33 / 60
33
しおりを挟む二人並んで買い物袋をぶら下げながら、スーパーの自動扉を潜る。
「結構買っちゃいました……。大隈さんが教えてくれたレシピ、美味しそうで明日の休みに作りたくなっちゃって……」
「本当に結構な大荷物ですね……」
理仁は、ちらりと隣に並ぶ琴葉の腕に下げられた買い物袋を見て考える。
(液体物買ってたような気がするんだよな……最初はいいけど、途中から腕痺れてくるし……俺が持つって言ったら遠慮するかな……)
などとぐだぐだ考える理仁だが、重そうな袋を持っている女性を無視してそのまま歩き出せる筈が無い。
「藤川さん、そっちの袋持ちますよ。これじゃあ帰るまでに疲れちゃうでしょ?」
理仁とは反対側に持っていた琴葉の買い物袋を理仁は指差すと「はい」と自分の手のひらを差し出す。
その理仁の言葉に、琴葉はぎょっとして瞳を見開くと理仁の予想通り琴葉はぶんぶんと首を横に振って申し訳無さそうに理仁の申し出を断る。
「いえいえ! 自分でいけると思って買ったんですもの! 大隈さんに持たせてしまう訳にはいきません!」
「──でも、流石に俺も……片手が空いている状況でのほほんと帰れませんよ。──あ、それに俺以前占い師に"困った人には手助けするように"って言われてるんで。もしここで藤川さんを見捨てたら何か悪い事が起きそうで怖いんで、俺を助けると思って持たせてくれません?」
理仁は、以前会社の社員旅行で会った占い師の事を思い出し、荷物を渡して貰う為にでまかせを口にする。
占い師から告げられた言葉は全く違う言葉ではあるが、占い師と出会った事は本当だ。
そして「気を付けろ」と言われた事も本当である。
(内容は全く違うけど、……藤川さんから荷物を渡してもらう良い理由にはなるな)
「えぇっ、そんな……それ本当ですか?」
「本当です、本当。後輩が調べてくれたんですけど、SNSで結構有名な人みたいですよ」
理仁は琴葉に説明しながらポケットからスマホを取り出すと、素早くタップして画面を開く。
以前、占い師から言われた言葉が気になり過ぎて東京に戻って来てから、理仁は箱根で会った占い師の事を調べてみた。
そうしたら、昂太の言う通り有名な占い師のようで、しかも高確率で占いが当たると評判の人物らしい。
その占い師の記事特集も組まれているらしく、理仁は雑誌のホームページをスマホの画面に映し出すと、「この人です」と言葉にしながら琴葉に画面を見せた。
理仁からスマホの画面を表示された琴葉は、「ええ?」と若干信じていなさそうな表情で近付いて来ると、理仁のスマホ画面を覗き込む。
「──えっ、本当です、ね……。特集組まれてる……本当にこんな有名な占い師さんに……?」
「ええ。偶然社員旅行の旅先で会って、この占い師探し物をしてたんですよ、で、俺がそれを持ってたのでお貸ししたらお礼にちょこっと見てくれたみたいです」
「えっ、え……っ。そんな凄い偶然あるんですね……!」
「はい。俺もびっくりしたんですが……。──と言う事で、はい。その荷物貸して下さいね」
「──あっ!」
理仁は、近付いて来ていた琴葉の腕からひょい、とその買い物袋を拝借すると、琴葉が居る側とは反対側の手で持ってしまう。
「うぅ、何だかすみません……今度絶対お礼させて下さいね! 以前頂いたお土産のお礼もさせて下さいっ!」
琴葉がそう言うと、「ありがとうございます」と続けて眉を下げて笑う。
理仁も「どう致しまして」と笑い返すと、二人は帰路に着く為にゆっくりと歩き出した。
帰り道をゆったりと歩きながら、琴葉が唇を開く。
「大隈さんから頂いたお土産、とても可愛くて今では置物としての意味も担ってますよ!」
「あ、本当ですか? 良かった。あの硝子細工綺麗ですよね、猫の種類もまだ複数あるし、箸置きの種類も沢山あって」
「そうなんですね、別の種類も可愛いでしょうね……今度買いに行こうかなぁ……」
「──ふは、温泉街に旅行目的じゃなくてお土産目的で行くんですか?」
そんなにもあのお土産を気に入ってくれたのだろうか、とその喜びが大きくて理仁がついつい笑い声を零してしまうと、琴葉は恥ずかしそうに眉を寄せて「ですが」と言葉を紡ぐ。
「癒しを求めて温泉も良いですが、可愛いお土産に癒しを求めるのもアリだと思いません?」
「──ええ、そうですね。確かに藤川さんのその楽しみ方もアリだと思います」
「そうですよっ、あの映画の主人公も人とは少し違った楽しみ方をしていたり、変な楽しみ方を模索していたじゃありませんか!」
「ああ、確かに。普段と違う道を時間掛けて探索しながら帰ったり?」
「ええ、行き先を決めずにへんてこな方法で旅先を決めたり!」
「ああ、ありましたね! あれは面白そうだった。やった事も無いのに突然シュノーケリングに挑戦したり……」
「そうそう、そうです! あの主人公、泳げないのに……!」
「でもそこで海の魅力に魅了されてスキューバダイビングの資格を取ろうと必死に勉強したりするんですよね」
「本当ですよ、あの行動力、凄いんですよね! けれど、変な所でぽかしちゃったりしてっ」
理仁が進めた映画を、琴葉も気に入ってくれたのだろう。
楽しそうに話す姿に理仁も自然と笑みを浮かべる。
映画の話で盛り上がっていると、あっという間にマンションに着いてしまい、揃ってエントランスへと向かって歩いて行き、自動扉を二人は並んで潜った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
107
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる