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連載
第八十九話
しおりを挟む問題は、この問題をどう教会と国王陛下に認めさせるか。
いい方法がないか、と三人は話しながらランドロフとカーティスが先に戻っている応接室へと戻って行った。
応接室へと戻ってランドロフと今後の事を暫し話し、一旦今日は解散する事とした。
「──では、成る可く早く軍法会議を開くように進言しておこう。地下牢の者達への処罰を早く決めた方がいいな。そして、臨時団員達をあのような状態にした者の調査を開始しよう」
「ご協力頂きありがとうございます、ランドロフ殿下。宜しくお願いします」
ランドロフの言葉にノルトが返し、皆で宿舎の外にある馬車まで見送りに出る。
ランドロフが馬車に乗り、馬車が動き出すのを見つめながらミリアベル達はこの先この国が騒がしくなるであろう事に僅かばかりの不安を感じながら、宿舎へと戻って行った。
宿舎に戻り、皆が思い思いに過ごしている中ミリアベルは宿舎の庭先に出て自分の魔力制御の練習をしていた。
「三属性同時展開をしてしまったら、この宿舎に掛けている結界も拘束も解けてしまいそうね……ならば、全ての魔法を安定させた方が……」
ぶつぶつと呟き、自分の魔力を安定させる為に目を閉じる。
自分の中で、発動中の魔力を揺らがないように固定して新たに聖魔法を発動しようと術へと構築して行く。
簡単な照明の魔法を発動すると、自分の手のひらへとその光の玉を移動させる。
「──乱れ、はない……?」
結界と拘束の魔法に乱れが出ていない事を確認すると、ミリアベルはほっと安堵の息をつく。
今、自分で出来る事は魔力の制御や発動している魔法を解けてしまわないように制御する事だけで、皆の力に慣れないことにミリアベルは歯痒さを感じていた。
ネウスが居なければ臨時団員達の状況も分からなかったし、自分には傷を治したり拘束をしたりする以外に役に立つ事がないのではないか、と感じてしまう。
討伐任務の際も自分はベスタの元婚約者だと言うのに暴走を止める事が出来ず、能力が国に知られてしまってはいけないから、と皆に隠されて自分では何も役に立つ事が出来ていない。
「──あれだけ、練習したのに……」
このまま、また皆に隠されて役に立てないまま日々を過ごすのだけは避けたい。
何か役に立てるような、地下牢に捕らえられた人達をせめて自我を保てるくらいに治す事が出来たら、と考える。
人間の核が壊れてしまっている、とネウスは言っていたがその壊れた核はもう二度と修復する事は出来ないのだろうか。
信者化してしまった人をどうにか元に戻す事が出来ないのだろうか、とミリアベルが考えていると、背後から足音が聞こえて来てミリアベルに近付いて来る気配を感じる。
「──?」
誰だろう、とミリアベルが振り返ると、ノルトが近付いて来ていてミリアベルは驚いた。
先程までカーティスと何やら難しい話しをしていたと思ったのだが、その話し合いは終わったのだろうか。
「フィオネスタ嬢、魔力制御の練習か?」
「スティシアーノ卿。……ええ、練習しないと複数発動した魔法が解けてしまいますので……」
ミリアベルは自分に近付いて来るノルトにこくりと頷くとノルトは微笑みながらミリアベルの隣にやって来る。
「こんな事になってしまって、家にも帰す事が出来なくなってしまい、フィオネスタ嬢には申し訳ない……」
「え……っ、そんな気にしないで下さい……っ!」
申し訳なさそうに謝罪をしてくるノルトに、ミリアベルは慌てて否定する。
「無理矢理うちの宿舎に来て貰っているようなものだし……うちの団員は女性団員が少ないだろう?気が休まないんじゃないかと思って」
「いえいえ……!アラベラさんと良く一緒にお話しますし、カーティスさんも良くしてくれます、ネウス様も沢山話し掛けてくれますので、スティシアーノ卿がお気になさる事は──」
ミリアベルがパタパタと手を振りながらノルトに向かって言葉を紡いでいると、途中からノルトの表情が不機嫌そうになって来る。
眉を寄せて目を細めるノルトに、何故そんな表情になってしまったのかミリアベルが慌てていると、ノルトが面白くなさそうにボソリと呟いた。
「──フィオネスタ嬢は、いつの間にカーティスの事を名前、で……?」
その後に、低く「俺はまだスティシアーノ卿呼びなのに」と呟いているノルトに、ミリアベルは呆気に取られたように目を見開く。
「えっ、と……いつ頃か正確には覚えていないのですが……討伐任務中にカーティスさんとお話してて、名前で呼んでよ、と仰って下さったんです。多分、私が緊張で体が固まっていて、和ませる為に──」
「へえ──……」
ノルトはミリアベルの言葉を聞いて呟いた後、暫し黙り込む。
ミリアベルがどうしよう、とそわそわしているとノルトが俯くミリアベルの顔を覗き込むように視線を合わせてきて、唇を開いた。
「俺だけ、名前を呼んで貰えないのは寂しいな……ノルト、って呼んで欲しい。フィオネスタ嬢の事もミリアベル嬢、と呼んでも?」
「──っ、は、はいっ」
優しく目を細めて笑うノルトに、ミリアベルは頬を染めてこくこくと何度も頷いてしまう。
ミリアベルが頷いてくれた事に嬉しそうにノルトが目を細めた時。
宿舎の方から慌てたようにこちらに走ってくるカーティスのノルトを呼ぶ声に、ミリアベルとノルトの間に流れていた形容し難い気恥しいような空気が一瞬で霧散した。
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