31 / 80
連載
第八十五話
しおりを挟む「──ノルト……!?」
ランドロフは、ノルトの言葉に咎めるような視線を向けるが、ノルトを含めカーティスやネウスからもじっと静かに視線を向けられて言葉に詰まる。
「私、に家族を裏切れと言うのか……?」
ランドロフの悲痛な声にノルトはぐっと辛そうに眉を寄せると小さく「ああ」と呟く。
ランドロフは長く息を吐き出すと、腰掛けていたソファに力を抜いたように背中を預けた。
考え込むように自分の額に手を当て、じっと黙るランドロフを気遣うようにミリアベルは視線を向ける。
──どんどんと大きな話しになってきている。
ミリアベルは自分がこの場に居るのが何だか場違いなような気がしてきてしまい、気持ちが落ち着かない。
この場の緊張感に耐え切れず、無意識の内に応接室の窓の方向へと視線を向けて、小さく目を見開いた。
そして、そこにここに近付いて来る人影を見て小さく声を上げる。
「──え?」
ミリアベルの小さな驚きの呟きに反応したネウスが、「何だ?」と声を出しながらミリアベルの視線を追うと、見知った顔の男がこちらに近付いてくるのを見てノルトに視線を向ける。
「──ノルト……話の途中で悪いが客人みたいだぞ」
「──何だと?」
ネウスの言葉に、ノルトは訝しげに呟くと腰掛けていたソファから立ち上がる。
室内に漂っていた緊張感が霧散して、カーティスとランドロフもネウスの視線の方向へと顔を向けると不思議そうな表情を浮かべた。
ノルトは、この魔道士団の宿舎に近付いて来る男の名前をぽつりと呟いた。
「──ラディアン……?何でここに?」
宿舎に到着した魔法騎士団の団長、ラディアンはノルトとネウスへの面会を求めているらしく、魔道士団の団員が遠慮がちに応接室へとやって来てその旨を伝えに来た。
ノルトとネウスは何故ラディアンが自分達に会いに来たのか分からずお互いに視線を交わすとこの場に通していいかランドロフに確認する。
「──第三王子。魔法騎士団の団長、ラディアンが面会を求めているそうです。一先ずこちらに通しても宜しいでしょうか?」
「ああ……そちらがそれでいいのであれば、私はそれで構わないが……」
ノルトから声を掛けられ、ランドロフは戸惑いつつも頷くと、ノルトはテキパキと団員へと指示を出し、暫くするとラディアンが応接室へとやって来る。
こんこん、と応接室の扉がノックされてノルトが返事をすると扉からラディアンが姿を表した。
「──っ!」
ラディアンは室内にいるランドロフ、第三王子の姿を見て驚きに目を見開くとすぐさま跪き頭を下げる。
「殿下がおられるとは思わず、大変失礼致しました……!」
「いや、畏まらなくていい。非公式な場だ、楽にしてくれ」
ランドロフが柔らかく微笑み、ラディアンへと声を掛けると姿勢を正したラディアンが躊躇いがちにノルトへと視線を向ける。
ラディアンから視線を向けられたノルトは唇を開く。
「──それで、ここに来ると言う事は何か起きたのか?どうした?」
ノルトの言葉に、ラディアンはちらりとネウスに視線を向けると困ったように唇を開く。
「それ、がな……魔法騎士団が帰還してから、臨時団員達が騒いでる……。魔の者の王であるネウス様が連れて行った奇跡の乙女を返せ、と騒ぎ、暴動が起きそうだ」
「──は?そんな、暴動何かが起きようが、正規団員達で充分抑えられるだろ……?」
ノルトが「何を言ってるんだ?」と言うようにラディアンにそう告げるとラディアンは困ったように首を横に振る。
「いや……、武力ではいくらでも抑える事が出来るが……何と言うか、その暴れ方が異常でな」
「異常、だと……?」
「ああ、手間取らせて悪いんだが……取り敢えず一度確認して欲しいんだ」
奇跡の乙女が姿を消した事により暴れ出す臨時団員達。
その言葉を聞いて、ミリアベル達はその暴れている団員達が奇跡の乙女の信者達であろう事に考えが行き着く。
ノルトは面倒くさそうに溜息を吐くと「仕方ないか」と呟くとソファから立ち上がる。
「──信者達が暴れている、と言うのであれば制圧が必要だ。ランドロフ殿下、暫し席を外しますが宜しいでしょうか?」
30
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。