「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

15話

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「お父様、ウェンディです」
「──入れ」

 ウェンディが声をかけると、すぐに侯爵の声が返る。
 書斎の扉を開け、中に入ったウェンディはちらりと室内を確認する。
 そこには、自分の父親であるホプリエル侯爵と、何故かフォスターの姿があった。
 フォスターはウェンディが入ってきた扉付近の壁に背を預け、どこか薄笑い混じりにウェンディを見ていた。
 だが、ウェンディはフォスターの方へ顔を向ける事なく、また、彼について触れる事もせず、侯爵に向き直った。

「お呼びでしょうか」
「……ああ。今日行われる祭典最終日の観覧についてだ」
「何でしょうか」

 侯爵も、フォスターも。
 地下室に入れられてしまう前のウェンディと、僅かばかり様子が違うように見えて、侯爵は不思議そうに微かに片眉を上げた。
 フォスターに至っては、今までであればウェンディに話しかけられるのが常だった。
 嬉しそうに笑いかけられ、名前を呼ばれていたのに、今はウェンディがフォスターの姿に気付いていないような、全くの無反応。

 フォスターは自分の存在が無視された、と思い、ウェンディを睨んだ。

(何だ、この女……生意気な)

 地下室に閉じ込められてとうとう気でも狂ったのか、とフォスターが失礼な事を考えている間も、ウェンディと侯爵の話は続く。

「分かっているだろうが、最終日は専属護衛騎士の模擬戦がある。最終日の目玉競技だ。フォスターも出場するのは分かっているな?」
「──はい、存じております」
「フォスターの主人であるお前も、観覧席で己の騎士の活躍を見守る必要がある。だから、地下から出してやった。その事を忘れるな、勘違いするな」
「肝に銘じます」
「……ならば、いい。時間になったら呼ぶ。それまで部屋で支度を」
「かしこまりました、お父様。それでは失礼いたします」

 ウェンディは侯爵に頭を下げ、くるりと振り返る。
 その際、壁に背を預け不遜な態度でウェンディを見下ろすフォスターの姿が視界に入った。
 だけど、ウェンディはフォスターには一度も目を向けず、そのまま彼を素通りして部屋を退出した。

「──は?」

 まるで自分の事など見えていない、と言うようなウェンディの態度に、フォスターはついつい呆気に取られた声を上げてしまう。

 四年前──。
 前回の祭典最終日は、ウェンディが想いを込めて手作りしたアクセサリーを渡された。
 そして、心配そうな顔でフォスターに声をかけたのだ。
 「間違っても、怪我だけはしないで。でも、フォスターには勝って欲しい」と可愛らしいお願いを口にした。
 それなのに。

(今年は、この俺を素通りだと……!? いい度胸だ、あの女……!)

 びきびき、とフォスターのこめかみに青筋が浮かぶ。
 今すぐにでも追いかけて、文句を言ってやろうか──。
 そう考えていたフォスターに、侯爵から声がかかった。

「フォスター、何をしている。お前も出場の準備をしなさい」
「──っ、は! かしこまりました」

 怪訝そうな侯爵に、フォスターは深々と頭を下げて、退出の挨拶を口にしてから部屋の外に出た。

 もしかしたらウェンディが出てくるのを待っているのかも、と薄っすら思っていたフォスターは、やはり廊下にもウェンディの姿が見当たらず、怒りを覚えて拳を握りしめた。

「フォスター? 何をぼうっと立っているの?」
「──っ、エルローディア様!」

 フォスターの背後から、色気をふんだんに含んだ甘い声がかかる。

 フォスターはぱっと振り向くと、エルローディアに駆け寄った。

「どうなさったのですか? どうしてここに?」
「ふふ……模擬戦に参加する騎士様に頑張って頂きたくて」
「まさか、励ましの言葉をいただけるのですか?」

 エルローディアの艶のある唇がにっこりと笑みを浮かべる。

「ええ、そう。頑張ってね、騎士様」

 エルローディアは、フォスターに向かって背伸びをする。
 慣れたようにフォスターもエルローディアの腰に自分の手を回し、引き寄せた。

「ありがとうございます、エルローディア様」
「ふふふ」

 二人以外誰もいない廊下で、フォスターとエルローディアは何度もキスをした。
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