あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第八十五話

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「──ノルト……!?」

ランドロフは、ノルトの言葉に咎めるような視線を向けるが、ノルトを含めカーティスやネウスからもじっと静かに視線を向けられて言葉に詰まる。

「私、に家族を裏切れと言うのか……?」

ランドロフの悲痛な声にノルトはぐっと辛そうに眉を寄せると小さく「ああ」と呟く。



ランドロフは長く息を吐き出すと、腰掛けていたソファに力を抜いたように背中を預けた。

考え込むように自分の額に手を当て、じっと黙るランドロフを気遣うようにミリアベルは視線を向ける。

──どんどんと大きな話しになってきている。

ミリアベルは自分がこの場に居るのが何だか場違いなような気がしてきてしまい、気持ちが落ち着かない。
この場の緊張感に耐え切れず、無意識の内に応接室の窓の方向へと視線を向けて、小さく目を見開いた。
そして、そこにここに近付いて来る人影を見て小さく声を上げる。

「──え?」

ミリアベルの小さな驚きの呟きに反応したネウスが、「何だ?」と声を出しながらミリアベルの視線を追うと、見知った顔の男がこちらに近付いてくるのを見てノルトに視線を向ける。

「──ノルト……話の途中で悪いが客人みたいだぞ」
「──何だと?」

ネウスの言葉に、ノルトは訝しげに呟くと腰掛けていたソファから立ち上がる。
室内に漂っていた緊張感が霧散して、カーティスとランドロフもネウスの視線の方向へと顔を向けると不思議そうな表情を浮かべた。

ノルトは、この魔道士団の宿舎に近付いて来る男の名前をぽつりと呟いた。

「──ラディアン……?何でここに?」






宿舎に到着した魔法騎士団の団長、ラディアンはノルトとネウスへの面会を求めているらしく、魔道士団の団員が遠慮がちに応接室へとやって来てその旨を伝えに来た。

ノルトとネウスは何故ラディアンが自分達に会いに来たのか分からずお互いに視線を交わすとこの場に通していいかランドロフに確認する。

「──第三王子。魔法騎士団の団長、ラディアンが面会を求めているそうです。一先ずこちらに通しても宜しいでしょうか?」
「ああ……そちらがそれでいいのであれば、私はそれで構わないが……」

ノルトから声を掛けられ、ランドロフは戸惑いつつも頷くと、ノルトはテキパキと団員へと指示を出し、暫くするとラディアンが応接室へとやって来る。

こんこん、と応接室の扉がノックされてノルトが返事をすると扉からラディアンが姿を表した。

「──っ!」

ラディアンは室内にいるランドロフ、第三王子の姿を見て驚きに目を見開くとすぐさま跪き頭を下げる。

「殿下がおられるとは思わず、大変失礼致しました……!」
「いや、畏まらなくていい。非公式な場だ、楽にしてくれ」

ランドロフが柔らかく微笑み、ラディアンへと声を掛けると姿勢を正したラディアンが躊躇いがちにノルトへと視線を向ける。
ラディアンから視線を向けられたノルトは唇を開く。

「──それで、ここに来ると言う事は何か起きたのか?どうした?」

ノルトの言葉に、ラディアンはちらりとネウスに視線を向けると困ったように唇を開く。

「それ、がな……魔法騎士団が帰還してから、臨時団員達が騒いでる……。魔の者の王であるネウス様が連れて行った奇跡の乙女を返せ、と騒ぎ、暴動が起きそうだ」
「──は?そんな、暴動何かが起きようが、正規団員達で充分抑えられるだろ……?」

ノルトが「何を言ってるんだ?」と言うようにラディアンにそう告げるとラディアンは困ったように首を横に振る。

「いや……、武力ではいくらでも抑える事が出来るが……何と言うか、その暴れ方が異常でな」
「異常、だと……?」
「ああ、手間取らせて悪いんだが……取り敢えず一度確認して欲しいんだ」

奇跡の乙女が姿を消した事により暴れ出す臨時団員達。
その言葉を聞いて、ミリアベル達はその暴れている団員達が奇跡の乙女の信者達であろう事に考えが行き着く。

ノルトは面倒くさそうに溜息を吐くと「仕方ないか」と呟くとソファから立ち上がる。

「──信者達が暴れている、と言うのであれば制圧が必要だ。ランドロフ殿下、暫し席を外しますが宜しいでしょうか?」
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