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しおりを挟む「──皇女様、お呼びでしょうか?」
「カイル、少し話したい事があるから次の街に着いたら私の部屋に来てくれる?」
「皇女様のお部屋に、ですか……?」
「ええ。護衛の仕事は取り敢えずシアナに言って、彼女に回すわ。カイルは街に着いて、荷物を置いたら私の部屋へ」
シェリナリアの言葉に、カイルは若干戸惑いながらも頷くと、シェリナリアはカイルに向かって頷く。
(アルから貰ったカード……。きっとドレスト国に到着したら使う事になるわよね。カイルはアルから直接内戦の危険性があると話を聞いているのだから、彼と話した方がいいわ)
シェリナリアはそう考えると、窓から離れて行くカイルを眺めながら、この先の事に思いを馳せた。
「皇女様。本日はこの街で休息致します」
馬車で走る事数時間。
公爵邸を出てからひたすらに馬車を走らせ、次に到着したのは帝国の帝都から大分離れた場所にある大きめの街だ。
この先、何度かこう言った帝国の大都市で休憩をして、国境を越える。
そして、ドレスト国内へと入る予定である。
ドレスト国へと入ったら滞在期間が終了するまでは国外へは出られないだろう。
恐らく、ドレスト国内で監視も付けられる筈だ。
そうなる前に、カイルかシアナ。自分の信頼している人物にカードの事を話しておきたい。
シェリナリアはそう考え、一先ずカイルを自分の部屋へ呼び、アレックスから貰ったカードの件を話そうとしていた。
「分かったわ。私の部屋に案内して貰えるかしら」
「──ご案内致します、皇女様」
シェリナリアが馬車から降りれば、この街がある領地の領主だろう。
帝国のルアーノ伯爵がすっとシェリナリアへと腕を差し出す。
エスコートするつもりだろう。
シェリナリアは一瞬だけ考える素振りを見せたが、自分の腕をルアーノ伯爵の腕に乗せると「ありがとう」とにっこり微笑んで言葉を掛ける。
「ルアーノ卿、お久しぶりですわ。息災かしら?」
「お久しぶりでございます、皇女様。皆、元気にやっております」
「それは良かったわ」
その後も、世間話をしながら屋敷の中を案内され、最後にシェリナリアが一晩過ごす部屋へと案内される。
「こちらが、皇女様にお過ごし頂く部屋でございます。何かご入用の物がございましたらお気軽にお呼び下さい」
「ええ、分かったわ。案内ありがとう」
ルアーノ伯爵は一礼すると、シェリナリアから離れて行く。
そのルアーノ伯爵の後ろ姿を眺めながら、シェリナリアはふぅ、と息を吐き出した。
「仕事で忙しいのに、案内までやらせてしまって申し訳ないわね」
ぽつり、と呟いたシェリナリアの声に、側に居たカイルが直ぐさま唇を開く。
「──臣下として当然の事をしたまでです。寧ろ、皇女様のエスコートを出来てルアーノ卿は恵まれた方ですよ」
「ふふ……っ。そうだと言いけれど。──カイル、入って」
シェリナリアはそう言葉を紡ぐと、カイルに視線を向けずにそのまま部屋へと入って行く。
「……ランバード殿……」
「皇女様から聞いているわ。早くお傍に行きなさい」
「ありがとうございます」
カイルはシアナへお礼を告げると、そのままくるりと踵を返し、シェリナリアが入室した部屋へと向かい直ると扉をノックして部屋へと入って行った。
そのカイルの後ろ姿を見ながら、シアナは面倒な事になりそうだ、と溜息を付いた。
「皇女様、失礼致します」
入室の許可を得て、カイルが部屋の扉を開けると中に居たシェリナリアが振り向く。
「カイル。先ずは座って頂戴」
「──はい」
窓を向いていたシェリナリアの体がこちらに振り向き、ソファに座るよう勧めて来る。
座って話す、と言う事は話が長くなる予定なのだろう。
カイルは若干そわそわとしながらソファへ腰を下ろすと、シェリナリアもカイルの正面に腰を落ち着かせた。
「カイルをここに読んだ理由なのだけれど……」
シェリナリアがそう口火を切ると、ごそごそと何かを取り出し、二人の間に設置されているテーブルの上に"それ"を置いた。
「これは、カード……ですか?何のカードなのでしょう……?」
カイルは、自分の目の前に置かれたカードを不思議そうに見つめた後、シェリナリアに視線を向ける。
「公爵邸を出る時にアルに貰ったの。何かあれば、情報屋を頼れ、って」
「情報屋……?皇女様、こちらに触れても宜しいですか?」
「ええ。中身を確認してくれて構わないわ」
シェリナリアの許可を得て、カイルは目の前に置かれたカードを確認する。
パーティーや舞踏会の招待状のように封筒に入っており、だが招待状のように大きな物ではない。
カイル等、男性の手のひらであればすっぽりと覆ってしまえる程の大きさのそれを手に取り、封筒から中身のカードを取り出す。
取り出した面には何も書かれていなく、カイルはそのままくるり、とカードを裏返した。
「──これは」
カイルが手にしたカードの裏面には、たった一言文字が記載されている。
"黒い屋敷"
と、ただ一言書かれたその言葉にカイルは困惑するように眉を下げるとシェリナリアに視線を戻した。
カイルの視線を受けて、シェリナリアも苦笑するように笑うと軽く肩を竦める。
「それだけだと、良く分からないわよね?……けれど、アルは確かに情報屋に頼れと言ったわ。その黒い屋敷、と言う場所に情報屋が居るのか……。ドレスト国に入れば黒い屋敷が何か分かるのかしら……」
「そうですね……これだけだと何も……。ですが、アレックス様から情報屋を頼るようにと仰ったのであれば、情報屋に繋がる物でしょう……ドレスト国に入ったら私が調べてみます」
「ええ。ありがとう。この事はカイルにしか話していないわ。あちらに入ったらシアナにも話す予定なの。情報屋についてはカイルとシアナ、私だけが知っているからそのつもりで動いてね」
「畏まりました」
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