34 / 84
一章
34話
しおりを挟む翌朝。
朝早く目覚めたナミアは、ウェンディの眠る部屋へと向かう。
まだ、早朝とも言える時間帯。
窓の外はまだ薄暗く、太陽は殆ど姿を隠している時間帯だ。
だが、ナミアはウェンディが心配で。
熱は下がっただろうか。
苦しんではいないだろうか、と廊下を歩いていたナミアは、部屋の外──。
ウェンディの部屋の扉の横に椅子を持ってきて、座って眠っているヴァンの姿に苦笑いを浮かべた。
(ヴァン様も、お嬢様が心配で……もしかしたら、一晩中廊下に控えていたのかしら)
ナミアは、持って来ていたひざ掛けを広げ、眠るヴァンに掛けてやると、音を立てぬよう慎重にウェンディの部屋に入室した。
「喉が乾いていらっしゃらないかしら……? お水の補充をしなくては……」
呟きつつ、ウェンディが眠るベッドに近づいたナミアは。
ウェンディの姿を見て、驚愕に目を見開いた。
「──っ、お嬢様!!」
「……ん、んん?」
ナミアの声に反応したのだろう。
ウェンディの眉がぴくりと動き、顔が顰められる。
「お、お嬢様お目覚めですか!?」
「その声、は……ナミア?」
ウェンディは小さく声を零し、ゆっくりと瞼を開く。
視界に入ったのは、見慣れない天井だ。
ウェンディは何が起きているのか分からず、ぱちくりと目を瞬かせた後、ゆっくりと体を起こそうとした。
すぐにナミアが慌てたように駆け寄り、ウェンディの背中を支える。
その時、廊下からガタン! と、大きな物音が鳴った。
眠っていたヴァンが目覚めたのだろう。
「ありがとう、ナミア。──ぇ?」
けれどウェンディは、その物音に反応するよりも視界に入り込んだ自分の腕に目を見開いた。
子供らしく、ふにっとしていた肉が無くなっているように見える。
それに、何だか腕の長さが以前より明らかに違う──。
起き上がった拍子に、ウェンディの体を覆っていた布団がずれた。
自分の上半身が露になり、寝間きに隠されていた足も、丈が足りずにふくらはぎ辺りまで見えてしまっていた。
「──え? え……?」
「お嬢様、お嬢様……っ! ようございました……っ! ようやくっ!!」
「ナ、ナミア? 一体何が──」
狼狽えたウェンディが、ナミアに顔を向けた瞬間──。
「ウェンディ! 無事か──」
バタン! と大きな音を立ててウェンディの部屋の扉が開かれた。
焦ったような顔でそこに立っていたのは、もちろんヴァンで──。
ウェンディは驚いたようにヴァンを見て、そして彼の名前を口にした。
「ヴァン?」
「──……っ、失礼したっ!」
不思議そうにヴァンの名前を呼んだウェンディ。
部屋に入ったはいいものの、入口で硬直していたヴァンは、ウェンディに名前を呼ばれた瞬間、突然顔を真っ赤に染め上げ、それだけを言うと入ってきた時の勢いよりも激しく外に出て行ってしまった。
扉が閉まるけたたましい音が響き、ウェンディは頭の中に疑問符が幾つも浮かんでいる。
ヴァンの様子がおかしい。
どうかしたのだろうか──。
ウェンディは、ヴァンを追おうとベッドから足を下ろし、そこですらりと伸びた自分の足に目を見開いた。
そして、先程感じた体の違和感──。
ウェンディはそっと自分の体を見下ろす。
胸元には、今まで無かったのにふっくらとした膨らみが出現していて。
自分の手足も何だか長くなっているような気がする。
ウェンディは自分の胸元にぺたり、と手を置いて驚いたようにナミアに顔を向けた。
「ナ、ナミア……! お胸があるわ……!」
◇
鏡台の前に座り、鏡に映る自分の顔を唖然と見つめるウェンディ。
背後では、ナミアがウェンディの髪の毛を綺麗に纏めてくれている。
「これ……、本当に私なの、ナミア」
鏡に映っているのは、ウェンディの面影が確かにある。
だが、子供っぽさは全く消え失せ、ふっくらとした頬はすっきりと卵形に。
大きな蒼い瞳は子供の頃のままだが、どこか大人びたように感じる。
「ええ、ええ、ウェンディお嬢様。夢ではございませんよ?」
「信じられない、何があったの……」
突然、大人びた容姿に。
伸びた身長に、声まで子供特有の高さがなくなっている。
今、鏡に映るウェンディの姿は間違いなく十八という年齢に見合った女性だ。
「妖精姫」と呼ばれていた可憐な顔立ちはそのまま美しく年相応に成長し、誰もが見惚れ、振り返るような美女へと成長している。
ウェンディが困惑している間に、ナミアはウェンディの髪の毛を綺麗に纏め終え、着替えも済ませていたので未だに廊下に居るであろうヴァンを呼びに行った。
「お嬢様、ヴァン様を呼びますね。何があったのか……お話するのは、お嬢様の専属護衛騎士であるヴァン様からお話していただくのが良いと思います」
にっこり、と笑みを浮かべたナミアは、戸惑いつつ頷くウェンディをその場に残し、部屋の扉に向かう。
「ヴァン様、お嬢様様のお着替えも終わりましたよ。もう入って頂いてかまいません」
部屋の扉を開け、ナミアが廊下にひょこりと顔を出す。
すると、廊下で顔を両手で覆い、蹲っていたヴァンがそろそろと顔を上げた。
あれから時間が経っているのに、ヴァンの顔の赤みはまだ引いてはいない。
それも、そうだろう。とナミアは若干ヴァンに同情した。
ずっと大切に、長年想っていた相手が、可愛らしい姿から突然あんなに目も眩む程の美女に成長していたのだ。
しかも、あの時のウェンディは掛か布団が捲れ、寝間きが露になっていた。
しなやかな足がふくらはぎまで見えてしまっていたのだ。
そんな姿を見て、混乱したヴァンにナミアは憐れむような目を向けた。
「ほ、本当か……? 足はもうしっかり隠れてる……?」
「ええ、ええ。大丈夫ですよ、さあさ、お入りくださいませヴァン様」
「わ、分かった……」
髪の毛から覗くヴァンの耳はまだ赤く染ったままだが、ヴァンは表情を引き締め、ウェンディが待っている部屋の扉を開けた。
2,943
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる