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王都で国王陛下が乱心し、王太子であるウィリアムが苦肉の策で王城から脱出し、騎士団長と聖女を伴い王都近郊に発生している魔獣の処理に必死になっている時──。
場所は戻って、フィミリアのハーツウィル子爵領近くにある森。
シオンが魔獣の魔力が宿った夜光花を見付けた場所で、今まさにフィミリアの父親フレディやシオン、騎士達が数多くの魔獣に囲まれていた──。
「……っ、何故魔獣がこんなに発生している!?これはもうはぐれでは無いだろう!?」
焦ったようなフレディの声が響き、緊張に強ばった騎士の返答が続く。
「はいっ、これは最早はぐれでは無いです……!このような場所まで魔獣がっ、通常発生しています……っ」
「近くに死地があるのか!?」
「いえ……っ、シオンと共にこの付近は良く来ますが、死地など見た事がございません!」
死地が無いのであれば、まさにこれは異常事態、と言う事になる。
ハーツウィル子爵領でこのように魔獣が発生した、と言う事は国内にはもっと多くの魔獣が発生している可能性がある。
「ハーツウィル領では数年間、魔獣など発生していなかったと言うのに……っ」
魔獣の数が多く、これでは流石にシオンも簡単には倒せないだろう。
そう判断したフレディは、この数の魔獣をどう処理しようか、と考え始める。
フレディは考えつつ、ちらりとシオンの様子を伺うが、シオンは何かを考えるようにじっと魔獣を見詰めていて。
そうして、目の前にいた魔獣達からフレディ達の前方にいる魔獣達に視線を移す。
「……、雷……いや、それだと貴族様達にも被害が……燃やすと森が駄目になってしまう……フィミリア様に花を見つけられなくなってしまうし……」
「シ、シオン……?どうした……?シオンにもこの数は辛いだろう?騎士と、私達で数体程度ならば受け持てる。こちらがどう動けば良いか、もし良い案があれば──」
考えるように呟き続けるシオンに、フレディも流石にこの数はシオンにも厳しいだろうと思い、声を掛けるとシオンが「えっ?」ときょとんとしながら振り向いた。
「大丈夫です、貴族様!この場所の生態系を保ったまま、この魔獣達を倒すにはどうすれば良いかと考えてまして……今、良い方法を思い付きましたので問題無いです」
けろり、と何でもないように答えるシオンに、フレディが呆気に取られる。
問題無い、と言ったのだろうか、とフレディが自分の耳を疑った瞬間。
シオンの周囲から突然冷たく凍えそうな程の冷気が迸り始める。
「凍らせてしまってから、一体づつ対処すれば問題ありませんね」
「──……っ」
シオンがそう告げた瞬間、耳に甲高い音が響き、あまりの冷気にフレディも、騎士も一歩後退る。
そこで、フレディはふと疑問が浮かぶ。
魔獣は、知性も無く自分の視界に入ったものに手当り次第襲い掛かる生き物だ。
それなのに先程からフレディ達がこの場所に到着し、魔獣達に囲まれたものの魔獣がフレディ達を襲い掛かる気配が無かった。
じりじりと間合いを保つように、ただ一人を警戒するようにじっと見詰めていた。
魔獣達は、そのただ一人。シオンだけを見詰めていて。
(魔獣は、知性が無いと聞いていたのに──……)
知性は無くとも、本能だろうか。
自分達を屠る程の力を持ったシオンを、まるで警戒するかのようにじりじりと距離を保っていたのだ。
そうして、今。
シオンから強大な魔力が溢れ、周囲が凍え、魔獣達の足元が凍り付き始める。
あまりの寒さに、フレディや騎士達が白い息を吐き出し、目の前の光景に目を見開く。
シオンが軽く右手を持ち上げ、その手のひらを魔獣達に向けた瞬間──。
一瞬でシオンの少し目の前、その場所から魔獣達、数十体が一瞬で氷漬けになった。
呆気なく魔獣達はその場で氷漬けになり、一体、また一体と時間差で魔素を放ちながら消失していく。
シオンは小走りで消失した魔獣の下に行き、魔素を浄化していった。
その様子を呆然としつつフレディが見詰めていると、シオンがぽつりと言葉を零した。
「魔獣がこんなに増えて来ているのでしたら、俺だけじゃあ対処が間に合わないな……。捕まっていた仲間が見つかればいいんだけど……」
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