「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

29話

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「──大丈夫です、お体に何も異常はありませんよ」

 すっとウェンディの体の上から魔道具を退かした伯爵家の専属医は、心配そうにウェンディを見つめるヴァンとナミアに安心させるように笑いかけた。

「何も異常が無い……? だが、だがウェンディはこうして熱を……っ! 本当に大丈夫なのか!?」

 異常がないと言うのなら、ウェンディのこの高熱は一体なんなのだ、とヴァンは苦しげに顔を歪める。
 そんなヴァンの言葉に、落ち着いた様子の専属医は、言葉を返す。

「……この高熱は、今まで抑圧されていた何かが、正常に機能し始めたような……そんな印象を受けます。抑圧されてきた何かが正常に機能するため、体がその変化に順応し切れずに熱を出してしまったような……。ですが、時間の経過と共に落ち着くと思いますよ」

 専属医の言葉に、ひとまず安心したヴァンは、苦しげに眠るウェンディの傍に歩み寄り、跪いてウェンディの手をぎゅっと握る。

「ウェンディが苦しんでいると言うのに……ウェンディの苦しみを、俺が代われればいいのに……」

 ヴァンは、汗で張り付くウェンディの前髪を優しく払ってやる。

 心配そうに自分の主人に寄り添う専属護衛騎士であるヴァンを後ろから見つめていた専属医は、眩しいものを見るように目を細めた。

 ナミアは、そろそろと専属医に近付き、ここ数日感じていた違和感を専属医に零す。

「お医者様……」
「うん? 何でしょう?」
「お嬢様は、ここ数日……元の酷い専属護衛騎士と契約を解除してから……なんと言いますか……」

 首を傾げる専属医に、ナミアはちらりとウェンディとヴァンの方向に視線を向けてから、声を潜めて続けた。

「何年間も成長が止まっていたお嬢様の……、身長が伸びている、ように感じたのです……」
「そんな、事が……?」

 ナミアの言葉に、専属医も驚いたような顔を見せる。
 そして、自らも倣うようにウェンディを見て、ううんと考え込むように唸った。

「……そんな事が、実際に起きていると言うのであれば……。先程お話した抑圧された機能、とは……お体の成長の事かもしれませんね? もしかしたら、長い年月をかけて止まっていたウェンディ嬢の成長が、正常に戻ろうとしているのかもしれません」
「お嬢様の……? ならば、お嬢様は……」
「ええ、高熱が治まればもしかしたら少しずつお体が成長して行くかもしれませんね」
「──良かった!」

 ナミアは、嬉しそうに両手を胸の前で握りしめる。

 ウェンディは、ずっと成長しない自分の体に、周囲からの嘲笑に、両親から不気味悪がられる視線に、長年苦しみ、悲しんできたのだ。

 その姿をずっと傍で見守り、支えてきたナミアの感動は計り知れない。

 そんな様子を穏やかに目を細め、見つめた専属医は、ウェンディに寄り添うヴァンと、涙を滲ませるナミアに声をかける。

「熱が下がれば、ウェンディ嬢も目を覚ますでしょう。今は体が順応するために休んでいる状態かと。目が覚めたら、胃に優しく消化の良い物をゆっくりと食べさせてあげてください。ああ、あと熱で水分を失っているので、定期的に水差しから水分を補給させてあげてください」
「──ああ、分かった。わざわざこんな所までありがとう」
「お医者様、本当にありがとうございます!」
「いえいえ。それでは私は、この辺で。ないとは思いますが、万が一何かあればすぐに知らせてください」
「ああ、分かった。恩に着る」
「では、私はここで失礼しますね」

 ぺこり、と頭を下げて退室した専属医を見送ったヴァンとナミアは、苦しげに呻くウェンディの傍に居続けた。


◇◆◇

「──おい、おい。ウェンディは何をしている? 自分の義妹の晴れの舞台だと言うのに、姿も見せずに……」

 ウェンディの父、侯爵は苛立ちを隠しもせずに使用人に指示を出す。

「もうすぐフォスターとエルローディアの専属契約の儀だ。嫌がっても引き摺ってでも連れてこい」
「か、かしこまりました旦那様」

 ぺこり、と頭を下げてウェンディを連れて来るために駆け出した使用人の背中を見つつ、侯爵は溜息を零す。

 そんな侯爵にゆったりと歩み寄るエルローディア。
 エルローディアは口元を愉快そうに歪めつつ、話しかける。

「お義父様、お義姉様がお可哀想ですわ……好いていた男に振られ、契約を破棄されたのですもの……。今頃はきっとお部屋で泣いてますわ。辛気臭いお義姉様がパーティーに参加したら、台無しになってしまいます。このまま来ないでいただきたいわ」
「──それも、そうか。今日の主役はエルローディアだからな。あれは放っておこう。……フォスター! フォスター! そろそろ時間だ、準備をしなさい!」
「──はっ! ただいま!」

 侯爵はフォスターを呼びつけ、エルローディアを手招く。
 エルローディアの後ろには、口元を扇子で隠した侯爵夫人が満足そうに笑みを浮かべていた。

 パーティー会場の大ホールには、既に沢山の招待客が集まっている。
 皆、フォスターとエルローディアの専属契約が始まるのがまだか、まだかと待ちきれない様子で。

「お義父様……そろそろ……」
「ああ、そうだな」

 こくり、と頷いた侯爵は、多くの貴族達が待ち焦がれる大ホールへ姿を現したのだった。
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