★【完結】乗客のいない観覧車(作品230607)

菊池昭仁

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第2話 ツィゴイネルワイゼン

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 今度の依頼は政治家の秘書の妻からだった。


 「参議院議員の大野雄太郎を殺して下さい」
 「ではこれから申し上げる銀行口座に前金として500万円をお振込み下さい。
 入金の確認が取れ次第、仕事に着手いたします。
 完了後、残りの500万円をお振込み下さい」
 「わかりました。大野は最悪の人間なんです! 大野という男は・・・」

 ミッシェルは奥さんの話を遮った。

 「理由は結構です。人の恨みを買うような人間は生きている値打ちはありません。
 では、失礼します」




 大野は先代からの地盤を受け継いだ、いわゆる二世議員だった。
 爽やかなイケメン議員だが、中身は空っぽのお坊ちゃま議員で、表の顔と裏の顔を持った男だった。

 「神山、女だよ女。いつものホテルに用意しておけ。
 分かっているだろう? 政治家は大変なんだ、女でも抱かねえとやってらんねえ。
 この前取材に来たあのオッパイのデカい女子アナがいいな? すぐに手配しろ」
 「かしこまりました」

 
 秘書の神山はその局アナを呼び出し、大野のいるホテルの部屋に案内をした。


 「先生はこちらでお会いになるそうです」
 「困ります、先生とふたりだけで密室でお会いするのはちょっと・・・」
 「民自党の今回の内閣改造のスクープを、特別にあなただけにお伝えしたいそうです。
 ロビーでは人目がございますゆえ、ご理解下さい」

 フリーになることを狙っていた彼女は、ネタ欲しさにそれを承諾した。

 「わかりました」

 神山がドアを閉めると、すぐに女の悲鳴が聞こえた。



 1時間後、大野から秘書の神山に電話が入った。
 
 「ちょっと部屋まで来てくれ」



 中に入ると全裸のまま、女子アナが口から泡を吹いて動かなくなっていた。

 「シャブを打ったらこうなっちゃったんだよ。頼む神山、俺の身代わりになってくれ。悪いようにはしないからさ、ね、頼むよ。この通り。
 僕はこれから日本の総理になる男だ、な、神山、頼む。
 まさか忘れたわけじゃないよな? パパがお前の面倒をずっと看て来たこと。貧乏なお前が大学まで行けたのは誰のお陰だ? まさかその恩は忘れていないよな?」
 「・・・。」
 「シナリオはこうだ。神山が女子アナとここでコトをしていて彼女が自分でシャブを打った。
 お前はそれを止めようとしたが彼女はそれを無視してこうなった。
 そんなんでいいだろう? あとは磯山先生が処理してくれる。
 何しろ先生は元東京地検の特捜部長だった辞め検弁護士だからな? 安心しろ神山」
 「そんなことは、・・・出来ません」
 「神山! お前、俺を、パパを裏切るつもりか!」
 
 すると秘書の神山はきっぱりと言った。

 「いえ、そうではありません。このように処理して下さい」

 すると神山は非常口を開け、そのホテルの23階から飛び降りた。


 「そうかそうか? 死んでくれたか? その方が手っ取り早いもんな?
 流石は神山、中々やるじゃねえか?
 あ、り、が、と、さん。あはははは
 さてと、警視総監がいいかな? それとも国家公安委員長の森山か? 電話電話っと。
 ああ森山さん? 私です、大野です。先日はどうも。あのね、実はウチの秘書がちょっとやらかしまして、そう、ホントいい歳してさあ、うん、そうそう。それでね・・・」


 その事件はすべて秘書の神山がしたことで処理された。
 死人に口なしだった。

 その日は神山の、16歳になる息子の誕生日だった。



 
 国会答弁が終わり、大野はいつものようにホテルで女を貪っていた。

 「ほら、どうだ? いいだろう? いいと言え!」
 「あん、あん・・・」

 その時、チャイムが鳴った。

 「まったく誰だよ? せっかく乗って来たところなのに邪魔しやがって」

 大野はベッドを降り、ドアスコープから外を覗いた。

 「ルームサービスでございます。民自党の江花様から、これをお届けするようにと仰せつかりました」
 「江花幹事長から? ちょっと待ってろ」

 大野はバスローブを着て、ルームサービスを部屋に招き入れた。


 「何? プレゼントって? シャンパンか何かか?」
 「これでございます」

 ボーイに扮したミッシェルは自ら持参した枕を大野の顔に押し当て、頭に一発、心臓に一発、そして股間にも銃弾を撃ち込んだ。
 女は悲鳴を上げることも出来ず、失禁していた。

 
 ミッシェルは防犯カメラに細工をし、着替えてホテルを後にした。
 そしてJR新橋駅の広場へと向かった。



 ミッシェルは新橋駅のSL広場にバイオリンを持って立つと、サラサーテのツィゴイネルワイゼンの演奏を始めた。

 するとそこにはみるみる人だかりが出来、広げたバイオリンケースにはコインや札が投げ込まれていった。


 ミッシェルは涙を流してはいたが表情は穏やかで、眉ひとつ動かしはしなかった。

 電車の音と駅のホームのアナウンスが、美しいミッシェルのバイオリンの音を穢した。

 スーパームーンの美しい夜だった。


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