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 まったりと映画を楽しんでいると、理仁の部屋のインターホンが軽快な音を鳴らして訪問者を知らせて来る。

「──ちっ、誰だよ……」
「一時停止しておきますね」
「あっ、ありがとうございます藤川さん」

 ついつい理仁は毒付いてしまうが、くすくすと笑う琴葉に申し訳ない、と言葉を返すと座っていたソファから立ち上がり、インターホンへと近付いて行く。

 インターホンの液晶に映った人物の姿を見て理仁は「うわ」と小さく嫌そうに声を発すると、このまま無視してやろうか、と考えた。
 が、ひょこりとその人物の横からもう一人、人影が出てきて更に理仁は眉間に皺を寄せた。

『おーい! いるのは分かってんだぞ、大隈! 開けろよ~!』
『理仁先輩~!』

 既に何処かで酒でも飲んで来たのだろうか。
 明らかに酒に酔った状態の昂太と、蒲田の姿に理仁は自分の顔を片手で覆った。

「あれ……大隈さん……飯沼さんと蒲田さんじゃないですか!」

 後ろから近付いて来たのだろう。
 琴葉がひょこり、と理仁の後ろからインターホンの液晶を見て楽しそうに声を上げる。

「ああ、もう……ゆっくりしようと思ってたんですけどね……」
「ふふ……っ、仕方ないですよ。飯沼さん、大隈さんの事大好きですもの」
「男に好かれても……嬉しくないですよ……」
「あら、それじゃあ可愛い後輩の女の子だったら大隈さんは嬉しいんですか?」
「そ、それは……っ」

 じとっ、と琴葉から半眼で睨まれて理仁がついつい言葉に詰まると、琴葉は「へえー」と冷たい声を出す。

「大隈さんも可愛い女の子が好きなんですね~まあそうですよね~」
「ちょ……っ、違っ! 俺は別に……っ」

 琴葉が玄関へと進む後を慌てて理仁は後を着いて行くが琴葉はふーん、とむすくれた表情をしながら玄関の鍵をガチャリ、と開けてしまう。

「……っ、大隈ー!? って、あれ?」
「先輩っ! あれ、お隣のお姉さんっす!」
「こんばんわ」

 蒲田と昂太ががばり、と体を乗り出して来るのを、理仁は琴葉の後ろから腹に腕を回して琴葉を遠ざけると二人に「近けえよ」と責めるような声を出した。



 昂太と蒲田の突然の訪問に、ぶつくさと文句を言いながら来てしまった物は仕方ない、と理仁は諦めつつ二人が軽く摘める物を適当にキッチンで用意していると、リビングからは楽しそうな琴葉の笑い声と昂太と蒲田の声が聞こえる。

「あー……失敗した、……ほんと失敗したわ……」

 何故、あの時に直ぐに琴葉の言葉に否定しなかったのだろう、とついつい理仁は項垂れてしまう。
 明日は土曜日だ、と言う事もあり今夜はのんびり映画でも楽しもうと話していたのだが、昂太と蒲田がやって来てしまった事でその計画もぶち壊しである。

「なーにぶつくさ言ってんだよ、大隈」
「あ? 蒲田か……」

 飲んでいたビールが空になってしまったのだろう。
 空になった空き缶を何本か手に持ち、蒲田がキッチンへとやってくると空き缶を流し台に置いて行く。

 蒲田は自分達のつまみを作ってくれている理仁の横で勝手知ったる様子で冷蔵庫を開けると、中から缶ビールを一本取り出してぷしっ、とタブを開けてそのまま呷る。

「──おい、あっち行って飲めよ……」
「いやいや、ピリピリすんなよなぁ? まあ、週末に来ちまった俺と昂太もいけねえんだけど……だってまさか藤川さんと一緒に居るなんて思わねえもん」

 何処か、からかうような蒲田の声音に理仁は気恥ずかしさをちょっぴりと感じてしまってふい、と蒲田から視線を逸らす。

「なるほどなー……会社を急いで出ていくお前を見たけど、理由が分かったわ」
「……揶揄うならつまみやんねーぞ」
「悪いって、悪い! もうあっちに行ってるから怒んなよ!」

 蒲田はケラケラと笑いながら理仁に謝罪すると、ふ、と真剣な表情になってじっと理仁の瞳を見詰めて来る。

「──、? 何だ、よ……?」

 突然変わった蒲田の雰囲気に理仁が若干たじろぎながらそう言葉を返すと、蒲田がゆっくりと唇を開いた。

「なあ……そう言えば、藤川さんと付き合い始めたのって、何が切っ掛けだったんだ……?」
「──え、? それは……」

 蒲田の言葉に返事を返そうとして、理仁はつい言い淀んでしまう。
 隣人として接する内に、良く話すようになって。映画鑑賞が趣味だ、と言う共通の趣味で仲良くなって、そして……。

「あれ……、どうやって俺と藤川さん、付き合い始めたんだっけ……?」

 切っ掛けはしっかりと思い出せるのに、付き合い始めた時期が思い出せ無くて理仁が首を捻ると、蒲田が瞳を細めて理仁に声を掛ける。

「──しっかりと、思い出した方がいいんじゃねえの?」

 蒲田は理仁に向かってそう言うと、ぽかん、としている理仁の肩を何度か叩き、リビングへと戻って行った。
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