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第三十五話

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セレスティナがジェイクと別れ、邸の玄関の扉を開けて中へと入るとキラキラとした笑顔を浮かべながら自分の両親がセレスティナを出迎えてくれる。

「セレスティナ!お帰りなさい、仲良さそうで安心したわ!」
「交際は順調のようだな、安心した」

しっかり二人に先程のやり取りを見られていたのだろう。
セレスティナは無意識の内に自分の額に手をやって先程ジェイクの唇が触れたそこを隠すと、うっすらと頬を染めながら拗ねたように唇を開く。

「──お父様も、お母様も覗き見なんてはしたないですよ」
「はは、すまないすまない。セレスティナにはなぁ……家の問題で大変な思いをさせてしまっているし、優しい婚約者が居て、楽しく過ごせているようで本当に良かった、と思ってな……」
「ええ、そうなのよ……家の事を手伝うあまり、あなた自分の事は後回しにしてるでしょう?だから、本当にカートライト子息には感謝しているのよ」
「──そんな事、……っ」

セレスティナは自分の両親の心からの笑顔にぐっ、と言葉が詰まってしまう。
本当の事なんて言えるはずがない。
これは、期間限定の婚約者の振りであって、ジェイクとは終わりが決まっている仲だと言う事をこの嬉しそうに笑う両親の前で話す事が出来ない。
セレスティナは唇を噛んで俯き眉を顰めると次の瞬間にはぱっと表情を明るくして両親に向き直る。

「──もうっ、これからは覗き見るなんて辞めてくださいねっ!」

セレスティナの言葉に両親は本当に嬉しそうに笑うと三人は和やかに笑いながら邸の大階段を上がって行った。








「これを、レーバリー男爵家へ届けて貰っていいか?」

ジェイクは、セレスティナを送り届けた後侯爵邸へと戻るなり自室へ戻り、フィオナへ手紙を認めた。
明後日の朝、学園で朝早い時間に先日と同じ別棟の非常階段に来てくれるように手紙を書いた。

「しっかりと、話をして……何とか納得してもらわないと……」

ジェイクはぐしゃり、と自分の前髪を握り締めて俯くと納得して貰う為にはどうフィオナに説明すればいいか、そしてこの間話していたような事をしないでくれ、とどう説得しようか、と考える。

「セレスティナには何の罪も無いんだ……フィオナ嬢の望みを聞けば、諦めてくれるか……?」

腰を下ろしていた椅子の背もたれに自分の背中を凭れかけさせると、ジェイクは天井を仰ぎ見る。

当日、実際フィオナと会って話してみないとどうする事も出来ないな、とジェイクは考えるとフィオナと会う事に気が重くなる。
好きだと思っていた女性と会うのに気が進まない、なんて本当に自分はフィオナを好いていたのか分からないな、とジェイクは苦笑する。


友人として仲を深め、そしてその後初めて面と向かって想いを告げられた。
侯爵家の子息としてではなく、自分を見てくれたと思ったのだ。
自分を侯爵家の子息、と言う肩書きではなく、しっかりとジェイク・カートライトとして個として見てくれた初めての人だったのだ。
だから、嬉しくてフィオナの告白を断る事が出来なかった。

けれど、それはフィオナを本当に好いていたのではなくて、ただ単に自分をしっかり見てくれる、という嬉しい気持ちを恋心だと錯覚したのかもしれない。
フィオナと会うのはとても嬉しかった、共に居るのが楽しかったが、それだけだ。
セレスティナに感じたような「触れたい」と言う気持ちも、口付けたい、と言うような欲求も何も込み上げて来なかった。

「もしかしたら、俺は最初からフィオナ嬢を……」

女性として、好きでは無かったのかもしれない。


今、本当に好きになった女性がいて始めて分かったのだ。
こんなにセレスティナに焦がれるような気持ちも、会えない時はこんなにもセレスティナを恋しいと思う気持ちも、笑った顔が愛しいと思う気持ちも、セレスティナを好きになって初めて抱いたのだ。

「本当……最低な事をしていた……」

ジェイクはボソリと小さく呻くように呟くと、明後日の事を考えながら溜息をついた。
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