あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百二十一話

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朝日が登って暫く。
ミリアベル達は目を覚ますと自室へと一度戻り、軍法会議に出席する為の支度をする。




それぞれが身支度を終えて再度訓練用の部屋へと集まると、ネウスが唇を開いた。

「それで……今日の軍法会議では元々軍規違反を犯した奴らを裁く予定だったんだよな?アイツらこっちに持って来ていいか?」
「ああ。預かってくれていてすまないネウス、ありがとう。軍規違反を犯した人間を裁くのは変わらないから連れてきて貰って大丈夫だ」

ネウスがノルトに確認すると、ノルトも頷く。

「流れとしては……討伐の際の軍規違反を先に裁き、その後に国王陛下と大司教の罪をその場で説明するだろう……。奇跡の乙女の能力を国民や貴族の前で暴けるのは次に控えている国王陛下と大司教の罪の内容について説明し易くなるだろうしな」
「──分かった。じゃあアイツらを喚び出すぞ」

ネウスがそう告げると、空間転移の魔法によりティアラとベスタ、奇跡の乙女の信者化となった面々をその場に喚び出す。

室内が眩く光り、その場に先程までは居なかった面々が姿を表すと、ミリアベルは素早く聖魔法の拘束魔法を発動する。

喚び出され、拘束された事に信者化した学院の面々はぎゃあぎゃあと騒いでいたが、ティアラとベスタは糸の切れた人形のように大人しく、ぼうっと宙を見つめていて気味が悪い。
ミリアベルはネウスに向かって視線を向けると、問う。

「──先日より、様子が大人しく……生気を感じませんが、どうかしたんですか?」
「あー……俺には分からん。ロザンナ、何か聞いてるか?」

ミリアベルの言葉にネウスも不思議そうに自分の顎に手を当てティアラやベスタに視線を向けた後、ロザンナに話し掛ける。
ロザンナはネウスの言葉にこくり、と頷くとネウスの問いに答えた。

「──はい。我が国での終わりのない戦闘訓練により、そちらの男は心を壊したようです。……少し腕や足を齧られたくらいで情けない……。女にはその様子を側で見せ続けていたようなので、自分の回復魔法が使用出来なくなった事で存在意義を見失い壊れたのでは?」

ケロリ、とそう答えるロザンナにミリアベルはぞっとした。
軽く言葉を紡いでいるが、ベスタは魔獣達の戦闘訓練の相手にされ続けたのだろう。
ネウスに捕縛され、ネウス達の国に行かされてから続いていた終わりの見えない戦闘訓練。
怪我をしても回復をして貰えず、常に痛みを感じたままそれを続けられれば精神が疲弊して壊れるのも頷ける。
ベスタは元々貴族子息だ。
幼い頃から騎士に混じり訓練をしていたような人間では無い。見習いとして魔法騎士団に属していたのだから、戦闘など慣れている筈が無く、ずっと怪我や血とは無縁の煌びやかな世界に居たのだ。
それが、毎日毎日終わりが見えない戦闘訓練。しかも、自分の為の訓練ではなく魔の者側の戦闘訓練で相手となるのだ。
好きに攻撃してくるし、人間では無い魔獣相手が殆どであれば、徐々に心が擦り減り壊れるのも頷ける。

そして、奇跡の乙女であるティアラ・フローラモは無意識の内にベスタへ特別な気持ちを抱いていたのだ。
その相手が毎日毎日傷付き血を流している姿を見せられていた。
奇跡の乙女として称え崇められていた事に少なくとも自尊心は持っていた筈だ。
討伐任務の時も「命を落とさない限り自分が治す」と豪語していた程なので自分の聖魔法の能力に自信を持っていたに違いない。
それなのに、ネウスを攻撃した際にネウスに聖魔法を発動する時の魔力の核を破壊され、聖魔法を発動する事が出来なくなっている。
いくら治癒魔法を発動したくとも、目の前で血を流し傷付いているベスタを治したくとも何の役にも立てない状態をずっと続けていたのだ。
ティアラも奇跡の乙女として周囲から称えられていた事で聖魔法の使い手としての自信が満ち溢れていた。それが、この短い期間で全て壊された。

特別視している人間を治す事も出来ず、ただただ傷付いて行く様をずっと見せられていた。
自分の存在意義を無くし、心が壊れるのも仕方ない。

だが、それだけの事をしてしまったのだ。
国に奇跡の乙女として作られてしまったのは同情に値する。
だが、それでも周りの静止を振り切り罪を犯してしまったのは自分達なのだ。

そして、ミリアベルは思う。

(私も、一歩間違えればティアラ・フローラモ嬢のようになっていてもおかしくなかったのよね……)

異常性に気付かず、今回のように大多数の犠牲を出してしまった。
これからこの国内は荒れてしまうだろう。
荒れたこの国を背負って行くのは第三王子であるランドロフである。

ミリアベルは、自分に協力出来る事はいくらでも協力しよう、と強く心で思うと軍法会議に向かう用意をしているノルトやネウスの手伝いを行う為に二人に駆け寄って行った。














軍法会議は、予想していた通り国民や貴族達の関心が高く人が多く集まり、普段使用していた王城の場所では収まりきらずに王城主催で行う舞踏会や夜会用の大ホールを臨時的に開け放ちその場に仮設的に軍法会議を行えるように場が整えられている。

こんなに、見物人が多いのか、とミリアベルは参加している人々の多さに圧倒される。

ミリアベルは今回の討伐に同行していた為、当事者達が待機する場所で呆気に取られ、そして人の多さに一抹の不安を覚えた。
このような開けた場所で、見物人が多い場所で何かが起きたら。
その不安感が足元から這い上がって来るような感覚にぞっと背筋を震わせた瞬間、今回軍規違反を犯した者達が連行されて来たようで、周囲がざわめいた。
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