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しおりを挟むリオルドの兄、マーベルの言葉にリスティアナとリオルドが顔色を悪くして二の句を紡げないでいると、共に話を聞いていたルカスヴェタが「では」と明るく声を出す。
「あと少しでタナトス領は落とされ、アロースタリーズ国が窮地に陥る手前ではあったが、今はもうその脅威は取り除かれた、と考えて宜しいですか?」
「──ええ。貴殿ら……ウルム国王女殿下、ティシア様のお陰で我が国は窮地を脱しました。……貴殿らにも犠牲が出ると言うのに、我が国への援軍、ありがとうございます」
「とんでもない。古くからアロースタリーズとは貿易を行っております。窮地に陥った隣人を助けるのは当然の事でしょう」
穏やかにマーベルとルカスヴェタが会話を行い、リスティアナとリオルドは二人が会話を進めて行く中、二人はこの度の事の顛末と、捕らえた王兄バジュラドを王都へと護送する事をタナトス領、当主であるマーベルから命じられる。
「あ、兄上……ですが兄上はどうなさるのですか? 王兄バジュラド様を捕らえ、国王陛下へのご報告はタナトス領当主であられる兄上か、捕縛した軍隊長殿が──」
リオルドが焦ってそう言葉にすると、マーベルはゆるりと首を横に振り、リオルドに視線を向ける。
「いや。私は侵攻され、多大な被害を被ったタナトス領を復興しなければ。王都までの道はタナトス領の兵士達に護衛させよう」
「それに私も王女殿下のご指示通り、タナトス領に残り、再び帝国軍が攻め入って来るのを防がねばなりませんから。王都へとバジュラドを移送するのはお願い致します」
「それに。メイブルム嬢……。お父上のメイブルム侯爵を王都の王宮医に診て貰った方が良い。腕の良い医師に切断した足を診て貰い義足を作成して貰えば再び立って歩く事が出来るようになるだろう?」
逆に気遣うような視線と、提案を受けてしまいリスティアナは自らの治める領地が敵国に侵攻され、大きな被害を負ったと言うのに他者を思いやる気持ちを持つマーベルに心の底から感謝した。
戦の事を何も知らず、このままこのタナトス領に残っても役に立てない己は王都へ戻った方がやれる事が多々あるだろう。
リスティアナはきゅっ、と唇を噛み締めるとマーベルに向かって深々と頭を下げて感謝の言葉を述べると、座っていたソファから立ち上がった──。
タナトス領、スノーケア辺境伯の居城から王都までは馬で駆ければ十日と少し。
だが、叛逆者である王兄バジュラドを馬車で護送すれば二十日程かかる。
途中、砦で療養しているオースティンも連れて帰るとなれば更に時間は掛かるだろう。
リスティアナは、急いで王都へと戻る為に休息もそこそこに出立の準備を終えるとスノーケア邸を早足で後にする。
邸を出る前もスノーケア辺境伯であるリオルドの兄、マーベルとウルム国の軍隊長であるルカスヴェタには最後にしっかりと挨拶とお礼を告げた。
「──タナトス領での戦いは一先ず決着が着いたけれど……。私達中央貴族の戦いはこれからだわ」
「仰る通りですね、リスティアナ嬢」
ぽつり、と呟いたリスティアナの言葉に背後からリオルドの声が返って来る。
リオルドは、兄であるマーベルの手伝いの為にこの地に残る物とばかり思っていたが、リオルドはリスティアナと共に王都へと戻るらしい。
「──スノーケア卿、本当に宜しいのですか? せっかくお兄様とお会い出来たのに、お話出来たのも少ない時間では?」
「好きな女性を、大切な女性を一人で帰す事など出来ませんよ。リスティアナ嬢は私がしっかりと王都までお守りします」
「──っ」
にっこりと笑顔でさらり、とそう告げられてリスティアナは瞳を見開くと真っ赤な顔でリオルドに顔を向け、自分の唇をぱくぱくと開閉してしまう。
何か言葉を返したいのに、上手く言葉を返す事が出来ず、リオルドは僅かに頬を染めたまま「さあ行きましょうか」とリスティアナに向かって声を掛けた。
前を歩くリオルドの耳が赤くなっていて、夜の闇に包まれていると言うのに月明かりに照らされてしまったせいでしっかりとその様子を見てしまったリスティアナは赤く染まる自分の頬の熱を何とか冷ます為に手のひらで必死にあおいだ。
王都へ帰還すれば、また再び王都は騒がしく、そして混乱するだろう事が分かる。
リスティアナは強く心を持つ為にキッ、と前を見据えると前方を歩くリオルドの後を追うように駆けた。
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