言の酷評になっているのも事実だ。
 やはりお気に入りが何万、何十万とついている作家はすごいと思う。

 私は死に損ないの爺さんなので、異世界物とか、若い女性目線の小説も無理だ。
 そっちの経験値も低いので、官能小説もお手上げだ。

 作品が進むにつれ、自分の命が減っていく気さえする。
 もちえろん私は『幸福の王子』ではないが、自分の目や耳や鼻が剥ぎ取られ、肉体が溶かされて文字に変わっていくような気さえするのだ。
 人気のない、誰も読まない小説など書いている場合ではないが、文章を書くことを辞めることが出来ない。

 芥川賞? 直木賞? 銀座で飲んだくれている枯渇した元作家たちや、元号を決めた恋愛経験の乏しい婆さんに評価されるほど、私は落ちぶれてはいないつもりだ。
 もちろん私がほざいたところで彼らの人気は不動のものだ。

 口惜しいが、私は売れない自己満足の作家、負け犬チワワの遠吠えにもならない。

 私には「蛇にピアス」とか「蹴りたい背中」とかは書けないし、ましてや「不機嫌な果実」なんて物も書けないし、書きたくもない。

 以前付き合っていた女に瀬戸内寂聴を批判したら罵倒された。


 「何にも知らないくせに! アンタに何が分かるの!」


 私はその程度の「なんちゃってネット作家」であるということだった。
 もちろん、その女とは別れた。


 文章力が足りない? 修羅場が足りない? 苦悩が足りない? 恋愛経験が足りない?


 「お前最近、夜と昼が逆転しているぞ。
 殆ど何処へも行かず、寝ては書き、書いては寝るだけの生活じゃないか?」
 「二等航海士の頃の航海当直と同じ、ゼロヨンだよ。
 昼は12時から夕方16時まで。そして夜は零時から朝の4時までの生活。それを船乗りは「0~4ゼロヨン」と言うんだ。
 あれは結構カラダに堪える」
 「お前は自分を痛めつけないと書けないと勘違いしている。お前はドM作家か?」
 「ユーミンや桑田佳祐、中島みゆきに安全地帯。
 椎名林檎に竹内まりや、いきものがかり・・・。
 みんな地位と名声、巨万の富を得て、もう芸術を生み出すことが出来なくなってしまった。
 俺はもちろん、その足元にも及ばないがな?
 カネはあっても彼らは絶えず苦悩しているはずだ。自分の創造する芸術について。
 だがその高見を目指すには、彼ら以上にもっと自分にやいばを向ける必要がある。
 あの熊沢蕃山も言っていたじゃないか?

   
        憂きことのなおこの上につもれかし

        限りある身の力ためさん

 
 すごいよな? もっともっと不幸よ、俺に降り掛かって来いだぜ?
 まだ俺はその境地にはないよ」
 「人間には向き不向きというものがある。
 お前は固執しすぎではないのか? 自分の考えに対して?」
 「じゃあお前は俺に死ねというのか?
 ゴッホもゴーガンも生きているうちは絵が売れなかった。
 俺が死んで後、売れるような小説が書けたらそれでいいと思っている。
 たとえ現世では無理でもだ」
 「死んだ後でも無理だろうな? 今のお前の書く物では」
 「それは否定できないが、夢は追い駆ける事に意味があるんじゃんないのか?
 それを信じて努力することに価値があると俺は思う」
 「まあせいぜいがんばれよ。じゃあまたな?」
 「ああ、それじゃあまた」

 それ以来、もうひとりの俺は二度と現れることはなかった。


                  『ドッペルゲンガー』 完


 
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