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 理仁と昂太がバスに乗り込んで少し。
 会社の前で乗る予定だった全員が乗り込んだのだろう。
 バスの扉が閉まり、発車のアナウンスが車内二流れる。

 自分で運転せずに車に乗るのは久しぶりだな、と理仁が考えていると隣に座った昂太が楽しげに話し掛けて来た。

「理仁先輩! 今日俺たちが泊まる場所って露天風呂あるんですね、露天風呂! 俺、長く湯に浸かるの好きなんですよね~」
「──へえ、そうなのか。俺とは真逆だな。俺は熱い風呂が苦手だからあんまり長く浸かれないんだよな」
「あー、結構長湯するのが苦手な人多いっすよね。理仁先輩もそのタイプだったのか~……宿泊施設の露天風呂には酒とか持ち込み禁止っすけど、個室とかに付いてる露天風呂は酒持って入った事ありますよ!」
「──アルコール摂取して、風呂に入るのは不味いだろう……。しかも飯沼は酒に弱いんだから今後はやめとけよ……」

 理仁が「ぶっ倒れたらどうすんだ」と呆れたように昂太に話し掛けると、昂太も笑顔で理仁に返す。

「まあ、でも一人で入る事あんまりないじゃないですか! 友達とか、彼女と来てたら彼女居ますし大丈夫っすよ!」
「──ああ、そっか……一人旅じゃねえもんな」

 始めから理仁の中では一人旅での温泉と変換されていたのだろう。
 理仁は「そうか、連れがいるもんな」と呟くと昂太が不思議そうに理仁に話し掛けて来る。

「えっ、旅行とかって友達とか彼女とかと来ません? 理仁先輩って一人旅とかの方が好きなんですか?」
「あー……、まあ……そうだな。一人旅の方が俺は好きかもしれない。一人でゆったりと好きに行動したいと思うからな……」
「ええ……理仁先輩って俺より二つ年上ですよね? これだけしか年齢変わらないのに、俺の父親みたいな事言ってる……」
「はぁ? 俺が実年齢より老けてるって言いたいのかよ?」
「やっ、違いますっ違いますって! 落ち着いてるって事ですよ!」

 自分の失言に気付いたのだろう。昂太はあわあわと慌て出すと、必死に理仁に弁解を始めるが、理仁はふん、と鼻を鳴らすとそのまま座席に深く凭れて寝てしまおうと目を閉じた。

 昂太は未だあわあわと慌てているようだが、理仁はそのまま眠気に逆らう事無く、寝てしまおうと顔の向きを窓側へと向けて寝に入った。





 理仁が寝入ってしまってからどれくらい時間が経ったのだろうか。
 隣に座っていた昂太は下手に理仁に話し掛け続けて怒らせてしまう事を避けて、自分も少しの間寝ようか、と目を瞑ったが楽しみにしていた慰安旅行に感情が昂ってしまっているのか、全く眠れる気配が無くてぱちり、と目を開けた。

 バスの車内は、小声で会話をする声や、理仁と同じく長距離の移動の為睡眠を取っている人も多い。
 席に座った状態でゴソゴソ動くのも周囲に迷惑が掛かってしまう為、手持ち無沙汰にスマホをいじる事しか出来ない。

「次にバスが止まる時には理仁先輩起きてくれるかな……」

 昔から昂太はじっと大人しくしている事が苦手だ。
 仕事中や、学生の時の授業中などは真面目に仕事なり授業を受ける事が出来るが、こうした「私生活」の時にじっとしている事は苦手だ。
 人と会話をするのも好きだし、誰かを笑わせる事も好きだし、自分が笑う事も好きだ。

 昂太がこの会社に入社して半年とちょっと。
 入社した時に自分の指導担当になってくれた理仁が、次第に暗い表情になって行くのに気付いた昂太は、初めは自分がミスばかりする新人で、理仁を煩わせているのかと思ったのだが、どうも理由は自分では無い、と気付いて、昂太は理仁がそんな表情をするのが気になっていた。

「──半年前くらいが、一番酷かったんだよなぁ……理仁先輩……」

 半年前、一番理仁の表情が強ばり、感情が抜け落ちたかのような表情を毎日していた。

「最近、何か元気そうに表情が動くようになったと思ったんだけど……」

 昂太はちらり、と眠っている理仁に視線を向けて考え続ける。
 最近は、昂太の無茶な要求にも嫌そうにしながら頷いてくれる事が増えた。
 だからこそ、昂太は以前よりも会社の先輩、後輩として距離を縮める事が出来たか、と期待したのだがさっさと眠ってしまった理仁にその考えも自分の自惚れか、と少しだけがっかりとしてしまった。
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