「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
83 / 84
二章

16話

しおりを挟む


 誰かが、ウェンディを「妖精」と呟き。
 誰かが「妖精姫」と呼んだ。

 月明かりに照らされ、儚く幻想的な美しさを放つウェンディは、正に「妖精」と称されても間違いない。

 だが、当の本人であるウェンディもヴァンも、周囲の噂など気にせず、しゃんと背筋を伸ばし真っ直ぐ歩いている。
 そんな二人の後ろに続いているヒュフーストは、どこか懐かしげに目を細め、二人を見つめていた。

「……かつては、このように信頼し合う二人ばかりだったのにな。……嘆かわしい事だ」

 ヒュフーストは、かつて──。
 己が騙され、追放されるよりも以前の事を思い出し、懐古に浸る。
 だが、すぐにヒュフーストの瞳には恨みの感情が赤く燃え滾る。

 すとん、とヒュフーストの表情が抜け落ち、その表情は恐ろしく冷たい。

 ウェンディとヴァン。
 二人と同じ馬車から降りて来たヒュフーストにも、必然的に視線は集まる。

 周囲の貴族達は、人外の美しさを誇るヒュフーストに、皆息を呑んだ。

 ウェンディとヴァン。そしてヒュフーストが侯爵邸に入るまで、誰一人として声を発する事ができなかった。



「レックスお兄様、本日はおめでとうございます」

 着任記念のパーティー会場に足を踏み入れたウェンディとヴァン、そしてヒュフーストは真っ直ぐレックスの下に足を進めた。

 そして、ウェンディがやってくるのを見たレックスは、薄っすらと微笑みを浮かべてウェンディに向き直る。

 レックスに向かってカーテシーを披露し挨拶を行ったウェンディに対して、レックスは持っていたグラスを使用人に渡して一歩ウェンディに近づいた。

「ありがとう、ウェンディ。これからが大変だが……まあ、気負いすぎずやって行くつもりだ」

 レックスはウェンディの頭に手を乗せて、軽く撫でる。

「レックス卿、今後も我々に協力出来る事があれば、気軽に声をかけてください。本日はおめでとうございます」

 ヴァンも、自分の胸に手を当て、レックスに向かって深く礼をする。

「ヴァン、ありがとう。有難い言葉だ。これからもウェンディをよろしく頼む」
「はい。もちろんです」

 レックスの視線が、ウェンディとヴァンの少し後ろにいたヒュフーストに向く。
 彼はヒュフーストの整い過ぎた容姿に一瞬目を見開いたが、すぐに気を取り直して手を差し出した。

「ヒュフースト殿。ウェンディの魔法を見て下さっている、と聞いております。本当にありがとうございます。厳しく稽古してやってください」
「──ふん。望む所だ。ウェンディが泣いてもいいんだな?」
「ええ、もちろん。魔法の鍛錬については、ウェンディも覚悟しておりますから」

 レックスから差し出された手を握り返したヒュフーストは、少々意地悪い言葉をかけた。
 だが、レックスはヒュフーストの言葉に柔らかく笑みを浮かべ、あっさりと肯定してみせた。

 それは、ウェンディを。
 ヒュフーストを信頼しているからこそ出てくる心からの言葉だと、ヒュフーストは感じた。

「ほう。中々だな」
「──? ヒュフースト殿?」

 満足気に頷いたヒュフーストに、レックスは首を傾げる。

 だが、ヒュフーストは彼に続きを言う事なく、くるりと踵を返し、ひらりと手を振って去って行ってしまう。

「お、俺はヒュフースト殿に対して何か粗相をしてしまったのか……?」

 動揺するように瞳を揺らすレックスに、ウェンディは笑い声を上げて口を開く。

「ヒュフースト様は誰に対してもあんな感じです。だけど、お兄様を褒めて下さいました!」
「褒め……? ヒュフースト殿の言葉は褒めていたのか……?」

 全く意味が分からない、と言うように混乱した表情のレックス。

 そんなレックスを見て、ウェンディとヴァンはお互いに顔を見合せた。

 あれはヒュフーストなりの、賛辞だ。
 ある程度ヒュフーストと過ごす時間が長くなったお陰で、ウェンディもヴァンもそれが分かるようになった。

 存外、ヒュフーストは照れ屋だし、天邪鬼なのだ。
 そんな事を本人の前では決して言えないが。

「ふふっ、そうですよお兄様。ヒュフースト様に認めていただいたのです」
「あの言葉はヒュフースト様の最大限の賛辞だと思います」

 ウェンディとヴァン。
 二人からそう言われ、レックスは首を捻りつつも二人がそう言うなら、と苦笑混じりに頷いた。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

処理中です...