「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

31話

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「ぅぐ……っ」
「がっ」

 あまりの痛さに、二人は床にのたうち回り、呻く事しか出来ない。

 そんな二人の様子に、侯爵も。侯爵夫人も持っていた扇子を取り落とし、口をあんぐりと開けてしまう。
 そして、それは契約の記念パーティーに参加していた貴族達も同じ。
 暫し、沈黙が場を支配した。
 だが──。

「──ぷっ」
「ふ、ふふっ、ああこらっ、笑ってはいけない……っ」
「何と無様な……」

 そこかしこから、笑い声や二人を嘲笑う声が聞こえてきて。

 エルローディアは痛みに呻きながら、それでもしっかりとその声は耳に届いていた。
 羞恥や悔しさに顔を真っ赤に染める。

(酷い、酷い酷いっ! 何これっ、これって契約に失敗したって言う事なの!? 何で!? きっとフォスターのせいだわ!)

 恥ずかしさと痛みで滲む視界の中、エルローディアはフォスターの姿を探し、ギッと睨み付ける。
 フォスターはまだ痛みに呻き、床に蹲っている姿が見えた。


 契約が、何らかの理由で失敗した。
 その事を悟った侯爵は、ようやく意識を切り替え、慌ててエルローディアに駆け寄った。

「大丈夫か、エルローディア!」
「お、お義父様ぁ……体が、全身が痛いですっ」
「掴まりなさい。一旦、別室に移動しよう」

 侯爵は青い顔のまま、大ホール内にいる貴族達に顔を向け、一旦この場を離れる事を宣言し、そそくさと別室に移動した。
 蹲るフォスターを残して、ホプリエル侯爵家の面々はそそくさとその場を後にしてしまった。

 一人残されてしまったフォスターは、体の痛みに何とか耐えつつ、周囲を確認する。
 この記念パーティーに集まった貴族達は、無様に蹲るフォスターを嘲笑したり、侯爵家の面々に置いていかれたフォスターを哀れむように見つめたり。
 様々な感情の視線がフォスターに注がれている。

 このような「悪目立ち」をした事が無かったフォスターは、悔しさにぎりっと奥歯を噛み締め、よろよろと立ち上がると、侯爵達を追うように別室に向かう。

 フォスターの去り際、追うように背に声が投げられる。

「契約は失敗と言う事か──」
「何と無様な」
「これが、この国随一と謳われている騎士か……残念だな」

(どいつもこいつも、好き勝手言いやがって……! 俺は、ウェンディ嬢とは無事契約を結べたのだから、問題があるとしたらエルローディア様だ……! 俺には何の失敗もない……っ!)

 羞恥心でフォスターは顔を真っ赤にしながら、何とか足を動かし、大ホールから別室へ移った。

 記念パーティーの主役がいなくなってしまった大ホールでは、貴族達は「興醒めだな」と零しながらちらほらと帰宅する者も出始めた。
 侯爵邸には、この契約の結末を愉しんでいる者、嘲笑う者だけが残っていた──。




「ホプリエル侯爵……! エルローディア様……っ!」

 体の痛みが落ち着いたフォスターは、別室に飛び込む。
 すると、そこには悲しそうに泣くエルローディアと、そんな彼女を慰める侯爵、侯爵夫人がいた。
 二人はフォスターが部屋に入ってくるなり、責めるような視線をフォスターに向ける。

「フォスター、お前……エルローディアを拒んだのか!?」
「──は、何を……私はそのような気持ちはございません!」
「だが、エルローディアはお前に拒まれたような感覚がした、と泣いている! まさか……お前はまだウェンディなんぞに心を残しているのではないのか!?」

 部屋に入るなり突然責められ、フォスターは慌ててそれを否定した。
 あの時、契約の瞬間。
 ウェンディの事など、フォスターは微塵も思い出していなかったのだ。
 名前も、顔すらも過ぎることなどなかった。
 それなのに、こんな風に責められるのは心外だ、とばかりにフォスターは両手を振って答える。

「そのような事は誓ってございません! あの時、私はエルローディア様の事しか……っ」

 フォスターの言葉に、エルローディアが咽び泣く。

「じゃあっ、じゃあきっとフォスターは無意識の内に私を拒んだのだわ! きっと、フォスターの心の中にはまだお義姉様がいるのよ、だから私を拒んだのよ……っ」
「エ、エルローディア様! そのような事はございません! 俺はあなただけしか見ていません!」

 侯爵は、二人の言い合いに青筋を立てつつ、使用人に向かって怒声を上げた。

「──ウェンディは何をしている!? 大事な義妹の晴れの舞台だと言うのに……っ、引き摺ってでも連れて来いと言っただろう!!」
「だ、旦那様、それが──」

 侯爵に怒鳴られた使用人は、恐怖に震えながら駆け寄り、侯爵にそっと耳打ちした。
 使用人の言葉を聞くなり、侯爵は驚き目を見開く。
 そして、忌々しいと言うように吐き捨てた。

「また体調を崩したのか……! どこまでも使えぬ娘だ……っ! このように体調を崩してばかりでは、嫁いだ先で満足に子も産めぬ!」
「──嫁、ぐ? ウェンディ様は、どなたかに……嫁ぐのです、か……?」

 侯爵の言葉に、フォスターが反応する。
 ウェンディが誰かに嫁ぐなど、初耳だった。
 動揺を顕にするフォスターの姿を見た瞬間、エルローディアは悔しさに唇を震わせ、涙声を上げた。

「お義父様っ、お義父様……っ、もしかしたら、お義姉様が私を呪っているのかもしれませんっ! だから、こんな風にフォスターと契約が出来ないのですっ、きっとお義姉様は私を呪っているのだわ……! いやっ、嫌よ! お義父様、どうにかお義姉様を追い出してくださいっ」
「エルローディア……可哀想に」

 侯爵夫人が咽び泣くエルローディアを抱きしめる。

 怒りで顔を真っ赤にした侯爵は、エルローディアの言葉にも一理ある、と頷いた。

「そうだな……このままでは満足に嫁としての勤めも果たせぬ。あの出来損ないは、我が侯爵家の恥だ。……エルローディアが嫌だと言うなら、ウェンディを我が侯爵家から除籍しよう」
「うっ、うぅっ、お義父様ぁ……」

 侯爵は咽び泣くエルローディアを抱きしめ、慰める。
 抱きしめられたエルローディアは、腕の中で愉悦に顔を歪めた。
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