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一章
30話
しおりを挟む大ホール内は、かつてないほど煌びやかに装飾されていて、食事や飲み物の種類も豊富。そこかしこで、招待された貴族達が談笑していた。
そこへ、ホプリエル侯爵と夫人。
そしてフォスターのエスコートのもと、エルローディアが姿を現すと、ホール内には溢れんばかりの歓声が上がった。
皆から羨望、嫉妬・妬みの目が向けられ、エルローディアは自分の背にぞくぞくと震えが走る。
恍惚の表情を浮かべ、集まった貴族達を心の中で嘲笑う。
(ああ、本当に気持ちいい……! 皆が、私を羨ましがり、憧れの目を! 妬みを! 嫉妬を向けてくる! この下々の人間達の前で、今日私がこの国随一の護衛騎士と契約を結ぶのね。ああ、これ程の気持ちよさはないわ!)
エルローディアは、そう心の中で叫ぶと、ちらりと隣を歩くフォスターを見やる。
エルローディアの視線に気付いたのだろう。
フォスターがとろり、と蕩けるような瞳を向けてきて、エルローディアは胸中でほくそ笑む。
(ウェンディから、この男も奪ってやった……! あんな子供みたいな出来損ないには、この男は勿体ないわ。私のように美しく、妖艶な女の隣にこの男は相応しいの)
エルローディアは、心の中の醜さなど微塵も浮かべず、フォスターに笑みを返してやる。
嬉しそうに頬を染め、破顔するフォスターに、エルローディアはもっと自分の体を寄せた。
ぎゅう、と甘えるようにフォスターの体に身を押し付け、唇が弧を描く。
集まった貴族達は、仲睦まじい二人の様子に、この専属契約も無事成立するだろうと誰もが思った。
ホールの中心部に到着し、侯爵が高らかに声を上げる。
「今日は、我が侯爵家の娘であるエルローディアと、護衛騎士フォスター・シュバルハーツの専属護衛騎士契約を見届けに来て下さり、感謝している! ぜひ、二人の記念すべき一日の証人となってくれ!」
自信に満ち溢れた侯爵の声に、再び歓声が上がる。
侯爵は、使用人が恭しく持って来た契約書類を受け取ると、エルローディアとフォスター。
両名の名前を呼んだ。
「二人とも、こちらへ。これから、契約に入る」
「はい、お義父様」
「はい、侯爵」
皆が固唾を飲んで見守る中、侯爵は慣れた様子で契約準備に取り掛かる。
ウェンディとフォスターの契約を破棄した時と同様、今度は契約を成立させるための言葉を発し、両名に視線で促した。
後は、エルローディアとフォスターが小刀で指先を切り、契約書類に血を垂らすだけ。
こんなに簡単な手順で、専属契約が結ばれるのだ。
(とうとう、この時が来たわね。……もっと仰々しく、華々しく契約の手続きをしたいけど……お義父様にこれ以上は我儘を言えないし。これで我慢するわ)
ふん、と鼻で笑うような素振りを見せつつ、エルローディアはフォスターから小刀を受け取り、自分の指先を浅く切った。
微かな痛みと共に、血が滲む。
エルローディアはそのまま契約書類に血を垂らした。
「──エルローディア・ホプリエル。フォスター・シュバルハーツ。この契約に異論は無いな?」
「勿論ですわ」
「この命が尽きるその時まで、エルローディア様を守ると誓います」
エルローディアとフォスター。
二人が答えた瞬間、契約書類から淡い光が発せられる。
観客からは「おお」とか「凄い」などと、感嘆の声が上がる。
エルローディアはにんまり、と口角を上げたまま、その時を待った──。
光がエルローディアとフォスターの体を包み込み、そして──。
──バチン!!
と、耳障りな大きな音を立てて、光が弾け、その衝撃にエルローディアとフォスターの体が激しく弾かれた。
「きゃああああっ!!」
「──ぐっ」
光が弾けた衝撃が、エルローディアとフォスターの体を襲う。
それは、物凄い痛みとなって二人の体を駆け巡った。
そして、弾かれた二人はそのまま無様に大ホールの床に派手に転倒してしまったのだった。
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