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シオンが倒した魔獣の最後の一体の魔素を浄化し終わり、ふう、と息を吐き出してくるりと振り向いた。
フレディ達はシオンから離れた場所で硬直したままで、その様子にシオンは首を傾げる。
「貴族様。魔素を浄化し終わりましたよ。もう付近に魔獣の気配も無さそうです……!」
「あ、ああ──そうか。ありがとう、シオン……」
フレディはシオンの言葉に何とかお礼を返し、そして自分が連れて来ていた騎士達にちらりと視線を向ける。
誰も皆、シオンの規格外の力に目を見開き、驚いている様子で。
フレディは背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
(不味い、な……。この騎士達は何れ王都に戻る……。人の口に戸は立てられない……。シオンの噂は徐々に広がって行くかもしれん……。我が領地に規格外の力を持った人間が居る、と言う事が知られれば……陛下に知られてしまえば良くて軍事的目的、最悪の場合は謀反を企てている、と捉えられてしまう……反逆罪の罪に問われてしまう)
強大過ぎる力は時と場合によって毒となる。
魔獣を一瞬で屠る能力があり、そしてシオンは聖女にしか出来なかった魔素を浄化する事が出来る事が出来る唯一の人間だ。
(だが、陛下にはシオンの事を事前に報告している……。事前にお伝えしているのだから、罪には問われない、だろう……)
フレディの後ろで戸惑い、ざわめく騎士の気配が感じ取れてフレディはシオンを呼び戻した。
これ以上規格外のシオンの力を見られてしまうのは不味いかもしれない。
「シオン。付近に危険が無いのであれば、邸に戻ろうか……」
「分かりました、貴族様」
ぺこりと頭を下げてフレディに近付いて来るシオンにフレディはまた頭を悩ませる事になる。
「お帰りなさい、魔獣は倒せましたか?」
「ああ。シオンの大活躍で問題無く処理出来たよ。……ラティシア少し相談があるんだが……いいかな?」
「──?分かりましたわ、あなた。フィミリア。少し私達は席を外すけれど大丈夫かしら?」
邸に戻ると、フィミリアと彼女の母親ラティシアがフレディ達の帰りを待っていたようで。
無事な姿を確認するとほっと安心した表情を浮かべた。
フレディはラティシアと話があるらしく、その事を聞いたラティシアはフィミリアに声を掛けた。
「ええ、大丈夫です。大事なお話があるのでしょう?私はシオンさんと一緒にサロンに居ますね」
フィミリアは皆の一番後ろに居たシオンに声を掛け、サーシャとミアと一緒にサロンに向かう。
共に魔獣の討伐に出ていた騎士達はシオンを見て「凄いな」だとか「あの力は何だ?」と話しながら邸に戻って行く。
その後ろ姿をフレディは難しい顔をして見詰め、ラティシアに話しかける。
「──思っていたよりも早く王都に戻る事になるかもしれん」
「え……?けれど、フィミリアはまだ療養が必要ではないの?王都に戻れば社交に参加が必要になってくるわ……。婚約も解消したのだから、噂話の中心になってしまうし、やっと邸の男の人達に慣れたばかりじゃない?今戻るのは……」
眉を顰めるラティシアに、フレディも分かっていると言うように頷く。
「ああ。だが、そうのんびり構えている時間が無いかもしれない……。第二師団の騎士達もそろそろ王都に戻るだろう?そうすればシオンの魔法の力もきっと王都に広まるだろう」
「……っ!」
「大量の魔獣を一人で屠る程の力を持っているシオンを、一子爵家が保有していてはきっと反逆の意思有り、と思われる……。シオンを保有、などと言いたくは無いが……あれだけの力を持つシオンは最早兵器のようなものだ。魔法を使用されては、対抗手段を持たないただの人間である我々はシオン一人に簡単に制圧される恐れがある」
「そんな……。シオン、あの子も辛い目に合って来た子なのに……政治の道具にされてしまうの……?」
「シオンを子爵領で匿うのも時間の問題、だと言う事だ……。それを踏まえて、私は先に王都に戻り、陛下に謁見を申し込もうと思っている」
今回、魔獣が子爵領に発生した件も報告したいしな、とフレディが口にして、ラティシアは眉を下げたままフレディの言葉に、当主の決定に従うしかない。
「ここがこんな事になっているのだから、王都にもなんらかの混乱が招かれている可能性もあるしな……私の目で確認してくるよ」
「あなたの決定には従うけれど……本当に無理だけはしないでね?」
「ああ、大丈夫だよ」
ラティシアと話し合ったフレディは、数日後に王都に戻る第二師団の面々と共に王都に出立する事を決めたのだった。
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